【メルセデス・ベンツ】specialist海外試乗 待望のコンパクトAMG。A45 AMGは最強エンジンを搭載してやってきた レポート:桂伸一

マニアック評価vol203

ドイツの地でデビューしたばかりのA45 AMGを存分に走らせる

すでに国内でもAクラスのハイパフォーマンスバージョン「A45 AMG 4MATIC」の発売が開始されたが、ひと足先にドイツ・ハノーバーで試乗してきたので、そのレポートをお伝えしよう。

世界的にダウンサイジングの流れが定着した中、ハイパフォーマンスを売りにするAMGにもその波は押し寄せている。そして誕生したのがA45やCLA45で、2機種はともに45を表示するAMG初のコンパクトクラスである。

45が何を表すのか。従来の基準で見れば排気量4.5Lか!? となるところだが、「大排気量、大パワーを吹聴していた時代は変わりつつあります」と、試乗会に登場したメルセデス・ベンツ会長の、Dr.ディエーター・ツェッチェはコメントする。

45の意味は450Nmのトルク値を表し、一方でパワーは一気に360psと大台を突破した。ツェッチェ会長が続ける。「日本はアメリカに次ぐAMGの販売台数を誇る主要マーケットです。日本の道路環境は決して広くも速くもないが、そこでAMGが高い評価を受けるのは、加速性能やハンドリング、プレミアムな品質を含むブランド価値が見出されている。その日本にこそ、A45を含むCセグメントのボディサイズが向いています」と、市場の拡大を会長自らが念押ししに来たとも捉えられる。

筆者は以前、SLSの開発を指揮した先代のAMG社長に「コンパクトクラスのAMGは造らないのか?」と尋ねたことがある。今回、A45 AMGを目の前にしたときに、「可能性はある」とはぐらかされた記憶がよみがえった。現在のAMG社長はF1エンジンを開発した技術者、オラ・クレニウス氏になり、メルセデス・ベンツのコンパクトなAクラスは初代、2代目と、床下にバッテリーを敷き詰めるサンドイッチ・コンセプトから劇的改革を受け、3代目は背の低いスポーツハッチに生まれ変わった。

Aクラスのラインアップが一通り出揃ったタイミングを見計らって、ついにコンパクトクAMGが誕生したというわけだ。

新しいAクラスは、「メルセデス・ベンツとはこうあるべき」という古くからの“ベンツ党”には受け入れられないかもしれない。しかしメルセデスのマーケティングの読みは鋭く、世界中の“感性が若い”世代に新しいAクラスは突き刺さった。今、欧州に行くとゴルフとともにAクラスをよく目にする。「売れている」というメーカー発表に偽りはなかった。そんなAクラスの最強のシンボルになるのが今回試乗したA45 AMGである。ただし外観の見た目でAMGかどうかを判定するのは難しい。

目の前に置かれたA45 AMGだが、A250スポーツと見紛うこともある。だがクルマの後方に回り、そこにあるのが左右に分かれたデュアルエキゾーストなら、それが本物のA45 AMGなのだ。エンジンを始動すると、これが直4・2.0Lの肺活量だろうか? と疑いたくなる。つまりより大きな排気量のような力量たっぷりの排気脈動と重低音でいきなり迫ってくるのだ。

右足をあおるとエンジンはワッと吹け上がり、アフターファイアのようにパラパラと音をたてながらストンと回転が落ちる。その鋭いピックアップはハイチューンNA(自然吸気)のようだが、もちろんAクラスと同様にターボエンジンだ。ベース車のA250のターボ過給圧が1.5barというのも驚きだが、A45では最大1.8barまでかけている。

そのためにクランクケースをオープンデッキからクローズドデッキ構造に変え、ライナーレスシリンダー内面には、6.3L自然吸気エンジンからの技術であるTWAS(ツイン・ワイヤー・アークスプレイテッド・コーティング)を採用。ピストンを鍛造に替え、ウォーターラインも変更し、水冷インタークーラーとツインスクロールターボの採用により、高い過給圧にも関わらず鋭いアクセルレスポンスを可能にしているのだ。

2.0Lターボで360psを発生。AMGが自信を持って送り出すパワーユニット

ちなみにA45 AMGのエンジンも、他のAMGと同様に「ワンマン・ワンエンジン」、つまり工場では一基のエンジンを一人の熟練工が完成まで仕上げ、自身のサイン入りプレートをエンジンヘッドに貼付する。360PS/450Nmという数値が示すとおり、AMGの自信に満ち溢れたチューンドユニットである。

360ps/450Nmの出力は量産2.0Lターボとして、もちろん世界最強となる。出力的には欧州のライバルに完全に一泡吹かせた感がある。しかし世界を見渡せば、日本に三菱とスバルの2.0Lターボエンジンが存在する。世界的にも高い評価を受けているこの2台の4WDは、スバルWRX STIは308ps、三菱ランサーエボリューションは300psだ。量産2.0L・直4で世界最強を宣言するA45 AMGを含めて、ここからドイツ、フランス、日本も参入して入り乱れての、Cセグメント全面対決が勃発したともいえる。面白いことになってきた。

