メルセデス・ベンツ 新型Sクラス試乗記 48V電動化されたS450詳細

マニアック評価vol582
メルセデス・ベンツのSクラスに新パワーユニットを搭載したS450に試乗した。このクルマの注目ポイントはエンジンだ。直列6気筒の復活、48Vモーターを内蔵するマイルドハイブリッド、電動スーパーチャージャー、そしてターボを搭載し、ベルトレス・エンジンになって登場。9G-Tronicと組み合わされてメカトロニクス満載で発売された。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>

メルセデス・ベンツ S450 フロントイメージ

新型S450の試乗レポートをお伝えする前に、このクルマのハイライトである新型のM256型エンジンをみてみたい。そこには多岐にわたる新技術と考え方というメカトロニクスの投入があるわけで、その詳細は有料記事ページでもお伝えしている。
*参考:メルセデス・ベンツの直6エンジン復活を機に直6、V6を考察した結果V6が消滅!
ここでは、ポイントを絞ってエンジンを考察し、その乗り味をお伝えしていくことにしよう。

メルセデス・ベンツ S450 フロントイメージ
直列6気筒に電動のモーター、スーパーチャージャー、ターボチャージャーを搭載

■電動化部品満載のパワーユニット

6気筒の復活には諸説あり、衝突安全技術の進化による復活や振動などの静粛性の利点、V型6気筒と比較して部品点数が抑えられる、なども語られる。そうした総合的なメリットを踏まえ、メルセデス・ベンツは今後V6型を廃止し、モジュール化された直列エンジンへとシフトしてく。

メルセデス・ベンツ S450  コックピット
こちらが電動化部品を満載するS450インテリア

最初にこのエンジンの開発の狙いをお伝えすると、今後実施される、より厳格な環境規制、CO2や排出ガス基準に適合させるための基礎として開発しているのだ。つまり、可能な限り電動化をし、燃料消費を最小限に抑えつつ、競争力のあるパフォーマンスは維持する、ということでもある。

メルセデス・ベンツ S560 コックピット
V型8気筒搭載のS560のインテリア

さて、概要としては型式がM256型で、V型のM276型の6気筒エンジンの後継機になる。M256は3.0Lの排気量でダウンサイジング・コンセプトで設計され、出力を落とさないために、さまざまな技術が投入されている。その主要なポイントのひとつとして48Vの電気システムがある、メルセデスでは「マイルド・ハイブリッド」という用語を使っていない。電動化の一環として「e」というキーワードがあり、電気自動車を「EQ」、プラグインハイブリッドを「EQ POWER」といった用語を使っている。

このS450には他に、電動のスーパーチャージャーを「eAC」、そしてスタータージェネレターを兼ねたオルタネーターを「ISG」(一般用語)としている。つまり、M256型はモーター内蔵だけにとどまらず、電動のスーパーチャージャーやターボチャージャーも備えているため、全方位で新しい技術を投入しているため、単に低電圧モーターを搭載するマイルドハイブリッドとは全く異なっているのだ。

メルセデス・ベンツ S450 エンジンルーム
ベルトレスとなり、エンジン全長も短くなった直列6気筒M256型

こうした補器類の中でも電動化を取り入れたことにより、ベルト駆動の廃止を実現している。実際にエンジンを見てみればベルトが1本もないことが分かる。スターターの代わりにISGがあり、電動ウォーターポンプ、電動エアコンコンプレッサーに置き換わり、非常にコンパクトなサイズを実現している。かつての6気筒の長さはなく、4気筒かと思えるほど小さいのだ。

■アトキンソンの高速燃焼、高圧噴射

エンジン本体では、吸気バルブの早閉じを行なうアトキンソンサイクルで運転され、そのために吸気側カムシャフトも電動化されている。また高出力化にともなう熱対策として、シリンダーヘッドまわりでは一体型インタークーラーが開発され、吸入気を効果的に冷却している。

燃焼室では放熱性の高い中空ナトリウム封入式中空バルブを搭載し、排気バルブの小型化、熱伝導率の高いスパークプラグの採用などが行なわれている。吸気ポートからの高タンブル流に対し、ピエゾインジェクターで200barの高圧噴霧。垂直配置されたインジェクターはセンターから3mmオフセットされ、燃料の壁面付着を最小限に抑えつつ、混合気生成を行なう。さらに、オイル希釈のために燃料スプレー背後に空気を送り込むことで、混合気をシリンダー壁から遠ざけるレイアウトにしている。こうしたレイアウトを持ちながらも火炎面は球状伝播を実現しているという。

メルセデス・ベンツ S450 サイドビュー

カムシャフトでは、2段階のバルブリフト量の変化とし、可変バルブタイミングとしている。これをカムトロニックと呼ぶ。アトキンソンサイクルであるため、リフト量の大小にかかわらず、低負荷時のポンプロス低減につなげているわけだ。ちなみに、このリフト量調整は、カムを軸方向にスライドさせて行なっている。

