2014年6月19日に発売された新型コペン・ローブは、その後1ヶ月で4000台を受注したという。目標月販台数は700台だからうれしい悲鳴だろう。購買層は年代ごとに均等で幅広い年齢層に受け入れられていることがわかる。
■コンセプトと狙い
新型コペンは2代目にあたるが、キープコンセプトではなく、軽自動車の新たな価値観の提案モデルといえる。もちろんその背景には、軽自動車の2シータースポーツカーはビジネスとして成立しない、という現実がある。実際、キープコンセプトの2シータースポーツカーの企画では社内で承認が得られなかったという。
結果的には「変える」というキーワードを持つ企画案によって承認が得られている。何を変えるのか? 大きく言えば軽自動車の新しい価値観の提案であるが、具体的には軽自動車のあるべき姿を変える、クルマ造りを変える、メーカーとユーザーとのコミュニケーションを変えるということだ。初代コペンはコンパクト・オープンスポーツカーの頭文字だったが、新型コペンは「Community of OPEN Carlife」を意味しているのだ。
実際、企画の構想段階では若手デザイナーによるデザインチャレンジ・プロジェクトが行なわれ、この中から次第に次期型コペンの姿が絞り込まれていった。最初に登場したのは2011年の東京モーターショーに出展された「D-X(クロス)」で、クロスオーバー風の2座席オープンカーデザインがメインとされたが、そのバリエーションとしてスポーツワゴンスタイル、スポーツバギースタイル、カフェレーサースタイルなども提案されている。
2番目のコンセプトカーは、2012年のジャカルタモーターショーに「D-X」とともに出展された「D-R」だ。「D-R」はスタイリッシュでエレガントさを訴求したモデルだ。このようにオープン/2シーターを前提としながら多様なバリエーションが展開できるポテンシャルを備えていることが企画のキーポイントであり、この時点で次期型コペンは単純に2シーター・スポーツカーを目指したクルマではないことが分かる。
ハードウェアでは、ロワボディの骨格をメイン構造材とした「D-Frame」、着せ替えできる樹脂製のアッパーボディ「DRESS-FORMATION」という組み合わせのFFモデルで、様々なデザインに変身できるという、このクルマのコンセプトが成立するためには樹脂製でなければならなかったわけだ。新型コペンの詳細は既報の記事を参照。
「DRESS-FORMATION」つまり樹脂ボディの着せ替えは脱着時に塗装表面の傷付きなどの恐れがあるため、専門教育を受けた「コペンサイト」での作業が推奨される。もちろんボディのアウターパネル全部がキットとなるが、キット価格や実際の運用は、これからの課題だ。
コンセプトの根幹である「変える」で重要なのは、コンセプトやハードウエアだけではなく、自動車メーカーとユーザーとのダイレクト感のあるコミュニケーションの構築なのだ。軽自動車という実用そのものといえる商品がメインのため、ユーザーと販売店の関係はビジネスライクであり、ましてメーカーとユーザーの接点は無いに等しい。
これをコペンのようなユーザーに愛されるクルマを言わば媒介ツールとして、販売店、メーカーとこれまでにない密接な関係も築くという狙いのもとで、コペン認定販売店「コペンサイト」、コペン専任の販売店スタッフ「コペンスタイリスト」、ダイハツの直営拠点、「ローカルベース」も創設されている。コペンサイトは、単なる販売の場ではなく、ユーザー同士のサロンを目指している。だから、コペンのチーフエンジニアの藤下修氏も全国のローカルベースに出没しているという。
さらにコペンの専用工場も、オーナーが組み立て工程や検査工程を見学できることを前提として新設されている。もちろんこれは日本の自動車メーカーでは初の試みである。この新工場の見学コースは2014年8月中旬過ぎにはオープンする予定だ。
新型コペンはオープン2シーターだが、その走りはどんなイメージなのか? 走りのコンセプトは「感動の走行性能」である。
実はここにも「変える」というベース・コンセプトが隠されている。軽自動車という枠の中での走りではなく、軽自動車だからという制約を破り、常識を超えた走りを目指したのだ。そのため開発段階では参考車として最新のヨーロッパのBセグメントのスポーティモデルで走り込み、はるか上のクラスの気持ちよい走りを目指している。
