第3のエコカーとして2011年9月20日に満を持して登場。ガソリンエンジン車を徹底して低燃費仕様に絞り込んだのが、このダイハツ・ミラ“e:s(イース)”だ。価格に関しても成形の工夫、材料使用量の低減、流通コストの削減などが講じられ、最廉価モデルは79.5万円。ただし今回の試乗車は、112万円で最高級となるGグレードである。
JC08燃費で30km/Lをガソリン車で初めて達成
軽自動車は低燃費と思われがちだが、小さいエンジンをぶん回してパワーを絞り出すために、摺動抵抗とのバランスで熱効率が悪く、近年は1.3Lクラスの乗用車や、ハイブリッド車に燃費優等生の地位を奪われつつあった。さらにマツダのデミオが“スカイアクティブ”というスゴ技を発揮。JC08モード燃費で25km/L、10・15モードでは30km/Lという大台を叩き出す時代となった。
危機感を覚えたダイハツがその面目躍如のために投じたのが、このミライースだ。 より実用燃費に近いJC08モード燃費でズバリ30.0km/Lを達成。プリウスなどのハイブリッド車には届かないものの、スカイアクティブのデミオを凌駕し、ガソリン車の中では一気にトップに躍り出る快挙を達成した。
その手法はボディの軽量化に始まり、ミッション(CVT)の伝達ロスや抵抗の軽減化を徹底。車重の軽量化のお陰でファイナルギヤレシオをハイギヤード(5.444→4.523)に変更でき、エンジン回転を抑えて熱効率を高めることができた。空力も3%向上。タイヤなどの転がり抵抗の低減と、まさに重箱の隅を突っつくほどの涙ぐましい努力の成果だと言える。
全高1500mmが新鮮なシルエットを生む
ボディスタイリングはミラのイメージを感じさせるが、空力に配慮しミラより30mm背が低い。さらにホイールベースも短め。全体にスムーズなラインで、張りのある綺麗な面で構成されている。シンプルながらクリーンな佇まいは、嫌みなく好感の持てるデザインだ。リヤもフェンダーから後端部まで側面はフラットな面で統一され、角はスパっと切り落とされるエッジの効いたデザイン。ルックスと空力面に配慮され、男性でも女性でもすんなりと受け入れられるエクステリアに仕上がっている。
室内デザインも、ダイナミックながら嫌味がなくスッキリ。試乗モデルではダッシュボードセンターにナビがあり、運転席前に深く彫られたメーターナセルの中央奥には、特大表示のデジタルのスピードメーターなどが配置される。このあたりのデザインもスッキリしていい。さらに左側には減速時のエネルギー回生モニター、右側には燃料計と距離計などのマルチインフォメーションディスプレイが収まっており、シンプルだが見やすい。
ドラポジと広さは十分以上。リヤは賛否両論
左右セパレートタイプのシートは座り込むと腰の包まれ感もあり、見た目以上に座り心地がよくて安心感も高い。目線も高く、視界が良いのもありがたい。小柄な女性でもGグレードではシートリフターでさらに高められるが、高めなくても小柄な私だとこれで十分。それでいて頭上からルーフまでのゆとりは20cm程度もあり、室内の広さ感はかなりのものだ。
リヤシートはベンチタイプ。シートバックも左右一体型となる。さらにヘッドレストは義務ではないので設定もされていない。価格を抑えるためだが、オプションでいいので用意してほしいところだ。逆にメリットとしてはバックの際に後方が見やすいことや、基本的にシートバックより頭が出ない子供が座る場合は必要ないということも言える。またリヤのバックレストは少し腰の部分のふくらみが不足気味で、長距離では腰が疲れそうだ。とはいえ膝前のゆとりは35cm近くもあり、軽ながらとても広く、大柄の人でも楽に乗れるのが嬉しい。ちなみにリヤシートは前後スライドはしない固定タイプだ。
実用域では走りやすい動力性能の持ち主
運転席に収まるとすこぶる前方視界はよく、安心してドライブできる。メーカーオプションのスタートボタン(標準装備は通常のキーをひねるタイプ)をひと押しして始動する。アイドリングのバイブレーションが多少シフトとステアリングに入るが、大きく気にならない。
シフトしやすいストレートタイプのガイドで、セレクターをPからDレンジにシフトして発進する。そこから30km/hあたりまではなかなかトルク感があり、安心感の高い動力性能だ。市街地でのトロトロ走りも不満なく走れる。60km/hのクルージングでも軽くアクセルに足をのせている感じでストレスなく走れ、心強い。
また、停止から全開加速で400mまでの所要時間はテストコースで19秒台とのことで、軽として必要にして十分。パワーとトルクの数値はミラを5kW(6ps)と5Nm(0.5kgm)下回る38kW(52ps)/6800rpmと60Nm(6.1kgm)/5200rpmだが、ミラより軽いボディのため、走りでは遅れを取らない。市街地でのクルマの流れに十分ついていけ、不満はまったく感じない動力性能だと言えよう。
得した気分にさせてくれる演出が心憎い
メーターパネルの上下(LとDでは上部のみ)に横に広がる帯状のエコドライブアシスト照明がある。低燃費運転の時にはグリーンに、そして燃費が悪くなるとブルーへ色が変わるので、燃費の良いアクセルの踏み方が学習でき、なかなかに便利だ。自然に低燃費運転のコツが覚えられる。
また「エコアイドル」と呼ぶアイドリングストップシステムが装備されている。赤信号で止まるべく減速させている途中、時速7km/h以下になると知らない間にスムーズにエンジンが停止。信号が青に変わってブレーキを離すと、これも気付かないぐらいのスムーズさでエンジンが再スタート。まったくストレスのない一連の作動だ。また停止中は左側のディスプレイにアイドルストップ時間の合計が、右のエコドライブアシストディスプレイ(LとDを除く)には80mlなどと節約したガソリン量が表示されるので、とてもお得感がある。
また、減速すると右のディスプレイに“CHARGE(チャージ)”と表示されてバッテリーに充電が始まり、これも得した感じで嬉しい。
操縦性も安定。軽にふさわしい低燃費車の出現だ
パワーステアリングの操舵力は軽めで扱いやすい。ただし車速が高い時に、もう少し直進状態から軽くスムーズに切れるとさらに嬉しい。シャシー剛性やサスペンションの設定はよく、高速のレーンチェンジも素直でクセがない。タイヤは省燃費タイヤの横浜ゴム製ブルーアースの155/65R14サイズを履いている。少々高めの空気圧のためか、多少跳ねるような雰囲気はあるものの、しっかりしたサスのために操縦性や直進性は安定しており、安心して走ることができる。
短い市街地での試乗だったが、動力性能に不満はない。発進加速なども試しつつという、燃費には厳しい運転をしても18.9km/lの平均燃費を今回記録した。
インパネまわりの質感も高く、フロントシートの出来も良いので、好感が持てる。さらにブレーキフィールも良かった。大きく開いて乗り降りしやすい前後ドアも使い勝手がよく、軽にふさわしい低燃費車の出現は大歓迎だ。
文:津々見友彦