そして、非対称カムプロフィールでコントロールされる混合気に、ピエゾインジェクターからは、マルチ燃料噴射、マルチ点火という技を使い、スワールを残留タンブルに重ねることで、非常に低い負荷でも安定したエンジン回転が確保されている。これはアイドリングの低回転で実感できる。

■パワーアシストにもアイディア満載

ターボチャージャーはシングルのツインスクロールタイプで、エアギャップ隔離(断熱効果のある)エクゾーストにより、1~3番、4~6番の2系統に分けて過給される。このオリジナルのレイアウトのため、タービンハウジングは内製化し超高級ニッケル鋼材で製作されている。また、排気流量が小さいときのレスポンスには、電動スーパーチャージャー「eAC」を備え、ターボラグのない、加速ができる。

メルセデス・ベンツ S450 ステアリングスイッチ
ディストロニックの操作がレバーからステアリングスイッチに変更された

さらに、発進時などにはモーターアシストできる48VのISGが稼働する。ISGの搭載位置はP1ポジションで、エンジンとトランスミッションの間にレイアウトされ、クランクシャフトと直結している。このISG用のバッテリー容量は1kWhで48Vのリチウムイオン電池だ。エンジンの始動の他に、電装品の電源とバッテリー充電や、高電圧ハイブリッドだけしかできなかったブーストやエネルギー回生などの機能もある。ブーストモードで使用した場合、最大で16kW(22ps)、250Nmを発生することができる。また発電器(オルタネーター)として使用した場合は最大10kWの充電が常に可能とする能力を持っている。

メルセデス・ベンツ S450 センターモニター

こうした装置の搭載で、全回転域でパフォーマンスが保証され、発進時にはモーターでトルクが増大され、低~中回転域ではeAC(電動スーパーチャージャー)で過給圧が上がる。さらに高回転になればツインスクロールターボが爆発的な加速をするというパフォーマンスを持っていることが分かる。

メルセデス・ベンツの資料によると、先代のM276型、V型6気筒3.0L~3.5LとV型8気筒のM278エンジンと、このM256型で発進性能比較をしたところ、0-20mの飛び出し加速では、新エンジンのM256型がトップで、V6のM276より車両一台分差がつくという。またV8とは4mの差がついている。そして0-100km/h加速では、なんとV8と同タイムの4.8秒という俊足で、V6は5.6秒という結果だった。

これだけの高級な補器類やエンジンを搭載すると車両価格にも反映するが、この新世代エンジンはモジュール化がひとつの狙いで複数のエンジンが同じ製造ラインで生産できることで、価格を抑えることを行なっている。例えば、ガソリンの直列4気筒、6気筒、ディーゼルの直列4気筒、6気筒の生産が同じ製造ラインで可能なのだ。モジュールエンジンの見分け方としては、ボア×ストロークが83mm×90mmで揃っていることだ。

メルセデス・ベンツ S450 センターコンソール

ここまで読んで頂くともはや試乗レポートも想像がついてしまい、これらのアシストデバイスのパフォーマンスを体感し、どのように感じるのかという報告になる。

■試乗レポート

さっそく、運転席に座りスタートボタンを押す。エンジン始動は非常に滑らかに始動し、ほんのわずかに振動するレベルで、ブルンという振動がまったくなく高級車らしい、というか、これまでのSクラスを超える制振性を感じる。動き出しはモーターアシストで太いトルクがあり、2トンを超える大型高級車でも軽々と動き出す。スーパーチャージャーやターボ過給などがエンジンルーム内では稼働しているが、ドライバーにはなにも感じることなく、静かに力強く走る。

メルセデス・ベンツ S450 エンジンルーム
エンジンカバーを外し、真横から見たところ

エンジン回転が低くても高くても、またアクセル開度が少しでも、踏み込んでも、どの領域からも瞬時にど~んと加速が開始され、周りの車両を置いていくのだ。試しに急発進を試すと、なんとリヤタイヤからスキール音が出るのだ。これもトラクションコントロールの演出なのか、力強さを如実に感じるシーンでもあった。

80km/hの巡航では9速にシフトでき、エンジン回転は1000rpm!という低回転。そこからわずかに踏み込むと7速へダウンシフトし加速する。100km/hでの巡航では9速で1750rpm付近。ディーゼル並みの低回転走行が可能だ。そしてアイドリングはなんと520rpmという低回転で、前述のように高効率な高速燃焼の賜物といったところだ。

車両はSクラスだけに、静粛性や乗り心地などに高級感があり、インテリアも満足度の高い高級さがある。しかしながらこの高級車に対してのハイパフォーマンスだけに、ドライバーズカーとしてもたっぷりと魅力のあるモデルだった。

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