ボディサイズの規格が定められている軽自動車はスペースが限られている、という常識を破って、全高1750mm前後の背高なスーパーハイトワゴンというカテゴリーが誕生した。現在ではスーパーハイトワゴンは軽自動車市場の30%を占めるまでになっているが、そのパイオニアがダイハツ・タントだ。そしてこのほど登場したウェイクは、さらにその上をいく1835mmというウルトラ背高ワゴンとして登場した。
正確に言えばダイハツ・ハイゼットのハイルーフ、アトレー・ワゴンには全高1875mmという全高のモデルが存在するが、乗用車ベースではこのウェイクが初の全高1800mmオーバーの軽自動車となっている。
全高を高くすることで乗員の着座姿勢が直立方向、つまりアップライトになり室内長や前後シートの間隔を拡大できるということは定石だが、ウェイクはプラットフォームを共有するタントと比べ、前後のシート間隔は+20mm延長されている。
しかし、ウェイクはそもそも開発コンセプトがタントとは異なるところからスタートしている。軽自動車は基本的に生活に密着した実用車であり、ユーザーは女性が多いこともあり、タントならばターゲットとするドライバーは主婦などの女性ドライバー、そして子育てファミリー向けに絞り込んだコンセプトということになる。それに対して、新型のウェイクは、小型車からのダウンサイザー、自分のライフスタイルを重視する男性ユーザーをターゲットにしている。
だからウェイクのエクステリア、インテリアともにデザインは、ファミリー的な味付けを抑え男性的だ。フロントマスクも存在感や力強さを感じさせる。またエクステリアはあえてボクシーで、全高をむしろ強調しているのだ。
ウェイクの着座位置はタントより60mm高く、まさにミニバンと同レベルの視点になっている。これはミニバンなどからのダウンサイザーを意識してのことになる。また視界は前方を見下ろす感じになり、これは軽自動車では今までにない感覚だ。前後のシートの足元の広々感と、この前方視界、さらに室内高1455mmという軽自動車ナンバーワンの室内によって、「軽自動車は狭い」と思い込んでいる人に衝撃を与えるに違いない。少なくとも室内スペースは、大人4人がゆったりできるだけの広さがあるのだ。
もうひとつ、ウェイクの新しい点はリヤリートの後方のフロア面を下げ、約90Lのラゲッジスペース(アンダートランクと呼ぶ)を備えていることで、ゴルフバッグの縦置き積載もできる。また、上下2段調整式のデッキボードをここに置くことで、リヤのラゲッジスペースの使い勝手を高めている。リヤシートはフォールダウン式で、降り畳んだ状態ではシートバック背面が上面になり、テーブル代わりになる。
またリヤシートを畳み、助手席を前方に倒し、オプション設定の段差を埋めるクッション(ジョイントクッション)、または自作ボードを置くと簡単に車中泊のスペースが生み出すことができる。よりプライバシー度を高めるサイドウインドゥ用のカーテンも用意されている。
またウェイクは、釣り、サイクリング、キャンプ、トレッキング、スノーボード、サーフィンなどのジャンルごとに、各専門家も加わって考案されたオプションも豊富に設定されている。これらを使うことで、趣味に合わせたカスタマイズが簡単にできることも大きな特徴だろう。
ところで問題はウェイクのように全高の高いクルマの走りである。ウェイクは軽量化や低重心化により、タントより重心高は+10mmに収めている。また開発段階から、直進安定性の向上や安心感のある走りを達成することが目標となっていた。そのため、フロント・ストラットはリバウンドスプリング入り、前後ダンパーには長いウレタン製バンプラバーを採用するなど、軽自動車ではトップレベルの凝った仕様となっている。バンプラバーを早期に当てることで、プログレッシブなバネ特性にしている。
実際にステアリングを握ってみると、しっかりした乗り心地、安定感が感じられ、もちろんふらつき感などはない。またステアリングもセンター部が締まっており、リニア感があり、軽自動車でトップクラスの操舵感である点も評価できる。
試乗コースの関係で高速道路を走る機会はなかったが、高速直進安定性に配慮し、前後のボディサイドに設定されているエアロフィンなどの効果もあり、十分安心できるレベルになっているという。このようなボックス形状の背高ボディの場合、橋を通過するときやトンネルを抜けた直後の横風での安定性が一番の懸念材料になるが、シャシー・エンジニアによればヨーイングを抑えるようにシャシーをチューニングしているという。また危険回避のためのダブルレーンチェンジなどのシーンでは、VSCのチューニングで対応している。
ウェイクは普段の買い物や通勤といったシーンだけでなく、遠出したり山道も走ることも想定し、エンジンはターボ仕様と自然吸気仕様、駆動方式はFFと4WDを設定している。試乗車はターボエンジン/FFという組み合わせだったが、走りに不満はない。というよりウェイクは極端な燃費追求をしていないため、CVTも自然な加速感が得られるようにチューニングされている。そのためドライバーの意図通りの加速が実現し、軽自動車の中でトップレベルの自然な走りのフィーリングといえる。
また、走行中の室内の静粛さ、しっかり感もハイレベルで、いわゆる従来の軽自動車フィーリングを超えており、小型車から乗り換えでもマイナスイメージは感じないだろう。それどころかはるかに大きなクルマよりも、前席も後席も広いことに驚くはずだ。後席は、足元、頭上のスペースのいずれも十分に広いが、さすがに折り畳みを考慮したシートクッションとシートバック形状は、座り心地という点でもう少し工夫が欲しいところだ。
先行したスズキ・ハスラーに続いて登場したウェイクは、日常の生活ツールとしての軽自動車から、趣味を楽しむことができるところまで世界を広げたことと、クルマの作りのレベルがここまで来たことで、画期的なクルマということができるだろう。