【ダイハツ】新型「コペン・プロトタイプ」試乗記 軽自動車でここまでできる! レポート:松本晴比古

マニアック評価vol267

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迷彩塗装を施された新型コペン・プロトタイプ。軽自動車の常識を打ち破るエモーショナルな味を持っていた

2013年東京モーターショーでお披露目された新型コペン発売のカウントダウンがいよいよ始まった。正式発表、発売は6月が予定されているが、それに先立ち新型コペンのプロトタイプに試乗することができた。

なお東京モーターショーで展示されたプロトタイプは「KOPEN」(軽自動車オープンカーの意味)、今回登場する市販モデルは初代モデルの車名を受け継ぎ2代目「COPEN」となる。初代コペンは2002年~2012年に販売されたが、今回登場する2代目コペンはコンセプトを大きく変えている。「日本ではスポーツカー市場は底を打ち、若者の自動車購入数は初代コペンを発売した時代に比べ半減しています」と、技術本部・製品企画部長の上田亨執行役員は語る。つまり単純に軽自動車スポーツカーを企画しても市場に受け入れられるのは難しいわけだ。

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そのため、新型コペンの企画・構想は3年間という時間をかけて検討を加えてきたという。またその間には、次世代の走りを求めて、初代コペンのボディをベースにして補強を追加したりという先行研究、先行開発も行なわれた。しかし、新型コペンの開発プロジェクトが正式承認されてからは12ヶ月を切る開発期間で仕上げられている。

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技術本部・製品企画部長の上田亨執行役員
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新型コペンの開発責任者・藤下修氏

 

そこで新型コペンは、スポーツカーとしての走る楽しさに加え、新しい価値、新しいスタイルを併せ持つこと、つまりベースの車両に複数のボディデザインを用意し、ユーザーが自分の個性でカスタマイズできる価値を付加している。これが東京モーターショーでデモンストレーションされた着せ替えボディのコンセプトで、東京モーターショーではスポーツカーデザインの「フューチャー インクルーデッド Rmz」と、クロスオーバー風のデザインを採り入れた「フューチャー インクルーデッド Xmz」の2種類が公表されている。このボディパネルの着せ替えコンセプトは「ドレスフォーメーション」と名付けられている。

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骨格はD-FRAMEと名付けられたロアボディのみで強度・剛性を受け持つ独自構造を採用

これを実現するため、新型コペンはアンダーボディの骨格だけで強度・剛性を受け持つ「D-フレーム」を新規開発している。新型コペンの開発責任者の藤下修氏によればこのプラットフォームのベースはミライースだというが、実質的には専用開発されている。「D-フレーム」など新技術の詳細を参照されたい。

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骨格の特徴は、フロント・フレーム部、キャビンフロア、リヤ・フレーム部を一体結合構造とし、特にフロア面をボックス断面フレームとすることでペリメターフレーム的な仕上げとしていることだ。フロン、センター、リヤと剛性の変化を抑え、旧型コペンに比べて曲げ剛性は3倍、ねじり剛性は1.5倍になっているという

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カウルトップ前側のフレームは強度を負担する構造を採用しタワー部を左右結合
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リヤは外周部とダンパ取り付け部を強化しキャビン部と結合

 

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フロント・サブフレームとステアリングラックギヤのマウント

こうした骨格構造を作ることで、アッパーボディは強度的な負担がなく、オレフィンポリマー(熱可塑性プラスチック)製のボディパネルを採用することができたわけだ。もっとも熱負荷のかかる部分のみはSMC(Sheet Molding Compound樹脂)を採用している。そして、プラスチック製のボディパネルはすべてボルト止めのため、ボディパネルの脱着ができるわけだ。このボディパネルの脱着は、販売店での作業を想定していると上田執行役員は語っているが、もちろんオーナーが挑戦しても不可能ではないと思う。

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床下面を鏡で見た状態。頑丈なトンネルブレース材、燃料タンクが見える

試乗会場には、新型コペンのホワイトボディ、完成車も展示されていたが、完成車両はプロトタイプで、内装などはまだプレ試作段階の状態だった。特徴的な骨格構造の床下のセンタートンネルブレースなどは鏡で見ることができるようになっていたが、こうした床下の多数の補強材は、当然ながら取り付け工数が多いため、特別な専用ラインで生産されるコペンだからこそ可能と言えるし、プラットフォーム平面の剛性向上には大きく貢献しているはずだ。

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樹脂製燃料タンクは、ダイハツとしては初の試みとなり、コペン用は徹底して薄肉化した軽量樹脂タンクに挑戦している。一般的に樹脂タンクは床下面に密着させる複雑な形状にできる自由度が高いが、その分、薄肉化が難しいため、スチール製に比べて大幅といえるほど軽量化されていなかったが、このタンクは薄肉にして軽量化のためのアイテムとしているのが特徴的だ。

