あっと驚くようなアグレッシブ・デザインに生まれ変わったレクサスISが登場した。源流モデルとなるアルテッツァから数えて3代目の新型レクサスISは、プレミアムクラスのDセグメントに属するスポーツセダンで、2代目と同様に企画、開発段階では常にBMW 3シリーズが基準にされた。しかし、商品企画だけではなくデザイン、社内の開発体制や、生産技術など多くの面で新たなステージに入った、変革するレクサスを象徴するクルマだと思う。
トヨタは2012年以来、「もっといいクルマづくり」を社内テーマに掲げているが、2013年4月から全社が4事業ユニットに再編され、それぞれの事業ユニットは組織的には分社化されたに等しい。レクサスに関してはこれまでの社内バーチャルカンパニーから、独立した企業へと変貌し、世界で50万台弱を販売する小さな自動車メーカーの誕生ともいえる。
レクサスISはこうした社内改革の過程のなかで登場した新生レクサスの第1号モデルなのだ。
新型ISは、まずエクステリアがこれまでのテイストとは全く変わっている。レクサスは元々「L-finesse(エルフィネス)」というデザインポリシーを掲げていた。最先端(Leading- Edge)、洗練された深み(finesse)を追求し見た目の豪華さや贅沢さを求めるのではなく、精神的な満足も追求するという理念である。しかし、2代目ISに代表されるように、従来のデザイン手法はわかりにくく、存在感に欠け埋没するという反省と、レクサスのオーナー層の高年齢化傾向に風穴を開ける必要があったのだという。だから、新型ISは思い切り変わる必要があったのだ。
エクステリアでは、これまでより強い抑揚が付けられ、ボディサイドはショルダー部のプレス面が左右方向に張り出し、ボディ側面の底部から後方に向かって跳ね上がるラインが組み合わされ、新しいクルマであることを主張している。またフロントマスクは複雑な凹凸と、新しいシンボルといえるアローシェイプのデイライトが存在感を主張している。いずれにしても見る人にとって好き嫌いがはっきり分かれるデザインの方向性を選んでいる。
一方で、インテリアはそれほど飛躍したものではない。F SPORTだけに専用装備される高コストの可動リング式液晶メーターは斬新だが、それ以外はオーソドックスな感じだ。センターコンソールに設置された静電タッチ式のエアコン温度コントロールスイッチは指先を上下に動かすタイプなので、ダイヤル式より優れているとはいえない。
また、インテリアの細部の作り込み、仕上げ、例えばグローブボックスの開閉や内部のできばえ、ドアやダッシュボードのトリムのクオリティ感はプレミアムクラスのクルマとしては今一歩という感じだ。
ドライビングポジションは従来より少し着座位置が下げられ、ステアリングホイールはよりドライバーに正対する位置にされており、このあたりはスポーティセダンという主張を感じ取ることができる。センターコンソール部の左右幅が広く、ドライバーズシートは、よく言えばタイトな感じだが、全幅が1810mmというボディサイズであることを考えると、ちょっと狭く感じる。
新型ISは、V6型3.5L搭載のIS350、V6型2.5 L搭載のIS250、そして2.5Lの直列4気筒エンジンを搭載するハイブリッドモデルのIS300hの3機種で、それぞれにベースモデル、バージョンL、スポーツグレードのF SPORTという3種類が設定されている。IS350は318psとスポーツセダンにふさわしい動力性能を持つが、IS250は215psと1.6tクラスの車両重量ではやや控えめで、6速ATである点も8速ATのIS350と比べると見劣りする。ISのコンセプトから考えるとやはりIS350がメインモデルといえる。ただし、ダウンサイジングコンセプトではないため、燃費は10km/Lと競合車と比べて苦しいところだ。
一方、システム出力220ps、燃費が23.3km/Lのハイブリッドモデルは当然ながら燃費は傑出している。このIS300hはヨーロッパの同クラスのターボディーゼルをターゲットに開発され、それらを上回る燃費としたことに存在意義とされる。そしてこのモデルが設定されているのでIS350、IS250にはあえて燃費狙いのアイドリングストップなどは装備しないという割り切りとなっているわけだ。
新型ISの受注状況ではIS300hが7割を占めていることから、やはりこのクラスでも燃費指向は根強いし、新型ISの実際のメインモデルはIS300hということになる。しかしながらこのハイブリッドユニットはクラウンのものと同じで、ISならではのチューニングがなされているわけではない。確かに加速のリニア感はあるが、エモーショナルな感覚やスポーティさは希薄な気がする。
それに対してガソリンV6型エンジンは、サウンドクリエーターが演出する加速時の吸気共鳴音、身体に感じる加速GなどはISのキャラクターにマッチしている。
ISのシャシーは、ラックアシスト式電動パワーステアリングの同軸モーターのラック駆動部の摩擦抵抗の低減が図られ、同形式を採用している他モデルよりはフィーリングが向上している。またこの新型ISから本格採用されている、ボディのキャビン部分へのスポット溶接+レーザースクリュー溶接、つまり溶接ポイント間隔の縮小・多点化と熱硬化タイプの構造用接着剤の併用により、剛性感が向上していることがアピールポイントになっている。実際に、そのフィーリング、プレミアムスポーツセダンらしい感覚は低速の常用域でも体感することができる。
こうした新技術の効果は、ボディの微振動の減衰特性が高まることと剛性感が得られるということに尽きる。
もっとも、こうした技術はヨーロッパやアメリカのプレミアムカテゴリーのクルマにはすでにかなり前から採用されており、スポット溶接、レーザーシーム溶接、接着剤が適材適所で採り入れられている。日本でこうした技術の採用が長らく困難だったのは製造工場に制約が多すぎたためで、スポット溶接以外の方法でのボディの接合は、工数が増大することから導入が難しかったわけだ。
やはりこうした技術がようやく実現したのは「もっといいクルマづくり」というスローガンと、レクサス・カンパニーの独立が大きな引き金になったのだろうし、プレミアムカーを造るからには大量生産車とは異なる製造手法が必要なことに気付き始めたということだろう。
グレード別の乗り味は、F SPORTがスポーティさを強調し、特に後輪操舵を含むLDH(レクサス・ダイナミックハンドリング)を備えたIS350 F SPORTがスポーティな走りでのフラッグシップとなる。一方、バージョンL、ベースグレードはややラグジュアリー方向のセッティングで走りと快適さのバランスがよく取れていると思う。
レクサスとして目指す走りは、ドライバーの意のままに反応する気持ちよい運動性能と快適さの両立だろうし、その意味では新型ISはかなり高いレベルに仕上げられている。しかし、同時にプレミアムDセグメントらしいどっしりした安定感、ドライバーの手の平に伝わって来る走りのインフォメーションなど、身体に伝わるもっと濃いメッセージが欲しいと思ったのも事実である。もうひとつ、先進的なドライバー支援システムなどの標準装備化も急務なはずだ。