ダイハツ 新型ミラ イース 試乗記 軽自動車に新しい価値観をつくる

マニアック評価vol529
新型ミラ イースは2017年5月9日に6年振りのモデルチェンジを行なって発売されたが、発売から1ヶ月間で受注台数は2万台に達するなど好調な滑り出しだ。この新型ミラ イースに試乗するチャンスがやってきたので早速レポートしよう。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>

ダイハツ 新型ミラ イース 試乗記 軽自動車に新しい価値観をつくる

ダイハツ ミラ イース X“SA Ⅲ”
ミラ イース X“SA Ⅲ”

■新型ミラ イースの開発コンセプト

新型ミラ イースの開発コンセプトは、「超深化エコ&スマート」とされているが、もうひとつのテーマがある。それはダイハツがトヨタの社内カンパニー制度の中でコンパクトカー・カンパニーを担当することだ。この決定により、新たにダイハツは、グローバルに展開できる性能持つDNGA(ダイハツ・ニューグローバル・アーキテクチャー)を開発することが必要となったわけだ。こうした背景のもとで開発された今回のミラ イースは、DNGA開発の序章とされ、相当に力の入った開発ということができる。

ダイハツ 新型ミラ イース

開発にあたって、徹底的な軽量化やコストカットを行なう一方で、商品企画としてはユーザー調査を重視し、その結果としてJC08モード燃費の0.1km/L単位の競争より走りを良くすること、特に加速性能を改善することを目指した。

ダイハツ 新型ミラ イース コックピット

ダイハツ 新型ミラ イース シート

先代のミラ イースは、大量EGR(排ガス再循環)、吸気バルブ遅閉じのアトキンソンサイクル、デュアル・ポートインジェクター、CVTの高効率化など「イース(e:S)テクノロジー」を採用した第3のエコカーとして登場し、燃費は30.0km/hをアピールした。しかし、その後競合車に対抗するために、ファイナルギヤ比を高め35.2km/Lを達成している。

KF型3気筒エンジン。49ps/6800rpm、58Nm/5200rpm。全グレード共通スペックだ
KF型3気筒エンジン。49ps/6800rpm、58Nm/5200rpm。全グレード共通スペックだ

しかし、燃費重視のCVT特性やハイギヤード化により、市街地での出足が鈍い、上り坂で加速しない、というユーザーの評価となっている。それと同時にはユーザー層は購入時にカタログ燃費を重視していないことも調査で判明した。ユーザー層はJC08モードのカタログ燃費と実用燃費の差を理解しており、カタログ燃費での数値に惑わされないことも理解している。したがって、ストレスのない加速、安心感のある走りがアピール点になるわけだ。

Xグレード以下に装着される155/70R13サイズのタイヤ&スチールホイール
Xグレード以下に装着される155/70R13サイズのタイヤ&スチールホイール

こうした背景のもとで、新型ミラ イースは80kgという驚異的な軽量化を燃費の数値向上に回さず、加速性能の向上を目指した。そのためJC08モード燃費は35.2km/L(車両重量650kgのL、Bグレード。車重670kgのG、Xグレードは34.2km/L)と従来レベルと同じレベルになっている。なお車両重量の比較では、ライバルのアルトと同等グレードより10〜20kgほど重い。

■試乗して

試乗したのは、155/70R13サイズのタイヤ&スチールホイールを装着するX“SA Ⅲ”と、155/65R14サイズのタイヤ&アルミホイールを履いたG“SA Ⅲ”の2グレードだ。それぞれに“SA Ⅲ”の名称がついているように、歩行者も検知できるステレオカメラ式のスマートアシストⅢを標準装備している。

ミラ イース G“SA Ⅲ”
ミラ イース G“SA Ⅲ”

■X”SA Ⅲ”に試乗

まず最初は、X“SA Ⅲ”のステアリングを握った。アクセルを軽く踏んで走り出すと、タイヤが動き出した瞬間に、加速Gがすっと立ち上がるのがわかる。この動き出しの加速感は市街地では効果的で、違和感なく道路の流れに乗ることができる。

ダイハツ 新型ミラ イース リヤビュー

市街地の道路を走っていて、アクセルを踏み込んで再加速するようなシーンでも、アクセルの踏み込みに応じた加速Gが感じられ、CVTを装備した軽自動車にありがちな加速でのもたつき感がないので気持ち良い。KF型3気筒エンジンは大きな変更はないので、アクセル特性やCVTの特性チューニングが奏功しているといえる。

ダイハツ 新型ミラ イース 加速特性

その一方で、郊外路や高速道路での少しスピードが上がった状態での加速感はそれほどでもない。やはり発進や低速域での加速感の良さはアクセルの早開き特性とCVTのチューニングによるところが大きいようだ。

