vol.1では新型シビックが背負っている使命について触れてみた。そうした背景から誕生した10代目シビックはどんなテクノロジーが投入されて誕生したのか。今回はじっくりと考察してみたい。
【ホンダCIVIC復活記念】シリーズ「新型シビックの使命」
・新型シビックの使命 vol.1 ブランド再生を賭け、ゼロからの開発でスタート
・新型シビックの使命 vol.2 10代目新型シビック詳細解説
・新型シビックの使命 vol.3 待望の10代目新型シビック・タイプR登場
■コンセプト
新型シビックの開発コンセプトは、操る喜びの追求と生活に役立つクルマの両立である。そして走る楽しさ、操る喜びでCセグメントのトップに立つという高い目標を掲げ、妥協しないクルマ造りを追求した。こうした開発の合言葉は「男前」だったという。それは堂々と正道を突き進み、妥協しないという意味である。
具体的には、ダイナミックな性能を予感させる走りの存在感と、美しいプロポーションのデザインの追求、シャシー性能、ボディ剛性を大幅に高め、五感に響く高次元の運動性能を実現すること。そして広い、質感の高いインテリアを実現し、グローバル基準での高い安全性を達成することが目標とされている。
■デザインとパッケージング
大径タイヤを四隅に配置し、ワイド&ローのスタンスを生かし、先進的で伸びやか、ソリッド感のあるデザインを追求。セダンは先進性とスポーティさを両立させたクーペ風のルーフを持ち、ハッチバックはさらに革新性とスポーティさを強調したダイナミックな立体構成をアピールしている。
フロントのボンネット高は低められ、Aピラーは従来より大幅に後退させている。そして大径タイヤの採用により、新型シビックはこれまでにないプロポーションを生み出すことに成功している。
インテリアも乗った瞬間にスポーティさが感じられることを目指し、センターコンソールは幅広なハイデッキ・コンソールとし、左右に広がるインスツルメントパネルは薄型で、ドライバーのためにメーターパネル部を強調したデザインとなっている。
ヒップポイントは従来型より20mm下げられ、ペダル、ステアリングとの位置関係を最適に設定。またボンネットの高さは従来型より35mm下げることで、前方視界を改善している。さらにAピラーを大幅に細くしたことで斜め前方視界も改善されている。
リヤ席は、フロントシートバックの形状を薄くすることで、膝スペースを拡大。ハッチバックはリヤシート位置をセダンより35mm前進させることで、ラゲッジ容量を確保している。
セダンのラゲッジ容量はクラストップの519Lを確保し、1100mmというワイドなトランク開口部幅を確保し、積載性も高めている。ハッチバックは、バンパーラインからルーフ後端までが開口し、ラゲッジ容量は420LとCセグメントでトップの容量を誇っている。また開口幅はセダンよりさらにワイドな1120mmを実現している。
ハッチバックのトノカバーは通常の前後巻取り式ではなく、世界初の横引き式を採用している。左右どちらからでも引き出し、巻き取りができるように両サイドに巻取り機構を配置。リヤシートを倒してラゲッジスペースを広く使う際にも、外したカバーの置き場に困ることがなく、左右のどちらかに巻き取ったままにすることができる。
■パワートレーン
新型シビックのセダンはL15B型、ハッチバックはL15C型エンジンを搭載する。いずれも73.0×89.4mmというロングストローク・タイプの1.5L直噴ダウンサイジングターボだ。
セダン用はレギュラーガソリン仕様で173ps/220Nm。ハッチバック用はハイオクタン仕様で、6速MT用とCVT用の2種類のスペックをもつ。6速MT用は182ps/240Nm、CVT用は182ps/220Nmで、CVTのトルク容量に合わせている。
6速MT用は1900rpmから、CVT用、セダン用は1700rpmから最大トルクを発生する、低中速・大トルク型のダウンサイジング・エンジンだが、いずれにしても自然吸気2.4Lエンジンに匹敵する高出力エンジンといえる。
