レクサスのフラッグシップ エンジン「LC500用 2UR-GSEエンジン」を知る

レクサスのフラッグシップ クーペ「LC500」に搭載されているのが5.0L V型8気筒の2UR-GSE型エンジンだ。このV8エンジンはすでにレクサスのIS-F、RC-F、GS-Fなど「Fシリーズ」に搭載されている高出力スポーツ エンジンだ。

レクサス LC500
レクサス LC500

同じ排気量の系列エンジンとして2UR-FSE型もあり、こちらはレクサスLS600h用、つまりハイブリッド システムと組み合わせているが、2UR-GSE型は高出力タイプと位置付けられ、ヤマハが開発を担当している。レクサス用、言い換えればトヨタのフラッグシップ エンジンという見方もできるが、果たしてどのような技術が投入されているのだろうか?

■2UR-GSE型のアウトライン

まず最初に、このエンジンはトヨタのV8を示すUR型系で、UR型系は1UR-FE型/1UR-FSE型(4.6L)、2UR(5.0L)、3UR-FE型(5.7L:北米用タンドラ、北米用セコイア、北米用ランドクルーザー、LXに採用)という3種類の排気量が設定されている。また5.0L V8の2UR型はレクサスLSでハイブリッドと組み合わされる燃費指向の2UR-FSE型と、高出力スポーツ エンジンの2UR-GSEだ。最大排気量の3UR-FE型は低回転トルク型となっている。

2UR-GSE型エンジン
2UR-GSE型エンジン

2UR型はボア×ストロークが94.0mm×89.5mmで総排気量は4968cc。V8エンジンとしては一般的な90度V型となっている。気筒あたり4バルブ/チェーン駆動で、コンパクト・ペントルーフ型燃焼室を持ち、圧縮比は12.3。燃料はプレミアムガソリン/エタノール10%以下/バイオエタノール燃料に対応している。

2UR-GSE型エンジン諸元表

2UR-GSE型エンジン特長

2UR-GSE型エンジン センサー配置

2UR-GSE型エンジン センサーリスト

燃料噴射はD4-S(Direct injection 4-stroke gasoline engine Superior version)、つまり直噴/ポート噴射併用式だ。また冷間始動時には触媒の暖機を促進するために、成層燃焼による希薄燃焼を行なうなど、フォルクスワーゲンのTSI、TFSIエンジンの制御と似ている。

D4-S噴射

ポート噴射は、低負荷・低回転時と高負荷、高回転時に直噴と併用で使用される。最高燃圧18気圧の直噴インジェクターは燃焼室側面からピストン冠面に向かって噴射するウォールガイド型で、ドイツのV8エンジンが採用している燃焼室上部中央から噴射するスプレーガイド型とは対照的だ。DS-4のメリットはコストが抑えられ、ロバスト性にも優れているとされる。また、将来的なPM2.5規制を考えるとD4-Sはよりポート噴射の使用域を拡大できる可能性も備えている。スプレーガイド型の場合は、燃料圧力の高圧化により対応できるとされている。

2UR-GSE型エンジン空燃比

■アトキンソンサイクルを採用

2UR-GSE型エンジンはハイパワーを追求したスポーツ エンジンとされるが、燃費性能も両立させるために、軽負荷時にはアトキンソンサイクル運転を行なうようになっている。そのため、吸気側のカムシャフトには電動式の可変バルブタイミング機構(VVT-iE)を装備する。

2UR-GSE型エンジン カムシャフト

2UR-GSE型エンジン カムシャフト2

このシステムはバルブタイミング制御に電動モーターを使用しているため、可変範囲の拡大と高速作動、作動領域を低温、低回転域まで拡大できるのだ。なお排気側は一般的な油圧式の可変バルブタイミング機(VVT-i)を装備している。

このため、低速、軽負荷時には吸気バルブが遅閉じし、高膨張比運転を行なう。圧縮行程が始まる初期(ピストンが上昇し始めるとき)にはシリンダー内に吸入した空気を一部インテーク マニホールド側に戻し、圧縮の開始を実質的に遅らせることで燃焼後の膨張比を高くしている。こうした高膨張比運転により燃費を高めているが、その一方で異なる考え方で開発されるV8ダウンサイジング ターボエンジンに比べトルクが低いのが実情だ。

もちろん加速時、高速走行時など負荷が高まるとバルブタイミングは通常の運転となり理想空燃比での燃焼が行なわれる。

■シリンダーヘッドとクランクケース

シリンダーヘッドは、典型的なコンパクト ペントルーフ型で、バルブ挟み角は25.6度。ロングリーチ式の点火プラグは燃焼室中央に配置され、ポート インジェクターは吸気ポート上側に、直噴インジェクターはポート下側に配置されている。吸排気バルブともに高価だが軽量なチタン製バルブを採用している。