さて試乗レポートへと話を戻そう。この世界最強のパワーユニットは、パートタイム4WDシステムであるAMG 4MATICを介して路面に伝達される。基本であるFWDがホイールスピンを感じさせる間もなく、リヤデフに内蔵されたクラッチにより4WDに駆動配分を変えてリヤからもトラクションを得ている。速度無制限区間のアウトバーンで、右足を床まで踏みつけてみた。

メルセデス・ベンツ A45 AMG 4MATIC テストドライブ中の桂伸一氏

まずは本線合流のループで驚いた。もしタイヤが滑れば4WDとESPがお助けしてくれる安心感を武器に、思い切ってコーナーに進入する。オーバースピードゆえにアンダーステアになることも想定内。アンダーステアになるだろうと思ったまさにそのときに、コーナーの内側から手が伸びてフロントからグイッと手繰り寄せられたかのような感覚を受ける。唖然である。どうしてあの状況で、物理の法則を無視したかのようなコーナリングが可能なのか。しかも旋回途中でアクセルを急激にオフしても、タックインはおろか、まったくリヤは滑らない。FWDがベースだからアンダーステア、というエクスキューズはもはや必要ない。

舵角を与えた方向にESPは反応し、追加機能であるカーブダイナミックアシスト(旋回する内輪ブレーキを制御)がさらにアクティブにクルマを曲げていく。もしこのクルマに乗って一般公道でアンダーステアを出す、出せたとしたら、そのドライビングは完全に間違いか、限界を越えた走行をしている、超危険な状況ということだ。

シフトモードはC/S/M。これは他のメルセデスとも共通するが、制御はより走行性を重視している。Cはコンフォート。比較的滑らかな変速とアイドルストップを行う。Sはスポーツ。変速の瞬間に最大で3気筒の点火と燃料噴射を抑制してトルクをコントロールすることで、迫力の変速時のエンジン音が生まれる。これはM(マニュアル)モードでも同様の音響効果と最短の変速時間で変速を終える。

もちろんダウンシフト時の自動ブリッピングも完璧にミート。C/SではDレンジでもパドル操作に応じ、自動的にDに復帰する制御がようやく備わっている。

SとMモードの変速時に「ズバッ」という音が大きく聞こえる。これはアクセル開度など状況に応じて、4気筒のうち最大で3気筒までを瞬間的に休止(インジェクターを休止)した際の燃焼室からの排圧の音だ。なんとも勇ましい音だが、AMGだから許されるサウンドである。静粛に、という場合はCモードを選べばいい。

デュアルエキゾーストがA45 AMGの簡単な識別点

エキゾーストサウンドは、フラップにより排気の効率とサウンドをコントロールする。リヤスカートには一見4本出しのテールフィニッシャーが備わるが、実はエキゾーストパイプと直接つながってはいない。「なんだ、ギミックか」と言うのは早計過ぎる。これはハイパフォーマンスエンジンの排気の流速を最大限に高めるためのトレンドである。本来リヤディフューザーはシャーシ下部まで被うはずだが、エキゾーストパイプ出口付近の空力を整えるために、空間を多くとっていることもその効果を高める狙い。いずれにしても意図したエキゾーストの配置であり、けしてギミックではない。

試乗の終わりは、世界のサーキットの名だたるコーナー(ラグナ・セカのコークスクリューなど)をちりばめたミニ・ニュルブルックリンクと言えるビルスターベルグ・ドライビングリゾートで締め括った。ここでは先導するSLS AMGに、A45 AMGが食らい付く図が展開された。最速タイムでは4秒も上回るSLS AMGだが、連続走行ではタフなブレーキ性能を誇るA45 AMGが追従する。

先導のSLSのドライバーは3台を引き連れての走行だが、この時は筆者を先頭に、2番手にニュルでクラス優勝経験もある佐藤久実氏、3番手は元インディカードライバーの松田秀士氏だから、隊列は一糸乱れぬ一本棒である。後続からあおられても、1台でも遅いクルマがいればそれを待つのが先導の役目だが、このときは3台が襲いかかる勢いで迫っていたのだ。だから先導も逃げることになり、最後は本気の全開走行になる部分もあり、おかげでA45の限界特性が見えた。

旋回中は弱アンダーステア方向に前輪を逃がし、旋回中のアクセルオフによるリヤのリバース、タックインを一瞬発生させた後に即、終息させるサスペンション特性であり、4WDの駆動制御であった。加速で引き離されたSLSに極めてタフなブレーキングで詰め寄る性能を持ち、アウトバーンではカタログスペック通りあっさり250km/hに迫り、0-100km/h加速4.6秒はローンチコントロール作動による値だが、普通に加速してもその片鱗は十二分に感じられた。

これだけのパフォーマンスを示しながらCO2排出量は161g/kmに抑えられ、エミッションはユーロ6をクリアするエンジンは、高く評価できる。

サーキット走行では限定車のEdition1が使用された

サーキット仕様として使われたA45 AMGは、日本に600台の限定で上陸のエディション1だった。白400台、黒200台は日本専用の特別仕様で、個人的にはこれぞAMGだと言える前後スポイラーを装備したいでたちは、これが標準でも異論は出ないと思える過激な存在感を持ち合わせている。

最後にひとつ付け加えておこう。A45 AMG 4MATICの販売価格640万円(EDITION1は710万円)は高いのか妥当か、それとも安いのか? 「AMGだ」ということを念頭に判定されたし。

A45 AMG 4MATIC主要諸元

AMG公式サイト

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