コンセプトは走り出しからトルクが太く、6000rpm付近まで伸びるフィーリングを重視。同じ1.5Lターボを搭載するステップワゴン用より、吸気流量を約11%、排気流量を約28%増加させ、過給圧やバルブタイミングもよりスポーティなセッティングとし、2000rpm以上での出力をアップ。トルクも全域で向上させたことでよりスポーティで力強い走りを実現している。
このエンジンは、吸排気可変バルブタイミング(VTC)を採用し、低速時はバルブ・オーバーラップを大きく、低負荷時には大量EGRを導入し、そして高負荷時にはオーバーラップを小さくなるように制御。また直噴と高タンブル吸気ポートを組み合わせ、それに合わせて凹型ピストン冠部形状を採用している。
エキゾーストポートはシリンダーヘッド一体型のため、エキゾーストポート周囲を水冷できるようにウォータージャケットを配置。また高出力化に合わせ、排気バルブにはナトリウム封入式を採用している。
ターボはボルグワーナー製の電動ウエストゲートバルブ式を採用。このターボは応答性を重視した小径タービンで、低回転域からの過給性能を確保。さらに過給圧制御の自由度が高い電動ウエストゲートを採用し、過給レスポンスを高めるとともに、排気ポンピングロスの低減による燃費向上も図っている。
CVTはターボエンジンの強力なトルクを受け止める大容量のCVTを採用。6.53というワイドな変速比幅とし、アクセル操作にリニアな加速Gを生み出す変速制御「G-Dデザイン シフト」を採用し、ターボラグを感じさせないパワフルな加速フィールを実現している。また、トルコンはツインダンパーを備えた大容量タイプとし、スムーズな加速と静粛性を両立を狙っている。
ハッチバックには、スポーティな特性のエンジンの操る楽しさを堪能できる6速MTも設定した。当初は日本向けには設定されていなかったが、シビック・ハッチバックのスポーティさをアピールするために最終的に導入を決定したという。MTらしいスムーズで気持ちのよいシフトフィールを追求し、デュアルマスフライホイールを採用し、低振動で上質な変速も重視している。
■シャシー
新型シビックの走りは、ドライビング・プレジャーと安心感で欧州Cセグメントをリードできる性能が追求されている。つまり走る楽しさ、操る喜びを高め、あらゆる走行シーンでドライバーがコントロールできるという安心感を両立させることを目指し、熟成したという。そのシャシー開発ではタイプRと走りの資質を共有しながら、シャシー性能の開発を行なったという。
サスペンションはフロントがストラット式、リヤは従来のトーションビーム式からサブフレームを持つマルチリンク式へと進化した。
フロントはL字型ロアアームを採用し、高い接地点横剛性を確保。ジオメトリー変化の少ないリニアなハンドリングを実現。一方で、段差乗り越え時などの前後方向の入力に対しては、液封コンプライアンスブッシュで微細な振動も吸収し、上質な乗り心地としている。
リヤのマルチリンクはすべてのアームを高剛性のサブフレームに取り付ける構造とし、横力によるトーイン特性を強化。高次元の操縦安定性を実現するとともに、17インチタイヤ仕様には液封コンプライアンスブッシュを採用し乗り心地も向上させている。
電動パワーステアリングはショーワ製の新開発デュアルピニオン式を採用。俊敏なレスポンスと滑らかな操舵感を両立する。また可変ステアリングギアレシオを採用しており、切り始めはスムーズで操舵量に応じてリニアな特性が得られ、スポーティで安心感のあるステアフィールとしている。
また、限界領域の手前で回頭性やライントレース性、緊急回避時のより確かな操縦性に効果が得られるアジャイルハンドリング・アシスト(ブレーキ・トルクベクタリング)を採用。操舵角や転舵速度からドライバーが意図する走行ラインを推定し、4輪のブレーキを独立に制御して車両挙動をコントロールすることができる。
■プラットフォームとボディ
新世代のグローバル・プラットフォームを採用し、ボディ骨格も新たに欧州車と同様のインナーフレーム骨格構造を採用している。インナーフレーム骨格とは、ボディ全体の骨格部材を組み立ててから外板パネルを溶接する方式で、骨格部の結合強度や剛性を高めることができ、そのため追加の補強材が不要になるので軽量化と高強度・高剛性を両立できる。
