2014年7月11日、メルセデス・ベンツ日本は7年振りのフルモデルチェンジを行なった新型Cクラス(W205 )を発表し、同日から発売を開始した。新型Cクラスは2014年1月のデトロイトショーでワールドプレミアされ、2月からドイツのブレーメン工場で生産が開始された。そして早くも日本市場への導入が開始されたのだ。また新型Cクラスはドイツ・ブレーメンの工場以外に、南アフリカ、北京、アメリカ・アラバマ、マレーシアの各工場でも順次生産が開始されるという。
■コンセプト
新型Cクラスの開発コンセプトは「アジリティ&インテリジェンス」だ。かつては圧倒的な安定性と快適な乗り心地をアピールしていたメルセデス・ベンツがアジリティ(俊敏性)というコンセプトを採り入れたのはCクラスとしては2代目のW203からだった。そして今回のW205では「アジリティ」の実現は開発のメインコンセプトに位置付けられている。ここでいうアジリティとは、ハンドリングの俊敏性だけではなく、ドライバーズカーとしての意のままの走りと、それを支える革新技術を含む概念だという。
このメインコンセプト以外に、プレミアム・ミッドサイズ・セグメントにおけるベスト・イン・クラスの座を確保すること、メルセデス・ベンツの新デザイン手法「ダイナミック・エレガンス」の採用、Sクラス、Eクラスとのプラットフォームの完全共通化、FR車、FF車との主要なコンポーネンツ、部品の共通モジュール化なども行なわれている。つまり新型Cクラスは、メルセデス・ベンツのFRモデルのクルマ造りの再構築第1弾にあたると言える。
■パッケージング&デザイン
デザインは、エモーションとインテリジェンス、ダイナミックさとエレガントさを両立させるコンセプトだとされるが、どちらかといえばダイナミックがより色濃く感じられる。フロントマスクは、最新モデルのCLAやGLAとも共通している。ただし、ドイツ本国では、大きなスリーポインテッドスターをグリル中央に配置したアバンギャルド・ラインとラグジュアリー・ライン用のクラシックグリルタイプの2種類が設定されている。
ボディフォルムはロングノーズ、ショートデッキで、キャビンはより後方に位置し、クーペ・フォルムを強調している。さらにCピラーは俯瞰から見て強く絞り込まれているのが特徴だ。このため、パッケージングは4ドア・セダンとはいえ、リヤ席の乗員の頭部側面は室内側に倒れ込んでおり、前席重視のパッケージングといえる。トランク容量は445L。ゴルフバッグは3セット積載できるが、ライバル車と比べ30Lほど少なめだ。
空力性能は開発段階でも重視され、Cd=0.24とトップレベルを実現している。このためフロントマスクの空力デザインを徹底し、ボディ全面を滑らかな仕上げ、強い3次元絞りのCピラーと組み合わせている。またトランクリッドエンド、リヤ・コンビランプでは気流の剥離を促進する形状を採用している。
ボディサイズは、全長4690mm(従来型比+95mm)、全幅1810mm(+40mm)、全高1445mm、ホイールベース2840mm(+80mm)で、サイズ的にはEクラスに接近している。
インテリアは、先進的なテクノロジー、スポーティさにモダンラグジュアリーの要素をミックスし、上級モデルを凌ぐ質感を表現している。イメージ的には飛行機でエコノミー席からビジネスクラスの席に乗り換えた感覚を実現したという。もちろんこの背景には、Sクラスに採用するレベルのパーツを共用化させるという手法も大きな効果を発揮している。
デザイン的には、センターコンソールの存在感が強調され、中央後部にはマウス形状のタッチパッドが配置されている。パネルにはピアノラッカー調、ブラウンライムウッド、ブラックアッシュウッドなどが使用され、特に本木目を採用したパネルの立体形状などはメルセデスのクラフトマンシップの象徴とされる。
インスツルメントパネルは翼状のトリムで上下2分割され、光による演出、3色の可変調光アンビエントライトにより雰囲気をカスタマイズできる。センターディスプレイは8.4インチの高精細液晶式。ハンドレスト部には手書き入力できるタッチパッドを新採用している。またセンターコンソール部のスイッチ類の数も大幅に絞り込みまれ、従来のデザインとはまったく異なっている。
シートも新設計され、ホールド性と快適性を両立。アバンギャルド、C250スポーツはコブラデザインのスポーツシートを採用している。
新型Cクラスのグレード展開は、現在のところは日本向けはベース仕様のC180、上級仕様のC180アバンギャルド、C200アバンギャルド、今秋導入予定のC250スポーツの4グレードで、180は1.6L直噴ターボ、200と250は2.0Lターボエンジンを搭載する。ルックスはいずれもアバンギャルド・フェースを採用している。ラインアップを見るとエンジンを1.6L、2.0Lに絞り込みダウンサイジングを明確に訴求している。
