2014年10月20日、ポルシェはWECに参戦しているLMP1マシン「919ハイブリッド」のステアリングホイールを初公開した。ステアリングの24個のボタン/スイッチと、6個のパドルを操作するようになっている。
ステアリングホイールの形状は、乗車・降車時にドライバーの膝と干渉しないように四角形となっている。中央の大型ディスプレイは、ドライバーに提供する多くの情報を表示する。情報は、速度、選択ギヤ、選択中のエンジンマネージメント、リチウムイオンバッテリーの充電状態など。左上のコントロールボタンで表示される情報を選択し、右グリップのコントロールボタンで夜間にディスプレイの輝度を調整する。同様に左グリップのコントロールボタンは、ピット無線の音量調節用で、右上の4つめのロータリースイッチはフロントワイパーの作動間隔を変更するためのスイッチだ。
ステアリングホイールのボタン/スイッチは、ドライバーがレースで確実に操作できるように配置されている。最も頻繁に使用するボタンは、親指が届くように上部外端に沿って配置されている。最も頻繁に使用する右上のブルーボタンは、ヘッドライトフラッシャーで、速いプロトタイプが遅い車両を追い越す前に警告用に使用。一度押すとヘッドライトが3回点滅するようになっている。レース中はドライバーはほとんど親指をそこに置いたままになるのだ。
左上の赤いボタンも使用頻度が高く、バッテリーから電力を引き出すときに使用する。いわゆる「ブースト」ボタンだ。ドライバーは追い越すためにブーストを使用できるが、1周のエネルギー量は規定されているので、パワーの割り当てには注意が必要となる。ル・マンの1周で使用できるエネルギー量は6MJで、短い距離のサーキットではそれより少ない。集団から抜け出すために周回の途中で電気エネルギーを消費すると、ストレートの最後で使えなくなることもあるのだ。
左右のさらに内側には、駆動力を前輪と後輪にバランス良く配分するために、フロントとリヤのトラクションコントロールを調節するプラスとマイナスのスイッチがある。イエロー、ブルー、ピンクのこれらのスイッチは、それほど頻繁に使用されることはない。下のオレンジボタンは、ドリンクシステム(左)と、トランスミッションのニュートラルボタン(右)。左下のレッドボタンは、ウインドウォッシャーで、右側のレッドボタンは、速度が制限されているピットレーンを走行するときに使用するスピードリミッターだ。
中央上部には無線通信用のグリーンボタン(左)と、OKボタン(右)がある。ドライバーは、OKボタンを使用してピットから要求されたセッティングの変更を実施したことを伝える。ロータリースイッチを使用するセッティングの変更は、片方の手をステアリングホイールのグリップから放す必要があるため通常はストレートで行なう。
「マルチ」と呼ばれる2個のロータリースイッチは互いに連携している。左側はABC設定、右側は数値設定。エンジンマネージメントやフューエルマネージメントのプログラムは、A2やB3など文字と数字の組み合わせによって指示される。他の3個のロータリースイッチは、ブレーキバランスのプリセレクト、トラクションコントロールのウェットコンディションまたはドライコンディションのセッティング、ハイブリッドプログラムに使用される。
スイッチは夜間でも簡単に識別できるように、ドライバーのヘルメットに取り付けたブラックライトランプに反応する蛍光カラーが使用されている。
ステアリングホイール本体はカーボン製で、グリップハンドルは滑り止めラバーで覆われている。パワーステアリングのため細いグリップにもかかわらずドライバーはステアリングを容易に操作することができる。
ステアリングホイール裏側には6つのパドルが配置されている。中央のパドルはギヤチェンジに使用し、右パドルを引くとシフトアップ、左パドルを引くとシフトダウン。一番下のパドルはクラッチ操作用。右コーナーか左コーナーかによって、使いやすいほうを選択することができる。
左上のパドルはブースト用で、ドライバーは好みでフロントのボタンかこのパドルを使用することができ、右上のパドルによってエネルギーの回生を手動で作動させることができる。つまり意図的にドライバーは運動エネルギーから得た電気エネルギーをバッテリーに供給できるようになっているわけだ。