この記事は2018年12月に有料配信したものを無料公開したものです。
フォルクスワーゲン・グループは2017年秋に宣言していた「ストラテジー2025」で、電動化戦略の具体的なロードマップを明らかにした。その内容は、グループで2030年までに電気自動車(EV)など車の電動化に200億ユーロ(約2兆5000億円)を超える投資を行ない、2025年までに80車種の新型車両を投入するというものだった。が、根本的な見直しが行なわれ、大きく舵をきることになった。
ストラテジー2025では、ディーゼルエンジン搭載車を縮小するということを意味するのではなく、アメリカでのZEV規制や、世界最大の市場で、しかもフォルクスワーゲンのシェアがきわめて高い中国政府の電動車政策(ニューエネルギー車導入:NEV規制)に対応するための戦略だった。その戦略に合わせ、車載電池の性能向上のほか、工場設備や充電設備などインフラ整備にも力を注ぐとした。そして電動化モデルを80車種ラインアップし、うちEV車が約50車種、プラグインハイブリッド車が約30車種。グループの各ブランド全体で300車種が展開されているが、それぞれの車種に電動化モデルを最低1車種はラインアップするとしている。この基本的なロードマップを策定し、発表したのはマティアス・ミュラー会長であったが・・・
電動化戦略2017から2018へ大転換
フォルクスワーゲン・グループは、2018年春に、グループの経営戦略そのものを根本から見直すに至った。これはグループを統括する取締監査役会による企業統治体制の大改革を意味している。
フォルクスワーゲン・グループは、より効率的なグループ経営を目指すとし、グループを「ボリューム」、「プレミアム」、「スーパープレミアム」、「バス・トラック(TRATON AGとして分社化)」、「車載コネクティビティ&IT」、「購買」という6つの事業分野と中国事業に再編成することにした。またこの事業再編成と合わせて、マティアス・ミュラー取締役会会長兼CEOが退任し、新たにフォルクスワーゲンの乗用車の責任者ヘルベルト・ディース氏が取締役会会長兼CEOに就任した。
このことは、フォルクスワーゲン・グループがブランドの集合体であり、個々の事業単位における相乗効果を体系的に活用し、意思決定を迅速化するとしている。そして、改めて商品戦略を策定し、より具体的なロードマップを2018年秋に発表した。
EV専用工場とフォルクスワーゲン製バッテリー
2023年までの5年間で電動化や自動運転など、次世代分野に440億ユーロ(約5兆6000億円)を投資すると発表した。前年にミュラー会長が発表した投資額の2倍以上だ。そしてドイツ国内のハノーバー工場、エムデン工場の2プラントをEV専用工場に転換するほか、将来的には自社での電池生産にも乗り出すという。
440億ユーロという投資額は、グループの全投資額の約1/3に相当する。電動化と自動運転開発、デジタル化の3分野に集中的に投入するという。なおこの投資額には中国への投資は含まれず、したがって、自動車業界では空前の投資額となる。
2019年からEVを量産するドイツ東部のツヴィッカウ工場に加え、現在はパサートを生産しているエムデン工場を22年にEV専用工場に刷新。商用車バンを生産するハノーバー工場は、「ワーゲンバス」のEV版となる「I.D.BUZZ」を生産する。3工場の合計で年間約80万~100万台のEVを生産する計画で、これはもちろん他の自動車メーカーでは考えられない生産台数だ。
またEVやPHEVにとってカギとなるリチウムイオン・バッテリーは、これまで韓国のサムソンなどから購入していたが、EVの量産に合わせ自社の内製か合弁による生産の方向に舵を切っている。ディース会長は「我々の計画では年間150GWhのバッテリーが必要だが、現在のヨーロッパでの生産能力は20GWhしかない」と危機感を抱いている。
新プラットフォーム戦略
そしてフォルクスワーゲン・グループの電動化戦略の基盤となるのがプラットフォーム戦略だ。エンジン車のためのモジュラー・プラットフォームであると同時に、PHEVやEVにも適合する「MQB」、そして、アウディ「e-tron」などで採用するエンジン車/電動車用「MLB evo」、そして新世代のピュアEVの「ID.シリーズ」で採用する「MEB」という3種類が基盤となる。
さらにアウディ、ポルシェが採用するプレミアムEV向けの「PPE(プレミアムプラットフォーム・エレクトリック)」、その上の超高級スポーツカー向け「SPE(スポーツプラットフォーム・エレクトリック)」も新たにラインアップされる。SPEは、ポルシェが開発主導し、アウディR8のEV版で、ランボルギーニなどに採用される構想だ。もちろんPPE、SPEはMEBとは違って少量生産が前提のプラットフォームだ。