ダイハツは2021年12月に、17年振りに軽商用車のハイゼット・シリーズ「ハイゼット カーゴ」、「アトレー」をフルモデルチェンジし、同時に「ハイゼット トラック」のマイナーチェンジを行なった。
「ハイゼット カーゴ」、「アトレー」は、DNGAプラットフォームを採用し、これと同時に従来の4速ATに替えて新開発のCVTを採用したのがトピックだ。
現在ではCVTは珍しくないが、今回開発されたのはFR駆動用の縦置きCVTという点が注目される。縦置きレイアウトのCVTは、過去にはアウディA4のFFモデル用「マルチトロニック CVT」があった(2000年のB6型〜2015年のB8型)。アウディがB8型でマルチトロニックを廃止したが、その後スバルは2009年から「リニアトロニックCVT」を採用し、全面展開している。スバルの場合は、AWDを前提にした縦置きCVTで、一般的なプッシュ式金属ベルトではなく、アウディのマルチトロニックと同様にシェフラー社のチェーン式CVTであることが特長だ。
この2社は、縦置きエンジンレイアウトに合わせたCVTで、アウディはFF専用、スバルはAWD専用で展開している。
今回ダイハツが開発したのはFR駆動、AWDに対応した金属ベルト式CVTだ。軽商用車は乗用車より大きな負荷を想定して縦置き4速ATを採用してきた。しかし、多段化のトレンドの中で軽商用車に5速以上のATを搭載するのはコスト的に厳しく、4速ATと同等サイズで、より滑らかな加速性能を持つ新CVTが開発されたわけだ。
このCVTは以前から使用している横置き用3軸CVTと基本的に同じ構造だが、縦置きレイアウト、負荷の大きな軽商用車用であることを盛り込んだ設計になっている。
ただ、新CVTはダイハツが横置き用CVTで採用しているダイレクト駆動ギヤを組み合わせたスプリットギヤ式(D-CVT)ではなく、通常のCVTである。スプリットギヤ式は高速域での駆動効率を高めるシステムで、低中速が常用される軽商用系には不要という判断だ。
そして新CVTはコンパクトまとめられ、サイズ、形状は従来の4速ATと同レベルにまとめられ、室内空間や最低地上高に変更はない。
新CVTは、クランクシャフトからの駆動力の流れは、インプットシャフトの回転を1次減速してからCVTのベルトに伝わり、さらに2次減速してドライブシャフトに駆動力を伝達する。このうち1次減速のギヤの部分にはフォワードクラッチがあり、ここが接続して動力が伝わる。クラッチの圧着力は入力されるトルクをやや上回る程度で、もちろんCVTのベルトを左右から押さえつける油圧力よりは低い。
不整地を走る場合、軽トラック、積載過重の大きなバンは、駆動輪の片方が浮き上がる瞬間が想定され、再び接地する瞬間にタイヤ側からCVTへ逆の入力が発生し、この影響でベルトがプーリーでスリップするとCVTには決定的なダメージが生じる。そのため1次減速のギヤ用クラッチは圧着力は弱めにし、逆入力があったときはこの部分のクラッチが滑ることで入力を吸収する金属ベルト保護機能を持たせている。
さらに、不整路面での大負荷でのバックを想定し、バックギヤの場合はCVTベルトを介さず。ダイレクト駆動にしているのも大きな特長だ。そのため後進用クラッチを装備している。バック時にはインプットシャフトからの入力は並行軸式ギヤのアイドラギヤを介して逆転され、リバースギヤから後進用クラッチを接続し、CVTユニットをバイパスして並行軸歯車の減速ギヤを経て駆動シャフトへ駆動力が伝達されるようになっているのだ。
そしてこの新CVTは、AWD用の場合はリヤ駆動用の多板クラッチも内蔵している。これもFR用のCVTケースに内にうまく格納している。そしてこの多板クラッチを作動させる油圧はCVTのバリエーター作動用の油圧をリニアソレノイドバルブで制御する電子制御式としている。この手法はスバルのアクティブトルクスプリットAWDと同様だ。
この新CVTを採用することで、変速比幅は従来の4速ATの3.9から5.3へと大幅に拡大。そのため発進加速性能も向上しており、変速ショックのないスムーズな加速特性が実現しているのだ。