2018年7月、日野自動車は環境への取り組みについての説明会を行ない、その中で新しいハイブリッドシステムを搭載した大型トラックの発表もあったのでお伝えしよう。
大型トラック「日野プロフィア ハイブリッド」の情報は既報でこちらにも掲載している。が、発表に先立ち、日野自動車が取り組んでいる環境対策についての説明もあった。まずは取り巻く環境からお伝えしていこう。
※関連記事:日野自動車、進路上の勾配を先読みし燃費を向上させた大型ハイブリッドトラックを2019年夏発売
環境への取り組み
日野自動車のこれまでの取り組みは、ディーゼルエンジンを基本にHV、EV、PHV、FCVという各種電動車の実用化を行なっており、ディーゼルでは代替燃料の開発、電動化車両の成立に必要な技術開発といったスタンスで研究開発が行なわれてきている。
背景にはCOP21があり、「地球の平均気温上昇を2℃以内に抑える」目標があり、日本政府は温暖化対策として、CO2削減目標を2013年度比で、2030年度にマイナス26%、2050年でマイナス80%という目標を定めている。その目標に対して、各企業は対策を行ない、日野自動車は2017年10月に「日野環境チャレンジ2050」を策定している。
具体的には「新車における走行中のCO2排出を90%削減」することであり、ICEの技術向上と電動化によって80%削減、残りの10%はIoTを駆使した物流全体の効率化によって達成するというロードマップだ。こうした自社目標に対してトラック、バスへの改良、改善は必須であり、これまで多くの実績も積んできているというのが、これまでの流れだ。
現在の取り組みではディーゼルエンジンのダウンサイジング化と、天然ガス車でストイキ燃焼のパターンと、代替燃料を含む改良、噴射圧の高圧化、2段過給+吸気冷却、後処理触媒の浄化性能向上といったものが挙げられる。また、現在のハイブリッド技術は第5世代にあたり、プリウス用の改良型ニッケル水素バッテリーの搭載とか、ハイブリッド車が発電した電力を冷凍、冷蔵トラックに使うなどの技術がある。
日野自動車はこうしたトラック、バスにおけるハイブリッド技術では、世界一の実績を誇り、EV、PHVではEVの低床小型バス、配送トラックの販売、PHVは中型バスへの採用、販売、FCVではトヨタとの共同開発、販売という実績がある。
次世代大型トラック「プロフィア」
こうした経緯から誕生したのが、今回発表された大型トラック用ハイブリッドシステムで、2019年に発売予定されている。
「日野環境チャレンジ2050」に基づき、工場からのCO2排出ゼロチャレンジや、廃棄物ゼロなど多くの項目で目標が設定されているのは言うまでもないが、今回は環境対策を一歩進めることができる次世代の大型トラック用ハイブリッドシステムを公開したというわけだ。日野にとっては第6世代のハイブリッドシステムということになる。
特徴はモジュール化を行ない、パワートレーンに対応できる電動プラットフォームを開発したことだ。基本は、リチウムイオンバッテリー+インバーター+モーター/ジェネレーター+トランスミッションを共通構成とし、ハイブリッドであれば、エンジンと燃料タンクがプラスされる。FCVであれば、FCスタックと水素タンクを載せる。PHVであれば外部電源に接続できるようにするというモジュールだ。
そして2020年ころから順次投入が開始され、小型EVのコミュニティバスや小型低床EVトラックなどの投入が予定されている。
さて、そのトップバッターとして、2019年に発売する大型トラック「プロフィア」が発表された。その特徴だが、この電動モジュールを搭載し、ダウンサイジング・エンジンを搭載したハイブリッド車だ。一般的にハイブリッド車の得意とする領域は、ゴーストップの多い市街地というのが常識だ。つまり、減速エネルギーを回収して、そのエネルギーから発電し、その電力は発進、加速時にエンジンをアシストするというのが基本だ。
だが、大型トラックにはこの常識は当てはまらないのは容易にわかる。そこで、どこでモーター駆動を利用するか、どこで減速エネルギーを得るのか?という点で考察した結果、大型トラックは高速道路を定常走行するケースが多いことと、高速道路には意外にも勾配が多く、その下り坂では質量の大きい大型トラックだと、エネルギー回生が小型トラックの10倍、大型路線バスの4倍もの効率で回生エネルギーが見込めるということの気づきがあったという。
