さらば Honda青山ビル 建築ツアーで触れた 本田宗一郎氏の想い

いつもFMヨコハマ『THE MOTOR WEEKLY』をお聴きいただきありがとうございます。
ホンダの本社が入る「Honda青山ビル」(東京都港区南青山)のメディア向け建築ツアーが行われ番組スタッフが参加したのでリポートをお届けします。
今回の建築ツアーは、2月23日に一般向けで開催される同ツアーに先駆けて行われたもの。普段は立ち入れない領域にも足を踏み入れることができ、そこにはホンダ創業者・本田宗一郎氏の想いが随所に形になって表れていました。

クルマの製造工場ではなく「オフィスビルを見学して面白いの?」という疑問はすぐに消え去りました。
「青山一丁目」交差点の角にある「Honda青山ビル」は初代の本社ビル「八重洲ビル」に次ぐホンダの2代目となる自社ビルで1985年に完成。39年の歴史を経てこのたび建て替え、2025年度での取り壊しが決まりました。
1985年当時、本田宗一郎氏はすでに社長を退任していましたが、青山ビルにどのようなの想いを込めたのか。ツアーは建築史家/大阪公立大学教授の倉方俊輔氏の案内で行われました。

大阪公立大学教授の倉方俊輔氏(左)

■ 圧巻!地下3階に巨大な樽 

Honda青山ビルは地上17階・地下3階。
まず向かったのは地下3階。いきなり一般の来客が立ち入ることのできないエリアです。配管設備が並ぶフロアに足を踏み入れると、奥に樹齢200年以上というカナダ産ヒバで作られた樽が2つ鎮座しています。

地下の室内にある樽は紫外線や雨風を受けないため、老朽化が進んでおらず、40年前のビル完成時のまま

ビル建築時に搬入された当時のもので「建てる時に樽を入れたらもう出せない」(倉片氏)という巨大なもの。ひとつ35トン、あわせて70トンの水を貯えることが可能です。ヒバの樽にためることで水からカルキ臭が抜けてまろやかになるのだとか。
この水は非常用としてだけでなく1階の「Hondaウエルカムプラザ青山」「宗一郎の水」として来場者に無料で振る舞われています。そこには「出前の兄ちゃんがフラッと立ち寄れる気軽な場所にしてほしい」という宗一郎氏の想いが込められているそうです。「スーパーカブ」で出前を届け、この水でのどを潤した人も多いのでしょうね。

1階 「Hondaウエルカムプラザ青山」 無料で飲める「宗一郎の水」

■ ビル完成時から機能する地下2階・防災備蓄庫

地下2階には防災備蓄庫があります。3日分の食料が備蓄され、災害時には、1,600人の従業員および周辺の人々をサポートできる備えがあるといいます。
近年は条例等で企業に防災備蓄義務が課されていますが、義務化されていなかった1985年のビル完成当時から備蓄庫として活用されました。ここにも本田宗一郎氏の安全思想が反映されています。

万が一を考慮した設計として、1階の入り口前に空きスペースを広くとってあることも挙げられます。これは災害時には炊き出しなどに使えるようにしているため。ガスなど炊き出しに必要な設備も備わっているそうです。敷地面積が4,756平方メートルなのに対して、建築面積が2,437平方メートルであるのは、こうした背景もあるのでしょう。

「こういう空間がわざわざ用意されているところもすごくホンダらしいと思います」(倉片氏)

交差点側のビルの角が丸いデザインなのは、車やオートバイの見通しを少しでも良くするためでもあります

■ 超高層ビルに異例のバルコニー

完成当時、高さ60メートルを超える建築物は「超高層建築物」とされていました。Honda青山ビルの高さは72メートル。そのビルの特徴の一つに、一般的に超高層のオフィスビルに存在しない「バルコニー」があります。

これも本田宗一郎氏の想いによって導入されたもの。当初要求したものは「絶対に割れないガラス」でしたが、当時の技術では不可能で、代わって取り入れたのがバルコニーです。これは災害時に割れたガラスで通行人がケガをしないためで、飛散したガラスの落下防止の役割があり、延焼防止、避難経路としても機能しています。

Honda青山ビルは建築基準法上で必要とされる階段(避難経路)は本来2つですが、3つ目の階段があるのも安全思想によるものでしょう。また、ビル内のサインが印象的なデザインをしていることも特徴です。これはいざ避難する時、人はパニックに陥り避難経路がわからなくなることを考慮したもので、日常的に目にする中で自然と印象に残るデザインにしています。

■ 応接室はホンダの迎賓館

世界的企業として海外からの来客を迎える応接室は16階にあります。この空間に求めたのは「国際的であること」「奇をてらわず合理的であること」。豪華な装飾や美術品はありません。

ビル完成の翌年1986年に英国王室のチャールズ皇太子、ダイアナ妃が来日した際はパレードの出発地点に選ばれ、この応接室は休憩場所として提供されたそうです。

隣接する部屋へのつながる壁の角に丸みをある木材を用いているのも人へのやさしさが感じられる

■ 建て替え後の新本社ビルは2030年完成予定

建て替えに伴い、1階の「Hondaウエルカムプラザ青山」は3月31日で休館。青山ビルでの業務は2025年5月に終了となり、2025年度に解体されます。同地に建設する新たなビルは2030年度の完成を目標としているとのこと。また、建て替え期間中、青山ビルに勤務する従業員は、東京都港区の虎ノ門アルセアタワーと埼玉県和光市のHonda和光ビルに分かれて業務を行うそうです。

解体前に、青山ビルに込められた“Hondaフィロソフィー”を体感できる一般向けの同ビル建築ツアーは2月23日(日)に開催。
今回のメディア向けツアー同様、当日も建築史家の倉方俊輔氏がツアーガイドを務め、解説を聴くことができます。

「ホンダがただの大会社じゃないというフィロソフィー、メンタリティはこのビルが作っているところもあると思います。そういうところが建築の力です」(倉片氏)

今回の建築ツアーはホンダファンはもとより、建築に関心のある人にはとりわけ興味深い内容だといえそうです。また、ツアー中、倉片氏の解説にもありましたが、ビルは手入れがされていて老朽化は進行していません。訪れれば誰もが壊してしまうのはもったいないと思うはず。それでも建て替えるからには、機能性だけではなくホンダらしさが求められるのは必須です。どのようなビルに生まれ変わるのか、期待を上回るホンダのチャレンジに注目しましょう。

Honda青山ビル 建築ツアー概要

開催日:2025年2月23日(日)
開催時間:10:00~11:30/13:00〜14:30/15:30〜17:00 ※ 計3回開催

開催会場:Honda青山ビル(東京都港区南青山2-1-1)

参加料金:無料
ツアー案内人:倉方俊輔 建築史家/大阪公立大学教授
ツアー応募期間:2025年1月24日(金)~2025年2月9日(日)
ツアー詳細・お申込み方法:下記URLを参照
https://global.honda/jp/HondaAoyamaProject/

ホンダ 公式サイト

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