フォルクスワーゲンの電気自動車戦略とMEBプラットフォーム

EV用モジュラープラットフォーム「MEB」

フォルクスワーゲンは2018年9月にモジュラー・エレクトリックドライブ・マトリックス(MEB)を初公開した。このMEBは「すべての人のための電気自動車プラットフォーム」で、当然ながら手頃な価格で魅力的な電気自動車を実現するための基盤技術だ。言い換えると、これまではニッチ商品であった電気自動車を、ベストセラーカーへと導くためのプラットフォームと位置づけられている。

フォルクスワーゲンのeモビリティ担当のトーマス・ウルブリッヒ取締役は、「MEBの開発はフォルクスワーゲン史上で最も重要なプロジェクトの一つであり、ビートルからゴルフへの移行に匹敵する技術的なマイルストーンになります」と語っている。

eモビリティ担当のトーマス・ウルブリッヒ取締役
eモビリティ担当のトーマス・ウルブリッヒ取締役

そしてMEBを使用して、フォルクスワーゲン・グループは2020年までに10万台の「I.D.」、「I.D. クロス」モデルを含む15万台の電気自動車を販売する計画だ。そして2025年までに100万台の電気自動車を生産し、将来的にはグループ全体で、このMEBを使用して1000万台の電気自動車を生産するとしている。

これまでの常識を破る、電気自動車としては途方もない台数の生産を目指すということは、なによりもスケールメリット(量産効果)を最大限に活かすためだ。

フォルクスワーゲン・グループが採用した革新的なモジュラープラットフォーム「MQB」は、すでにグループ全体で5500万台が生産されたという。MEBはまさにこのMQBの電動車化バージョンであり、他の自動車メーカーでは考えられない大量生産を前提としており、フォルクスワーゲンの「I.D.シリーズ」だけでなく、アウディ、シュコダ、セアト、商用車など、グループ全体で使用されることになっている。もちろんMEBは、従来からのMQBと並行して展開され、MQBは内燃エンジン付きのハイブリッド、PHEVまでをカバーする。

MEBの基本レイアウト
MEBの基本レイアウト

MEBの基本レイアウト

MEBのモデルラインアップ

MEBを採用した最初の車両「I.D.」は、2019年末にツヴィッカウ工場でロールアウトする予定だ。またこれに合わせ、「フォルクス・ウォールボックス」と名付けられた手頃な価格の家庭用充電システムの販売を開始する予定だ。もちろん急速充電、普通充電のインフラも自動車メーカー/電力会社の合弁会社である「IONITY」に参加し、欧州全体の高速道路で充電ステーションネットワークを開発・拡張しつつある。

I.D.シリーズに用意される充電システムと充電時間
I.D.シリーズに用意される充電システムと充電時間

MEBは、純粋な電気自動車専用に設計したモジュラーアセンブリーマトリックスを採用しており、車両構造を電気自動車専用に再定義。スペース効率の点で、内燃エンジン車用より大幅な改善を成し遂げているのだ。またI.D.ファミリーのすべてのモデルは、急速充電に対応するよう設計される。

そして車両コンセプトとデザインを、これまで以上に柔軟に構成できることも特長で、コンパクトカーからSUV、MPV/ミニバンに至るまで、自在に適合できるのだ。もちろん生産性にも十分配慮され、内燃エンジン車より高効率、合理的に量産することができるようになっている。

大量生産を前提に開発されたMEBプラットフォーム
大量生産を前提に開発されたMEBプラットフォーム

フォルクスワーゲン・ブランドとしては、すでに電気自動車として「I.D.」、「I.D. CROZZ(クロス)」、「I.D. BUZZ(バス))」、「I.D. VIZZION(ビジョン)」の4タイプを公表しており、車両技術の開発はすでに終盤に差し掛かっているという。最初に2020年初頭に発売される「I.D.」はシリーズの牽引役で、手頃な価格、4ドア・ボディ、コネクテッド機能を備えたコンパクトカーだ。

Cセグメントのベースモデル「I.D.」
Cセグメントのベースモデル「I.D.」

MEBを採用するクルマは、十分な航続距離、スペース効率、使い勝手、快適性、運動性能などを高い次元で満足させる新たなモビリティを実現できるとされているが、なによりも革新的な点はそのパッケージングにある。

フロントに内燃エンジンが存在しないため、通常よりフロント・アクスルを大幅に前進させることができ、超ロング・ホイールベース、ショート・オーバーハングになっている。この結果、室内の広さ、使い勝手はこのコンパクトクラスの常識を打ち破っている。I.D.を例に取ればボディサイズはゴルフと同等だが、ホイールベースはパサート並になっているのだ。

クロスオーバーSUVの「I.D.クロス
クロスオーバーSUVの「I.D.クロス

MEBの構成

MEBの特長は駆動モーター、1速のギヤボックスをリヤ・アクスル部にコンパクトにレイアウトし、フロア部は完全にフラットなリチウムイオン・バッテリーの搭載スペースになっている。そしてフロントにはパワーエレクトロニクス、補機、12Vバッテリーなどを配置。ちなみにI.D.コンセプトカーの段階では駆動モーターの出力は170ps(125kW)で、0-100km/h加速は8秒を切るレベル、最高速は160km/hとされている。なおバッテリーの容量は、ユーザーの希望に合わせて数種類が用意され、バッテリー容量によりWLTPモードでの航続距離は330~550kmとされている。

I.D.バス。デザインはかつてのタイプ2をイメージしている
I.D.バス。デザインはかつてのタイプ2をイメージしている

バッテリーは、「I.D.」ファミリー向けに、従来のe-ゴルフ用とは異なり、よりシンプルな構造で大幅にパワーアップしたシステム・パッケージで、アルミ製パッケージケースを採用している。高い冷却性、容量の柔軟性を持っており、大小さまざまな容量を選択することができる。なお、現時点ではバッテリー・パックは、サプライヤーに合わせラミネート型、角型のいずれにも対応できる設計だ。これまでのフォルクスワーゲンのバッテリー開発部門は、現在は先端技術研究所に集中移管され、この研究所がバッテリーセルのサプライヤー対応部署となっている。

I.D.ビジョン
I.D.ビジョン

またMEBは、初の車両エレクトロニクス・アーキテクチャー「E3」と、車両全体の制御のための統一OSとして「vw OS」を採用している。「E3」は車両内のすべてのECUを統合した集中ECUとして働く。この新しい集中ECUはコネクティビティを活用し、インターネット通信によりソフトウエアの更新を行なうことができる。

世界各地でテスト走行を行なっているI.D
世界各地でテスト走行を行なっているI.D

このようにフォルクスワーゲン・グループはMEBを導入し、他の自動車メーカーとは比較にならないレベルの量産規模で、純電気自動車の分野でリーダーシップを確立することを目指している。現在の所、この戦略、投資規模に対抗できる自動車メーカーはないので、フォルクスワーゲン・グループの手腕を見守る他はないのである。

フォルクスワーゲン 関連情報
フォルクスワーゲン・グループ 公式サイト

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