ヨーロッパでは、さらにガソリンエンジンのC300(高出力版2.0L直噴ターボ)C400(3.0L・V6直噴ツインターボ)、ディーゼルのC180、C200、C220、C250、C300ハイブリッドなど多数のバリエーションがラインアップされている。なおメルセデス・ベンツ日本は、来年にはデーゼル機種とプラグインハイブリッドを導入すると発表している。
■ボディ
開発コンセプトに掲げる俊敏な走りや燃費性能を向上させるため、ボディは軽量・高剛性化を徹底している。プラットフォームは上級クラスと共通化されると同時に、大幅にアルミに材料置換を行い、アルミ/スチールのハイブリッドボディとしているのが特徴だ。新型Cクラスの主要な骨格は、超高張力鋼板(重量比4%)、ホットプレス・スチール(12%)とし、アルミ材(シートパネル、鋳造、鍛造)は24%。アルミ材のボディ面積比では48%となっている。
アルミパネル材は、フロントフェンダー、ボンネット、トランクリッド、ドア、ルーフパネルに、その他にサスペンション取り付け部はダイキャスト鋳造アルミ、サスペンションリンク類は鍛造アルミを採用。
アルミパネルとスチール材の接合には、自動車用としては世界初のImpAcT(Impuls Accelerated Tracking)と呼ばれる高速SPR(セルフピアシングリベット)が使用されている。溶接とは異なり、片側からのリベットの打ち込みでパネル接合できるため、より効率的で、溶接が不可能な箇所も接合できるのがメリットだ。
こうしたハイブリッドボディを採用することでホワイトボディの重量では従来型より70kg軽量化されているという。車両重量では、C180はライバル車より40kgほど軽量に、C200では同等の重量を達成している。
さらにボディ骨格の接合部には構造用接着剤も多用され、ボディの剛性向上、減衰特性の向上を図っている。アルミ材を多様したことで低重心化も実現し、操縦性の向上に役立っている。また、ボディの剛性向上に加え、低周波のロードノイズを低減するとともに、多数の発泡剤、吸遮音材を採用し300Hz以上の高周波ノイズを遮断し、静粛で快適な室内を実現している。
■サスペンション&シャシー
新型Cクラスのアジリティを支えるもう一つの要素がサスペンションだ。フロント・サスペンションは従来型のストラット/3リンク式から新開発の4リンク式フロントサスペンションに変更されている。
この4リンク式は、ハイマウント式のアッパーAアーム、ロアはダブルジョイント・アーム+ステアリング・タイロッドによる3リンク構成となっており、高い剛性と仮想キングピン軸によるキングピン・オフセットの縮小を実現している。キャンバー角変化もより理想的なセッティングが実現し、コーナリング時でも安定したグリッツプ力が得られるようになっていることも優位点だ。
リヤは、Cクラス伝統のマルチリンク・サスペンションを進化させた5本リンクによるマルチリンクとし、取り付け剛性が高く、最適なトー変化を実現している。
サスペンションには、3つのタイプが設定される。
・アジリティ・コントロール・サスペンション(C 180、C 180 アバンギャルド、C 200アバンギャルド):走行状況に応じてダンパー内のオイル流量を変化させ、減衰力を調整できるセレクティブダンピングシステムを採用
・スポーツ・サスペンション(C180 アバンギャルド AMGライン装着車):アジリティ・コントロール・サスペンションをベースに、スプリングとダンパーをハードなセッティングとし、よりスポーツ性の高いドライビングを実現。ステアリングレシオもよりダイレクトな設定。
・エアマティック・サスペンション(C250スポーツ、C200アバンギャルドAMGライン装着車):Cクラスとして初の、またセグメントとしても初となるエアサスペンションを設定。エアスプリングと連続可変ダンパーを電子制御することで、通常時から積載時まで安定したロードノイズ、タイヤ振動特性を実現。フロント、リヤのエアスプリングはホイール支持機能を持っていないため、コーナリングフォースを受け止める必要もないのできわめて滑らかなストロークを実現し、これまで上級のラグジュアリークラスでしか得られなかった快適な乗り心地を実現している。
また各サスペンションは、コンフォート、エコ、スポーツ、スポーツ+、インディビデュアルの5モードを選択できる「アジリティセレクト」を備えている。これは選択したモードに合わせ、エンジン、トランスミッション、ステアリング、サスペンションが統合制御される。エアマティック装備車はさらにエアコン制御やアイドルストップ機能も統合制御される。またエアマティック装備車は、高速走行時には車高は自動的に15mmダウンし、一方荒れた路面や段差では手動で車高を25mmアップすることもできる。
ステアリングはCクラスで初の電動パワーステアリングとなり、車速感応可変ギヤ比システムも備えている。パワーステアリングの電動化によりステアコントロール機能も与えられ、緊急回避時やアンダーステア、オーバーステア時にはヨーに応じてステアリングを正しい修正方向にトルクを発生し、パワーアシストするようになっている。
