Eクラス最大のトピックは、ブルーエフィシェンシーテクノロジー(効果的な技術)を搭載したモデルの存在だ。メルセデスが標榜する環境テーマには「ブルー」というキーワードが付く。
その搭載モデルは1.8L+ターボのダウンサイジングモデルであるE250と、3.0L+ターボのディーゼルエンジンモデルであるE350ブルーテックだ。ともに、燃費経済性とエミッションを考慮したパワートレインを採用している。
欧州車で積極的に検討され始めているガソリンエンジンの小排気量化(ダウンサイジング)はメルセデスでも行われていて、Eクラスにも1.8Lという小排気量が採用されている。あの大きなボディで約1.8tある重量をものともしない、メルセデスらしい走りができるのか? ということも気になるところだが、今回、注目したのはもうひとつのブルーエフィシェンシー、ブルーテック・ディーゼルターボに試乗してきた。
「世界でもっともクリーンなディーゼルエンジン」を謳うメルセデスのディーゼルは、3.0LV型6気筒+ターボというユニットを使っている。
新しい排出ガス基準には、欧州のユーロ6(2014年施行)があり、日本ではポスト新長期規制がある。その何れもクリアしている乗用車用ディーゼルエンジンなのだ。
ディーゼルエンジンの排出ガスをクリーンにする方法は、吸気の段階、燃焼の段階、排出の段階などでそれぞれにテクノロジーが存在し、クリーン化が行なわれている。
クリーン化するための技術とは
90年代後半ごろより、電子制御式分配型ポンプや燃料を高圧噴射できるコモンレール方式が登場し、排出ガスのクリーン化が大きく変貌し始めた。その後、直噴化、可変ターボチャージャー、可変スワール、EGR冷却など燃焼系技術の進歩があり、さらに、排出されたガスをクリーンにするためにCO2削減の酸化触媒や、DPFフィルター(微粒子除去装置)、NOx吸蔵還元触媒などの後処理技術によって、クリーンディーゼルが誕生した経緯がある。
ブルーテックには上記の新技術が搭載され、加えて、排出ガス後処理システムとして尿素水溶液を使った装置が搭載されている。尿素中のアンモニアNH3がNOxをN2とH2Oに還元する反応を利用したもので、尿素SCR方式と呼ばれている。これらの技術を取り入れて、ユーロ6、ポスト新長期基準をクリアし世界でもっともクリーンなディーゼルとして日本で販売されたのだ。
とても静かなディーゼル
さて、そのエンジンの乗り味だが、アイドルは550rpm、80km/hで1400rpm、100km/hで1600rpmとディーゼルの特徴を活かし、低回転で走行する。
アイドル時はガラガラというディーゼル独特のエンジン音を聞くことができるが、室内ではEクラウスという高級車であるため、うまく遮断できており、100km/h巡航ではガソリンと同等のノイズレベルに収まっている。こちらは動画を見ていただきたい。走行時の室内がとても静かであることがわかると思う。
とはいえ、トヨタのレクサスやクラウンといった「無音」のような静けさはない。欧州車には「走っている」という感覚を残すためなのか、ガソリン車でもわずかにエンジン音が聞こえるようになっているから、このディーゼルも欧州車のそのレベルだと思っていい。
このディーゼルエンジンをドライブするのは7速ATだ。セレクターレバーはハンドルの右側に配されたコラムシフト。その操作は下へ押すとD、上に押すとR、ステアリングポスト側へ押すとPという3種類の操作しかない。しかも、かつてのシフトレバーのようにDやPの位置へ移動させるのではなく、スイッチに変化している。そのため、DとRどっちのポジションでもダイレクトにPにシフトが可能だ。
では細かなシフトチェンジはどうするのかというと、パドルシフトが付いているのだ。左がダウンで右がアップとわかりやすいからシフトミスはしにくい。シフトタイミングのレスポンスもすばやく反応するのでストレスを感じることもない。
アクセルペダルは低速域では繊細な反応を見せないが、速度を上げ、峠道を駆け抜けるように走ると素直に反応する。ディーゼルのネガな部分は感じられず、ガソリン車と同じようにレスポンスするのはすばらしい。
誤操作といえば、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違えがあるが、それは、バックする際に、上体をひねっているときに踏み間違えがおこるケースが多いという。しかし、ベンツのアクセルペダルは昔からオルガンタイプであり、さらに伝統的に重い。踏む意識が足りないと加速しないほど重いのだ。一方、ブレーキペダルは吊り下げ式になっているので、上体をひねっているときでもペダルの感触はあきらかに違うことが感じられ、踏み間違えを未然に防いでいるのではないだろうか。
インテリアでは、Eクラスなりの落ち着いた内装なのだが、試乗はライトブルーの外装とホワイトレザーという、およそベンツらしくない、さわやかな色使いのモデルだった。もちろん好印象だ。