だから、いわゆるスポーツカーにありがちな、子供っぽいクイックで過剰な反応の走りを目指しているのではなく、スタビリティと操舵感のバランスに優れた走りとフラットな乗り心地がテーマになっている。このあたりも、軽自動車スポーツカーといった近視的な発想ではなく、クルマとしての基本理念を重視していることが分かる。
■試乗レポート
現在の軽自動車やコンパクトカーは、室内スペースを稼ぎ出すため、ルーフは高くドライビングポジションはアップライトとなり、着座位置も高い。新型コペンの全高は1280mmで、着座位置は低い。パッケージングはまさに本格スポーツカー的で、当然室内のスペースもタイトとなっており、ファミリー向けやビジネスカーとはまったく違う、自分だけのスペースであることを実感できる。
ルーフのオープンは、左右のAピラー上部のフックをはずした後、センターコンソール部のスイッチを押し続けるだけで自動的に行なわれる。閉じる場合はその逆で、最後にAピラー部のフックをかければ完了だ。完全に操作が終わっていないのに走り出すと警報音が鳴るようになっている。
メーター、センターコンソールはシンプルでやや硬質なデザインだが、質感に不満はない。ラゲッジスペースは、オープンにした状態では折り畳まれたハードルーフが格納されるため、トランクのラゲッジスペースは後方部分しか使用できない。スーツケースなどを積載する場合はルーフは閉じた状態で使用することになるのは止むを得ないところだ。
エンジンは他車種にも搭載されているKF型3気筒ターボで、出力は64ps/92Nm。トランスミッションは5速MT、CVTを選択できる。CVTは7速スーパーアクティブシフト付きで、ステップ加速、マニュアル操作もできるし、ブリッピング制御も採用されている。一方5速MTはスポーツ走行用にオプション設定のLSDを装備できる。
2種類のトランスミッションはCVTの方が20kg重く、車重が5速MTが850kg、CVTが870kgとなる。絶対重量が軽量なだけに、この前軸荷重の20kgの差はけっこう大きく、操舵フィーリングでは、CVTの方が穏やかでどっしりしており、逆に5MTは軽快感を感じる仕上がりとなる。
加速感は、日常シーンで扱い易く、低速トルクが十分あるため気持ちよく加速できるし、アクセルを戻した後の再加速もレスポンスがよい。さらに専用チューニングされたマフラーにより、加速エンジン音も気持ちを高めてくれる。ということで動力性能に不満はまったくない。
乗り心地はスポーティ仕様といった感じで、やや固めといった印象だが、165/50R16サイズのタイヤはポテンザRE050というハイパフォーマンスタイヤのため、路面の凹凸に対しても減衰がよく、スポーティ感のある乗り心地といえる。
特筆すべきはボディががっちりしており、剛性感の高さは軽自動車のレベルをはるかに超えているということだ。結果的にフラット感のある乗り心地となり、振動や騒音に対しても有利で、プロトタイプ試乗の時と印象は変わっていない。ステアリングの操舵感もしっかりしており、リニア感のある効き味に仕上がっている。このステアリングのフィーリングとボディのしっかり感のハーモニーが新型コペンのドライブフィーリングを創り出しており、大人向けのドライビング・プレジャーに仕上がっている。
サスペンションもコーナリングでプログレッシブなフィーリングで、リバウンドスプリング内蔵ストラットや、ロング・ウレタンバンプラバーなどの隠し味が効いている。またリヤのサスペンションのグリップ感の高さもハンドリングの安心感につながっている。
そういう意味では、新型コペンは走るスピードには関係なく、ドライバーの意思と一体感のある走りのテイストを楽しめるクルマであり、開発の狙いどおりでもある。
今回登場した、コペン・ローブは、コペン・シリーズの第1弾であり、2014年秋には第2弾の「Xモデル」が、来年2015年には丸型ヘッドライトの「第3のデザイン」も登場予定だ。もちろんそれ以外にも、スポーツワゴン、バギー・スタイルなど多くのバリエーションの登場が期待される。
こうした意味でも楽しみは長く続く、かつてないクルマなのである。また同時に、操る楽しさと、オープンでの風を実感できるクルマという意味でも貴重な1台ということができる。