スピードが60km/h以上といった領域でアクセルをガバッと踏み込むと、エンジン音が高くなり、CVTの滑るフィーリングとなる。アクセルの踏み込み量に応じた加速感は得られないのだ。

G“SA Ⅲ”のインスツルメントパネル
G“SA Ⅲ”のインスツルメントパネル

ミラ イースは自然吸気エンジンしか搭載されていないが、ターボ・エンジンであれば、また次元が違う走りになるだろうと思う。

Gグレードだけに装着される155/65R14サイズのタイヤ&アルミホイール
Gグレードだけに装着される155/65R14サイズのタイヤ&アルミホイール

■G”SⅢ”に試乗

動力性能に関してはG“SA Ⅲ”も全く同じだった。エンジン・ノイズも市街地走行といったシーンではよく抑えられているが、エンジンは4000rpmあたりからはややノイジーになる。これは、騒音を抑えるより音質がもう少し低くなればより快適と感じるだろう。

ダイハツ 新型ミラ イース G"SⅢ” ステアリング

乗り心地やロードホールディング感はかなりレベルが高いが、X“SA Ⅲ”とG“SA Ⅲ”でかなりフィーリングが違うのはコーナリングだ。X“SA Ⅲ”が世界一軽いタイヤとホイールを装備しているが、強引にステアリングを切るとタイヤのたわみが大きく感じられ、一方でグリップ感も低い。もちろん、市街地走行ではグリップ感が薄いと感じられるシーンはないのだが。

一方、G“SA Ⅲ”は14インチタイヤで、X“SA Ⅲ”で気になったシーンでは、滑らかに感じられ、タイヤの能力は1ランク上とわかる。これなら高速道路やワインディング路でも気持ちよく走ることができるはずだ。

新型ミラ イースは、ボディがしっかりしていることが感じられ、ステアリングを切った時の滑らかな感覚とボディのしっかり感は軽自動車の中でトップレベルだ。このボディの剛性感と滑らかなステアリング・フィールのために安心感、安定感があり、軽自動車の常識より一段上だ。唯一、スタビライザーを装備していないため、操舵初期にロール方向にボディが動く時の動き出したは思ったより早い感じがする。そして、ロールし始めるとじわっと安定するフィーリングになる。

■パッケージングと装備

今では軽自動車の本流はハイトワゴンだが、ハッチバックのミラ イースもインテリアの居住性は十分高いレベルにある。フロントシートはもちろん、リヤシートも大人が座っても足元のスペースは確保されており、窮屈に感じることはない。リヤシートの座り心地もしっかりしており、ピッチング振動もよく抑えられているので、大人4名が乗車しても不満はない。

また運転席からの視界も優れており、狭い市街地でも取り回しはし易いはずだ。インテリアのデザインもすっきりしているし、物入れ、カップホルダーなども合理的で使いやすいと感じた。

ラゲッジスペースは、リヤシートを倒すと十分に確保されているが、リヤフロアと倒したシートバックでは段付きとなる。ここはビジネス用のBグレードの場合は強度のあるビジネスデッキボードが標準装備となっており、他のグレードではオプション設定されているので、リヤに荷物を積載することが多いユーザーには、このビジネスデッキボードもお勧めだ。

装備としては、幅広いドライバー支援システムを持つスマートアシストⅢが全グレードに設定されており、そのパフォーマンスも現時点ではトップレベルだ。またスマートアシストⅢは、軽自動車初となる超音波式コーナーセンサーを前後に4個装備しており、狭い場所での取り回しに効果がある。

■軽自動車は変わる

これまでの軽自動車ハッチバックはビジネス用、老齢ドライバーがメインのターゲットだったが、走りの質感を高め、安心感や安定感のある走りとしたことと、主張のないデザインから普遍性や存在感のあるデザインに生まれ変わったことで、年齢の若いエントリーオーナー層を始め、新しいユーザー層の獲得を目指しているという。

ダイハツ 新型ミラ イース サイドビュー

確かにハッチバックというスタイル、パッケージは、コンパクトなクルマや軽自動車にとっての基本形であり、新型ミラ イースの安心感のあるしっかりした走り、十分なパッケージングや実用性、そして軽自動車に欠くことのできない要素である低価格という価値が改めて実感できた。

この考え方は、これまでの軽自動車=ハイトワゴンという常識をブレークスルーできる可能性もあるし、もう少し幅を広げて考えると、軽自動車という枠を超えてマイクロ・コンパクトカーはかくあるべし! というアピール・ポイントだとも考えることができると思う。

ミラ イース諸元表

ダイハツ ミラ イース 価格表

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