その結果、発進、加速にモーター駆動力を使うのではなく、高速巡航、定常走行時にモーターだけで走行する制御に変えて大型トラックのハイブリッド化を成立させたわけだ。
大型トラックの燃料消費量を抑えるのがポイント
大型トラックのCO2削減に関し、前述のCOP21の目標に対し、政府はマイナス26%という数値を国連へ提出している。そのため、企業側で排出するCO2を計算すると、2013年度で国内のCO2総排出量が14億800万トンで運輸部門が16%を占めるそうだ。つまり2億2500万トン/年が運輸部門から排出されており、商用車は全体の40%を占めるので、8500万トン/年が商用車から排出されていることになる。これをCOP21の目標値の削減率マイナス26%に当てはめると現在の8500万トン/年を6290万トン/年まで減らすことになり、2030年までに、商用車全体で2210万トン/年の削減目標というのがはじき出されてくる。
では、どこで最もCO2を排出しているのかというと、燃料消費の約60%を大型トラックが占めおり、年間の燃料消費量は260億リッターだという。大型観光バスや小型トラックなど国内の保有台数を調べると、小型トラックが最も多い車型ではあるが、走行距離や燃費の改善などにより、小型トラックの消費量としては94億リットルだという。そのため、圧倒的に消費量の多いい大型トラックの燃費改善、イコールCO2排出改善が必要ということになるわけだ。
今回発表した大型トラック、プロフィアの実走行実験データも公表したが、一般路90km、高速道路270km、合計360km走行で、14Lの削減効果が認められ、15%の燃費向上という結果だったという。計算では1台で4700L/年の削減効果が見込めるというわけだ。
プロフィアのハイブリッドシステム
基本のプラットフォームは前述の電動化プラットフォームで、リチウムイオンバッテリーは11kWhと小さい。モーターは90kW/784Nmの出力で、1モーターのパラレル式ハイブリッドシステムになっている。エンジンはダウンサイジングされたA09C型で、直列6気筒ディーゼル・ターボで8900ccだ。出力は380ps/1765Nmというスペック。ダカールラリー出場車にも搭載しているエンジンだ。
発進、加速では高効率化されたディーゼルエンジンで走行し、高速道路の定常走行時にモーターだけで走行する制御にしている。その切替はAIを使って自動制御されている。ドライバーの運転状況をAIが判定し、モーターアシスト量の最適化を行なっているという。
そこには、まず走行負荷である、勾配、エンジン状態、バッテリー状態を監視し、アクセル開度の信号を読んでいる。そこからドライバーの運転意図として、急いでいる、急いでいない、などをAIがアクセル開度や時間などから判定しアシスト量を判定するという、最適制御パラメーターを作成したわけだ。
また、前走車へはレーダーセンサーを搭載し、車間距離を判定。そしてロケーターECUを搭載して、GPS、ジャイロセンサー、車速センサーから内蔵地図と照合し自車位置を特定する。そして、その内蔵地図から標高、勾配、位置を出力するという流れだ。このロケーターECUはすでに多く使われているタイプと同等のものということだが、100km先までの標高情報をもとにバッテリー使用のシナリオを作成し、10kmごとの勾配情報から細かいトルク配分シナリオを作成するという制御マップになっている。
実際に日野自動車のテストコースで試乗の機会があり、助手席に同乗し高速モーター走行を体験した。アクセル操作は特に意識することなく、AIが自動判定しモーター走行に切り替える。モーター走行になるとエンジンはアイドリング状態を維持している。車速は維持され燃料を消費しない運転が実現しているわけだ。勾配が変化し登りではアクセルを踏むのでエンジン駆動となる。ということを繰り返すわけだ。
次世代車を語る時、どうしても乗用車を中心に考えてしまうが、今後、商用車への技術投入にも目を向けて行かなければいけないだろう。搭載する技術によっては、実用化は商用車からというものも出てくるわけで、さまざまな分野で進められている技術革新に注意を払う必要があるだろう。