またセダンは、リヤシート後方のバルクヘッドに閉断面部材を環状に配置する環状骨格構造を採用し、リヤ部の剛性を大幅に向上。リヤのバルクヘッドのないハッチバックは、セダンと同様の剛性を得るために、リヤダンパー取り付け部と強固な構造を持つテールゲート取り付け部をつなぐ環状骨格を形成している。
フロア面は、大断面のセンタートンネルと井桁状に配置したフロア骨格材により、フロアの剛性を大幅に向上。このため低重心化や低いドライビングポジション、低全高化を可能とし、同時にフロア振動を抑制し、制振材が不要となる画期的な高剛性・低振動のフロア構造としている。
またセンタートンネルを強固な構造とした上で、トンネル左右を結合する補強ブレースをトンネル前後に配置することで、これまでにないレベルの高いフロア剛性を実現。これらによって、Cセグメント・トップレベルの運動性能を引き出すことができるポテンシャルが得られている。なおボディのねじり剛性は従来型との比較で、25%向上し22kgの軽量化を達成している。
エアロダイナミクスは、空気抵抗の低減と中高速域での揚力発生を抑え、安定性を追求した空力処理を採用。フロントはエンジン冷却用の開口部が最小限となるようにデザイン。トランク部はルーフとボディサイドからの気流を整える造形にしている。フロア下面には広範囲にアンダーカバーを装備し、ダウンフォースを獲得している。
またフロントピラーとガラスとの段差を最小限にすることで、ボディサイドの気流を滑らかにしている。ハッチバックは他のCセグメントのクルマよりもテールゲートを大きく寝かせた形状により、セダンに近い空力特性を実現し、リヤスポイラーとの組み合わせで揚力も抑えている。
静粛性の向上も開発の大きなテーマとなった。新型シビックは、ひとクラス上のDセグメント・クラス並みの静粛性を目指し、高剛性のフロアにより低周波を低減させ、重い制振材を使用することなく軽量な吸音材とロードノイズの室内への侵入を防ぐ遮音材を採用することで静粛性を大幅に高めている。
また特にセダンは、16インチ、17インチホイールに中空構造のレゾネーター(消音装置)を、ホイールを取り巻くように装着したノイズリデューシングアルミホイールを採用している。これにより高速道路のつなぎ目や、粗い路面を走行する際などにタイヤの内部で発生する不快な共鳴音を、打ち消している。
■装備、安全システム
新型シビックは、便利装備としてエンジンスタートボタン付スマートキーシステムを採用し、離れた場所からのエンジン始動が可能。さらに降車時オートドアロック機能、電動パーキング、オートブレーキホールド機能も備えている。
後方視界を確保するために、3ビューを切り替え式のリヤワイドカメラも装備。ノーマル、トップダウンビュー、ワイドビューという3種類の視界が切り替えできるようになっている。
ドライバー支援システムは、ミリ波レーダーとカメラを組み合わせたホンダ・センシングを標準装備。渋滞追従機能付ACC、車線維持支援システム、オートハイビーム、衝突軽減ブレーキ、路外逸脱抑制機能、道路標識認識機能という機能を備えている。
新型シビック・シリーズは、セダン、ハッチバック、タイプRという3機種を同時開発したこと、新世代プラットフォームを採用したゼロからの開発であること、グローバルに展開している工場で、一斉に生産されることなど、ホンダにとってかつてないほど大規模の開発となった。
いわば現在のホンダの総力を上げた開発が行なわれており、それだけにシビック・ブランドの復権、再構築にかける思いはかつてないほど強いと感じることができる。
次回Vol.3は8月25日(金)に更新予定です。
【ホンダCIVIC復活記念】シリーズ「新型シビックの使命」
・新型シビックの使命 vol.1 ブランド再生を賭け、ゼロからの開発でスタート
・新型シビックの使命 vol.2 10代目新型シビック詳細解説
・新型シビックの使命 vol.3 待望の10代目新型シビック・タイプR登場