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新型コペンは、ステアリングを握って走り出した瞬間から、レベルの高い気持ちよい走りが実感できた。まずは軽自動車としては圧倒的なボディのしっかりした剛性感とフラット感が感じられるのだ。これは間違いなくプラットフォームのポテンシャルの高さに由来するフィーリングだろう。一方でサスペンションはやや固めと言った印象だが、ボディがしっかりしているため不快さは感じないし、スポーティな味付けと言うことができる。

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インテリアのダッシュボードなどはプレ試作段階

なおルーフは初代モデルと同様のシステムの電動油圧式のアクティブトップ(電動開閉式)を採用するが、ルーフ部、バックパネルなどは樹脂製で、軽量化を行ない、遮音性能も高められているという。オープンカー、クローズドクーペという2つの楽しみ方ができるのもコペンならではの魅力だ。

エンジンは、最新のタント用のターボエンジンを搭載する。トランスミッションは、専用チューニングされたCVTと、5速MTが設定されている。今回は乗ることができなかったが、5速MTは海外仕様車のユニットを改良したものだという。CVTは7速マニュアルモードを持ち、リニアな加速フィーリングが得られるように専用チューニングされているが、やはり急加速時には一瞬の間があるようなフィーリングは残っていた。マニュルシフトモードでは少しダイレクト感が高まり、恐らくMTなら文句なしのダイレクト感が味わえるだろう。

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エンジンの特性は低速から十分なトルク感があり、滑らかに吹け上がるフィーリングは気持ちよい。またコペン用に専用チューニングされたマフラーを備えているため、加速時には一般的な軽自動車とは異なる軽快で澄んだ気持ちよいサウンドが聞こえるが、サウンドのレベルは想像していたより低めだ。やはり女性ユーザーも想定しているため、控えめなサウンドに留めているという。

サスペンションは形式こそフロント:ストラット式、リヤ:トーションビーム式でごく一般的だが、チューニングはコペン専用でハイレベルの仕上がりといえる。ムーブ以後のモデルと同様に、フロント・ストラットはリバウンドスプリング内蔵式で、コーナリング内側タイヤのグリップ力を最大限に高め、リヤのトーションビームはトーコレクトブッシュを採用し、横Gの発生に対してしっかりとトーイン特性が得られるようにしてある。さらに、ダイハツとしては初のロング円錐状バンプラバーを前後ダンパーに採用し、ダンパーの縮み過程で早期にこのラバーに当て、縮みの進行に連動してプログレッシブにスプリングレートが高まる仕掛けにしている。いずれも見えない部分だが、基本に忠実にじっくりに詰めたポテンシャルの高い足回りといえる。

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このため少し荒れた舗装でも横Gの高めのコーナリングでも姿勢の乱れがなく、コントロール性の高い、意のままの気持ちよい走りを味わうことができ、フラットな乗り心地やサスペンションストローク感も感じられた。ステアリングラックギヤは片側はサブフレームにボルト2本止め、もう片側はΩ型ブラケットによりボルト2本止めで、この分は他のモデルでは1点止めのため、取り付け剛性が向上している。そのためもあってステアリングのギヤ比は標準的だがダイレクト感もありかなりしっかりしているが、リヤのグリップの高さが極めて高いことを考えると、もう1ランク上の正確さが欲しくなるほどだった。なお低速では操舵力はかなり軽い設定になっている。このあたりは女性ユーザーの日常での使用を考慮した設定だという。

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タイヤは専用開発されたブリヂストンRE050(165/50R16サイズ)を装着している点でも、コペンの本気度がわかる。加速、ブレーキ、コーナリングでのグリップ、コントロール性のよさはやはり一般的な的な軽自動車レベルよりかなり高いところにある。新型コペンは軽自動車のオープン・スポーツカーというより、はるかに高い目標を掲げて開発されていることも特筆できる。開発時の参考車両としてVWポロやMINIクーペで走り込み、目標としてはヨーロッパ製のBセグメント車と同等のエモーショナルな走りを目指しており、軽自動車という枠をはるかに抜きん出た存在を目指しているのだ。

実際、ステアリングを握ると、ギミック的なスポーツカーチューニングではなく、バックボーンをしっかりさせ、しかもドライバーにとって気持ちよい、ハイレベルの走りのテイストを実感することができる。ダイハツの「軽自動車でもここまでできる」という意気込み、目指したヨーロッパBセグメントの骨太な走りのフィーリングは誰が乗っても身体で感じることができると思う。

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新型コペンは目指した走りのイメージ

新型コペンは、軽自動車スポーツカーという単純なカテゴリーではなく、若者や女性を引き付け、クルマの楽しさを表現できる新しい試みとして着せ替えボディという手法を採用して、200万円を切る価格での発売を想定しているという。クルマの新しい楽しみ方の提案として画期的と言えるが、もちろんそれだけではこうしたカテゴリーのクルマは事業として成立させることは難しいので、6月の正式発表時にはさらに新しいビジネス展開も発表されるというから楽しみである。

ダイハツ公式サイト

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