ブレーキは、C180、C180アバンギャルド、C200アバンギャルドは前後シングルピストン・キャリパー、C250スポーツ、AMGライン装着車はフロントが4ピストンキャリパー+ドリルド・ディスクを採用。いずれのブレーキも、ヒルスタート・アシスト、自動ホールド、ドライブレーキ(雨天時に周期的にパッドを乾燥させる機能)、プライミング(アクセルを急にリリースした時のプレフィル)機能を備えている。また、自動ブレーキ介入によるトルクベクタリング機能も備えている。
パーキングブレーキはペダル式からボタン式に変更された。もちろん発進時自動解除、4km/h以上では4輪作動の非常ブレーキの機能も備えている。
■エンジン&トランスミッション
新型Cクラスは、C180は1.6L BlueDIRECTターボ、、C200、C250は2.0L BlueDIRECTターボ エンジンをそれぞれ搭載している。1.6L直噴ターボはすでにA、Bクラスに横置き搭載されているが、縦置きバージョンをCクラスに搭載しダウンサイジングを図っている。出力は156ps/250Nm。最高出力回転数は5300rpmという低中速タイプだ。
2.0L直噴ターボは、200barの高圧・超高精度ピエゾ/スプレーガイデッド直噴システムを採用し、成層燃焼リーンバーン、EGR(排ガス再循環装置)の組み合わせにより、動力性能と高い環境性能を両立。出力は184ps/300Nm、250スポーツ用はよりハイチューンで211ps/350Nm。C180とC200の全てのモデルがエコカー減税100%免税となっている。
トランスミッションは7Gトロニック・プラスが組み合わされる。新開発のトルクコンバーターを採用し、さらにスリップ、フリクションも低減されている。マニュアルモードでも、一定時間が経過すると自動的にDモードに復帰する機能も追加されている。
JC08モード燃費は、C180が17.3km/L、C200が16.5km/L(C250スポーツは未測定)。動力性能はC180が0-100km/h加速が8.2秒、最高速220km/h、C200が0-100km/h加速が7.5秒、最高速235km/h、C250スポーツが0-100km/h加速が6.6秒、最高速250km/h。
■ドライバー支援システム
新型Cクラスは、ドライバー支援システムを「インテリジェント・ドライブシステム」と名付けている。C180系は、CPA/CPAプラス(緊急ブレーキ)を装備、C200以上のグレードは、ドライバー支援システムをフル装備する(C180系はレーダーセーフティパッケージとしてオプション設定:19万5400円)。
フル・システムは、ステレオカメラと全周をカバーするレーダーの組み合わせとなる。ステレオカメラが50m以内の詳細な立体画像認識を行ない、500m以内の概略の画像認識も行なう機能を持つ。レーダーは前後バンパーの左右に25GHzの射程距離30mの短距離レーダー、前方レーダーは77GHzの中・長距離(射程60/200m)のマルチモードタイプ、後方レーダーは25GHzの中・短距離(射程80/30m)のマルチモードタイプを装備し、自車の全周をカバーしている。なお短距離レーダーは24GHzから25GHzに変更されたため、電波望遠鏡との干渉がなくなり、常時作動ができるようになっている。
レーダーによる全車速追従式オートクルーズ機能(ディストロニック・プラス)ももちろん装備されるが、ステレオカメラの機能により車線と先行車を認識することで、高速道路では先行車との車間距離を維持しながら車線に合わせたステアリングアシストが機能する。また渋滞など低速走行時にはカメラが認識する先行車に自動追従し、車線が認識されない状態でもステアリングアシストが機能するようになっている。
これらの半自動運転ともいえる高度ドライバー支援システムの作動は、ドライバーがステアリングを握っている必要があり、15秒間の手放しで機能は自動停止する。
これ以外に、側方からの飛び出す障害物に対してはBAS(ブレーキアシストシステム)プラスによりドライバーに警告するとともにブレーキ液圧が自動的に高められる。またステレオカメラとレーダーを使用したPRE-SAFEブレーキは、歩行者を検知機能を持ち、最初の段階ではBASプラスが機能し、それでもブレーキが踏まれない場合は自動緊急ブレーキが作動し、50km/h以下では衝突を回避できる。
アクティブレーンキープアシストは、ステレオカメラと短距離レーダーを使用し、追い越し車両、並走車両、対向車を検知し、自車がウインカーを作動させずに車線を変更しようとした場合にステアリング振動でドライバーに警告し、同時に片輪に自動ブレーキをかけて走行ラインを自動修正制御が働くようになっている。
このように新型Cクラスのドライバー支援システムは、Sクラスに準じたレベルのシステムを搭載しており、今後も他モデルに拡大採用する方向性を明確にしている。