コンソールやトリムまわりにはピアノブラックのパネルが使用され、高級感がある。が、オーディオ・ナビの操作性には少し慣れが必要だ。試乗中、結局ラジオを消すことができず、ボリュームを下げての対処という、なんとも情けないことになった。目的地の画面をだすのに、操作が3回必要というのも考えものではないか。
ただ、運転中目線を手元に移動させる必要がないように、センターコンソールにインターフェイスを集中させているのはよかった。
そして、尿素水溶液はスペアタイヤのあるスペースが改造され、そこに搭載している。容量は24Lで1000kmの走行で約1Lを消費するという。だから、2万4000km走行した時点で補充になるから、1〜2年は持つ計算になる。
スペアタイヤのスペースを尿素水溶液タンクにしたために、スペアタイヤはなく、ランフラットタイヤを装着している。試乗車はグッドイヤー イーグルF1で245/45-17だ。オプションの18インチにはランフラットを設定していないため、普通のタイヤとなりパンク修理材で対応することになる。
ただ、このランフラットタイヤは、やはり細かな入力に対して硬く感じる部分もある。ブリヂストンのランフラットであれば、もう少し乗り心地はよくなるという意見のジャーナリストはいるが、同じ条件で違うタイヤを多く乗った人だけにわかる程度の違いではないだろうか。
気になる燃費では、10・15モードでは13.4km/Lとなっている。通常、このモード燃費の70%程度が実用燃費という業界の常識があるのだが、今回のテスト試乗では12.8km/Lという数字だった(車載インジケータ)。高速移動、山岳路、東京都心部を走行するという条件でこの数字は立派ではないだろうか。ちなみに、もうひとつのブルーエフィシェンシーE250の1.8Lガソリンターボの10・15モードは11.0km/Lである。
ニューEクラスの品質は保たれ、その上で新しいテクノロジーであるブルーエフィシェンシーが加わり、その完成度の高さから、商品の品質と魅力は増したといえるだろう。しかも、E350ブルーテックはガソリンエンジンを積むE350より52万円も安い。これも特筆に価する。通常ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりもコストがかかるため高価になるのが当たり前だ。そこを安く設定しているというのは、メルセデスベンツ社のフィロソフィといえるのかもしれない。(AT)
全て滑らかなかシルキーティッシュのよう by塩村文夏
編集:「主に日本テレビを中心に活躍する放送作家、また、旅行作家として自動車を中心としたエッセイを執筆している塩村文夏さんに試乗してもらいました。旅行することが多くその手段でクルマを多用する塩村さんの印象から聞かせてください」
塩村:「私が感じたのはとても滑らかで、さわやかで、さらにまろやかさを感じました。私が普段試乗しているクルマの傾向は、派手なものが多く、落ち着いたといより、ワイルドなものが多いんです。だから、もう少しパンチの効いた部分があってもいいかなぁって思ったんですけどね。」
編集:「たとえばどんな?」
塩村:「それは外観のデザインでも、インテリアでも走りでもいいのですが、全体が大人って感じでした。もっともEクラスというセグメントとフォーマルカーであることを考えれば、私の好みは的ハズレかもしれないですね。」
編集:「エンジンはいかがでした?」
塩村:「ディーゼルターボということですが、まったく気づかないくらい静かです。気持ちよく走っているときの加速には不満はありません。ただ、山道で踏んでいるのに加速せず、キックダウンスイッチと思うのですが、それを短い試乗の中で2回も作動させたというのが気になりました。自動車にこの数年関わっていますが、こんなことは初めてでした」
編集:「他には気になるところは?」
塩村:「いい所も沢山あるクルマです。まず、色が素敵ですよ。ドイツ車のイメージというか、いい意味でベンツらしくないさわやかな色ですよね、この色なら欲しい。都内の小さな一軒家の駐車スペースに止めてあるっていう絵が浮かびますね。家族4人というか大人4人でも十分広い室内もいいし、5人乗りが窮屈にならないですよ。ラゲッジも広いから大きな旅行荷物を載せて旅に出たくなりました」
●ステーションワゴン 価格(税込み)
E250CGI ブルーエフィシェンシー 1.8L直列4気筒+ターボ 5速AT 669万円
E300 3.0L V型6気筒 7速AT 765万円
E350 ブルーテック アバンギャルド 3.0L V型6気筒ディーゼルターボ 833万円
E350 アバンギャルド 3.5L V型6気筒 885万円
E350 4マチック アバンギャルド 3.5L V型6気筒 930万円
E550 アバンギャルド 5.5L V型8気筒 1150万円
E63 AMG 6.2L V型8気筒 1530万円
●ボディサイズ
全長×全幅×全高cm 4900×1855×1500
文:高橋アキラ
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