4代目となる新型タントは、すべての世代のニーズに応える良品廉価をキーワードにして開発。特に近年話題となる高齢者による交通事故への対応や、高齢者が使いやすいように工夫した装備なども充実させ、どの世代の人が乗っても安心、安全で使い勝手のよさがアピールできるクルマとしてデビューした。今回、そうした新型タントの装備も見ながら試乗してきたので、その様子をお伝えしよう。
なお、詳細記事はこちらを参照してほしい。
スマートアシストの標準装備
新型タントには標準車とタントカスタムの2モデルがあり、各モデルにグレード設定がされているが、Lグレードの「スマートアシスト非装着車」を除き、全車にダイハツの安全装備「スマートアシスト」が標準装備されている。特にペダル踏み間違い事故が騒がれる中、ブレーキ制御付誤発進抑制機能(前方/後方)も標準装備され、事故抑制効果が期待される。
他にもスマートアシストには、対歩行者への衝突回避支援ブレーキや、車線逸脱抑制制御機能、オートハイビームなども標準装備されている。さらにオプションで全車速追従機能付ACCや駐車支援システムなどが選べるようになっている。
こうしたアクティブセーフティの他に、高齢者で介護は不要だが乗降では補助が必要そうな人のための装備をオプションで設定したり、福祉車両も含めたフルモデルチェンジも行なっている。ダイハツの担当者によれば、こうした装備により健康寿命が延びることにつながればという期待があるという。
例えば、Bピラーレスのミラクルオープンドアを装備しているため、開口部が大きい。乗り込み用のステップと自身の体を支えるだけでなく、車内へ自らが引き込めるような位置にグリップを取り付けることができること、また、助手席では30度回転するシートは要介護者用ではなく、自力で歩ける方たちの乗降性のよさを上げるための装備などを持っている。そのためにAピラーにグリップをオプション装備できるが、そのグリップ装着のためにAピラーの太さを変えるといった隠れた努力までしている。(見た目のピラーの太さは同じ)
軽自動車は国内の40%以上を占めるカテゴリーであり、まさに国民車と言える存在にまで成長している。そのため各社の競争も激しく、新型タントはすべての世代にマッチできるモデルを目指して開発している。高齢者向けの装備類では、ダイハツが取り組む地域密着プロジェクト「健康安全運転講座」で協力関係にあった理学療法士や大学教授との産学共同研究から生まれてきている。そのため杖をついて自力で歩けるといった一般的な高齢者にとって、とても数多くの研究した成果が車両に反映されており、健康寿命を延ばす手助けになるだろう。
乗ってみると
さて、実際に試乗してみると、試乗車はタントが自然吸気エンジンで、タント・カスタムはターボ車だった。どちらも静粛性の高さはクラストップレベルで、もはやリッターカーを上回る静粛性がある。スーパーハイトワゴンだけに空間は広く、またBピラーレスであることなどから、静粛性や振動などでは不利な点が多数あるにも関わらず、高いレベルの静粛性と制振ができている。
エンジンはターボ車になると、静粛性も手伝って小型乗用車のように感じるスムースな加速と静かな走りができる。自然吸気エンジンでは新開発されたCVTの効果で、アクセルを踏み込んだ時のエンジン音だけが大きくなり、加速が伴わないラバーバンドフィールは感じない。
この新CVTはスプリットギヤを用い「D-CVT」と名付けられている。トヨタが少し前に開発した発進ギヤ付CVTと逆の発想で、D-CVTは発進時はCVTで動き出し40km/h付近からギヤ駆動もプラスされる。そのため急激にアクセルを踏み込んでもそのままギヤ駆動されるため、伝達効率もよくエンジン先行感を感じることがないというわけだ。
市街地走行での車内はかなり静かだ。エンジンの音も小さく風切り音やロードノイズといったものすべてが小さい音で聞こえるくらいだ。ターボのタント・カスタムでは高速道路でも試乗してみた。こちらも100km/h走行時で2200rpm付近で走行でき、エンジン音は静か。
オプションのACCを試してみたがステアリングにあるスイッチは小さく、操作性がいいとは言いにくいが、慣れれば、瞬時に設定できるだろう。先行車への追従は問題なく行なうが、先行車がいなくなったケースでは設定速度への再加速の反応が鈍かったりするので、交通量の多い高速道路ではストレスになるかもしれない。
新作DNGAプラットフォーム
全般に軽自動車の枠を超えるしっかり感や剛性感、そして広いキャビンなどが印象に残るタントだが、新プラットフォーム「DNGA」の第1弾のモデルでもある。
DNGAはDaihatsu New Global Architectureの略で、次世代を見据えた高い基本性能を持つプラットフォームを採用している。サスペンションや骨格などをゼロベースで開発し、走る、曲がる、止まるの基本性能を大幅に向上させる狙いで採用しているプラットフォームだ。
超高張力鋼半のハイテン材をBピラーに採用したり、鋼板材料の変化、構造の最適化などによって高剛性としならが軽量化も果たしている。こうした基本骨格により、静粛性やしっかりした走行フィールなどが作り出されているわけだ。
ミラクルオープンドア
2代目のタントから採用された助手席側Bピラーレスの「ミラクルオープンドア」と3代目で採用された両側パワースライドをこの4代目でも継承搭載している。その4代目ではミラクルオープンドアならではのウォークスルー機能を搭載した。
運転席が最大540mmスライドし、助手席は最大380mm。それぞれ、運転席を最大限に後席よりにスライドさせ、助手席を前方へスライドさせるとベンチシートが分割され、ウォークスルーできるという構造だ。この機能により車道側からの乗降をせずに済んだり、後席への移動が容易になるので、子育て世代にも便利で使い勝手の良さが享受できる。
しかしフロントシートはセパレートシートながら、2脚を密着させてベンチシートタイプにしているタイプで、座面長が短くまた座面の後傾角も不足している。ママ・ドライバーのチョイ乗りなど、乗降が多く、短距離移動の繰り返しが多いといったケースでは、このタイプのシート形状が使い易いのかもしれない。
このように、スーパーハイトワゴンの軽自動車というカテゴリーとその使われ方の研究が十分に行なわれたというのを随所に感じるモデルだ。したがって長距離のロングドライブの性能を高めるより、近所のチョイ乗りでの使い勝手をよくすることを優先するといった、思い切りの良さがいい方向に出ていると感じるクルマだ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>