2UR-GSE型エンジン シリンダーヘッド

2UR-GSE型エンジン シリンダーヘッド

2UR-GSE型エンジン 動弁断面

吸気チャンバーとインテーク マニホールドはアルミ鋳造の一体型。チャンバー入り口までの吸気ダクトは2系統式で、低負荷では短い吸気経路となり、高負荷では車体前方からの外気吸入が行なわれる。なおスロットルバルブはシングル。迫力ある吸気音を演出するための吸気サウンドクリエーターも装備されている。

2UR-GSE型エンジン バルブトレイン

バルブ駆動は2ステージ チェーン式で、バルブはローラーロッカーアームによって作動する。このロッカーアームには油圧ラッシュアジャスターではなく手動調整式の固定アジャスターを採用している。理由は高回転性能を追求したためだ。2ステージチェーンは、1段目はクランクから吸気カム、2段めは吸気カムが排気カムを回転させる方式だ。

2UR-GSE型エンジン ブロック

クランクケースは90度V型で、鋳ぐるみの鋳鉄ライナーを採用したアルミ製だ。フラッグシップ エンジンとしては、同カテゴリーのV8エンジンがそうであるように、ライナーレスの全アルミ製が望ましいところだ。ライナーレス アルミ クランクケースは、当然ながら軽量で、冷却性や鋳鉄ライナーの厚みがない分だけコンパクト化できるが、アルミのシリンダー内面の表面硬化加工、オイル潤滑性を高めるための加工処理が必要で、それだけ量産性は低い。量産性を考えると鋳鉄ライナーを採用することになる。

2UR-GSE型エンジン ブロック2

2UR-GSE型エンジン ブロック3

各ボア間にはドリル穴を設け、冷却水通路を確保して熱の影響を受けやすいシリンダボア上部を積極的に冷却する。このためボア壁面の周方向に温度分布を均一化し、耐ノッキング性の向上をと、シリンダボア間の熱変形を最小限に抑えることで低フリクション化を図っている。

クランクシャフトのメインベアリング キャップは独立した鋳鉄製を採用。締め付けは塑性域締めとし、下面から内側2本と外側2本で長さの違うボルト4本で固定。また、両側面からもシリンダー ブロックと一体で締め付けを行なうことにより剛性を高めている。

2UR-GSE型エンジン オイル系統

2UR-GSE型エンジン オイル系統リスト

高出力エンジンのため、2UR-GSE型エンジンは左右のVバンクにエンジンオイルが滞留することを防ぐために、スカベンジポンプを装備していることは特筆できる。強い横Gがかかったような条件でもVバンクのシリンダーヘッドやシリンダー部のオイルを強制的に吸い出しでオイルパンに還流できるようにしている。

オイルパンは2段構造で、上側はアルミ製で、シリンダーブロック、トランスミッションを一体で締結するスティフナーの役割を果たす。下段のオイルパンはスチール製だ。

2UR-GSE型エンジン ピストン

2UR-GSE型エンジン ピストン2

クランクシャフトは鍛造製の5ジャーナル6バランスウェイト型で、フィレット部には高周波焼入れを行なって強度を高めている。またコンロッドは高強度鍛造製で、大端部はできる限り小径化させている。

ピストンはコンプレッションハイトを短縮し、ショートスカート化により軽量化。また、ピストンスカート部に耐焼き付き性に優れた条痕仕上げ+樹脂コーティングを採用している。

■排気系

エキゾースト マニホールドはステンレス鋼板製で、マニホールド直下とエキゾーストパイプ前方の2ヶ所に触媒を配置。冷間始動直後でもマニホールド直下の触媒が作動するようになっている。

マフラー部は、エンジン低回転時と高回転時で排気ガスの流路をモーターで切り替えることにより、静粛性と音色の両立、排圧の低減をはかるデュアルステージ エキゾースト制御を採用。

2UR-GSE型エンジン 2系統排気

走行中の加速は4600rpm以上でバルブが全開に、減速時は3400rpm以下になると全閉となる。また45km/h以上でのシフトダウン時にはエンジンが低回転でも2.5秒間だけ全開となるなどサウンドの演出に配慮されている。さらにナビ情報によりサーキット走行では常時全開となる設定になっている。

2UR-GSE型エンジン 2系統吸気

吸気サウンドの演出と、この排気サウンドの演出により、自然吸気V8ならではのスポーツサウンドを生み出している点は、レクサスLCのこだわりの部分といえるだろう。

■2UR-GSE型エンジンの位置付け

現在ではレクサスLCのライバル達は、V8エンジンにもことごとくダウンサイジング コンセプトを採用し、排気量を4.0L程度に縮小し、その代わりにターボ過給を行ない、エンジンの低回転、大トルク化を図っている。またそのためにターボをVバンクの谷間に配置するホットサイド インサイド(内側吸気)とするなど妥協のない性能追求の姿勢は徹底している。

2UR-GSE型エンジンは、自然吸気らしいフィーリングやサウンドにこだわった、いわば古典的なコンセプトのエンジンであるが、より長期的に見れば、ダウンサイジング+過給による大トルクエンジンもラインアップしてもらいたいものである。

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