2017年9月にマイナーチェンジしたSクラス、マイバッハはデザイン、パワートレーン、機能という3つのポイントで進化して登場した。試乗はS 560 ロングとメルセデス・マイバッハ S 560 でいずれも4MATICモデルだった。東京都内から関越~上信越高速道路を走り、軽井沢周辺で乗り換えて東京に戻るという試乗ルートでドライブした。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
メルセデス・ベンツのフラッグシップモデルであるSクラスともなれば、すべてが高級で至れり尽くせりの機能や装備であることは言うまでもないが、こうしたプレステージクラスでは、「移動」をどのように過ごすのか?ということがポイントになるだろう。
特にメルセデス・マイバッハ SクラスはSクラスのロングボディよりさらに20cmも長いホイールベースで、後席の居住性をファーストクラスへ押し上げるさらなる広さを持っている。マイバッハの後席はロングホイールベースを有効に利用し、広いわけだから運転手付きのいわゆるショーファードリブン・カーという位置づけになる。したがって「移動」を後席で快適に過ごすために、さまざまな機能が盛り込まれているというわけだ。
リヤシートは左右ともに、レッグレスト(オットマン)を備え、シートバックは43.5度までリクライニングする。ヘッドクリアランスもSクラスより一層拡大されていて天井の高さを感じる広さがある。また、後席から助手席を前方へスライドできるスイッチがあり、ヘッドレストの折り畳みも自動で行なえるショーファーポジションというのも装備する。これは、助手席のスライドを一番前に出したポジションより、さらに77mm広くなるのだ。
また、リヤシートの着座位置とフルリクライニングにした状態では頭の位置がサイドウインドウに近い状態と、リヤウインドウやCピラーに近い位置に変わるため、風切り音などの聞こえ方も変化する。そのため、エアロダイナミクスを研究し、風切り音、遮音材、特殊なシーリング技術などを駆使して、量産車として世界最高の静粛性を実現している。
もちろんその静かな室内での音響では、ドイツのハイエンドオーディ専門メーカー「ブルメスター」社と共同開発したサウンドシステムを搭載していたり、フロントシート背面に10インチの大画面モニターを装備し、左右独立したコンテンツを楽しむことができたりもする。
さらに、エアコンにはくつろぎをもたらす香りのエアアウトレット「パフュームアトマイザー」機能があり、芳醇な香りを車内で楽しむことができる。そして夜間には、とりわけ映えるゆっくりと変化し続ける64色のアンビエントライト、マイバッハ専用シャンパングラスもあり、専用台座を使って飲み物を楽しむシチュエーションも誕生する。
こうした究極のエクシクルーシブ性は、忙しく働くビジネスVIPが、マイバッハの後席でくつろぎ、次の仕事に向けて英気を養う場としての「移動」の使い方なのだということを、チラッと疑似体験することができた。
■Sクラス
Sクラスも同様にショーファードリブンな位置づけでありつつ、ドライバーズカーとしてのユーザーも多くいるだろう。だが、S400を除くロングボディはやはり大きい。試乗車のS 560 ロングは全長5255mm、全幅1900mm、全高1495mm、ホイールベース3165mmだ。S400の標準ボディでもホイールベースは3035mmで3mを超えている。
ちなみに前述のマイバッハ Sクラスは全長5465mm、全幅1915mm、全高1495mm、ホイールベース3365mmとなる。価格はメルセデス・マイバッハS 560が2253万円で4MATICも同額で消費税込みの値段だ。さらに上級のS 650になると2761万円になるが、メルセデス傘下に入ってのブランド展開になったため、以前のマイバッハよりは格安になったと言えるのかもしれない。でも普通じゃぁ買えないが。
一方SクラスはS 400の1128万円からスタートし、メルセデス-AMG S65ロングが3323万円というプライスで、試乗車は1681万円のモデルということになる。
さて、このマイナーチェンジではデザイン変更、パワートレーン変更、そしてさまざまな機能の進化というのがポイントになるが、その詳細は既報なので、参考にしてほしい。
(参考ページ:メルセデス・ベンツ 新型「Sクラス」を発表)
試乗したS 560 ロングの4MATICにはV型8気筒の直噴4.0Lツインターボを搭載し、4気筒の気筒停止をする環境性能の高いエンジンだ。469ps/700Nmというパワーに9Gトロニックが組み合わされている。言うまでもなく静かに走り高級車らしい静粛性を保ちながら滑るように走る。とくにハンドルを握るとこの滑らかさがひときわ際立ち、Sクラスをショーファーではなく、ドライバーズカーとして乗るというオーナーの気持ちが分かる。これほど滑らかな走りを実感するモデルは、プレステ―ジクラスに限られる極限の贅沢なのかもしれない。
進化した多くの機能の中で注目なのは自動運転に向けての技術の進化だ。今回飛躍的に進化したレーダーセーフティパッケージは、運転が楽になったことを多くの場面で実感する。高速道路での渋滞時自動追従機能を稼働させると、停止した場合30秒以内であれば自動発進するようになった。(一般道では3秒以内)これをアクティブディスタンスアシスト・ディストロニックと呼び、機能強化として実装した。
新機能ではアクティブレーンチェンジアシストがある。高速道路を走行中にウインカーを出せば、自動で車線変更をする。周囲にクルマがいるかいないかはクルマが自動で判断し、危険がないことが確認されると3秒後に車線移動する。もし、車線変更が危険だと判断された場合でも10秒以内であれば周囲を検知し続け、安全となった場合は自動で車線変更をする。
この機能はタカハシのほうがまだ、疑心暗鬼で「お~、本当だ!」と感心しているレベルで、自車位置周辺を360度ステレオマルチパーパスカメラと、レーダーセンサーにより交通状況を的確に把握していることを実感した新しい体験だった。
楽しい新機能ではリモートパーキングアシストがある。こちらはメルセデス・ベンツジャパンの方がデモンストレーションをやってくれたが、縦列も車庫入れも問題なく無人で駐車してくれる。スマートフォンと連動させ、ドライバーはクルマから降り、外からスマホを操作して駐車させる。
ドアを開けられないような狭い場所への駐車や、縦列駐車が苦手という人には有効な機能だ。もっともこのサイズでホイールベースも3mを超えているので、縦列や車庫入れに自信があったとしても機械に任せたほうが安心だ。100%の確率で、ぶつからないのだから。
こうした最新の、そして最先端の技術はフラッグシップモデルから投入されるのが一般的だ。他にもここには書き切れない機能の進化があり、体験しきれない機能もたくさんあった。だからきっと、Sクラスは多くの人が、所有できるものなら、所有してみたいと思うモデルだろう。