フェラーリは2026年5月26日、新開発したEVのスーパーGTカー「ルーチェ(Luce)」を発表した。2026年後半にはヨーロッパでのデリバリーが開始される予定だ。

マラネッロで発表した新型ルーチェは、単なる高性能なEVモデルではない。フェラーリにとって初となる本格的な次世代EVアーキテクチャーを採用した4ドア・グランツーリスモであり、フェラーリが追求してきた“ドライビング・エモーション”を、EVモデルにどのように継承するのかを示すモデルなのだ。

車名のルーチェはイタリア語で“光”を意味する。これは「新たな時代を照らす存在」という意味合いを込めたネーミングだという。

ピュアでシンプルなボディフォルム
ルーチェのデザインは、元アップルの最高デザイン責任者であったジョナサン・アイブと、マーク・ニューソンが率いるデザイン・クリエイティブ集団「Love From」がフェラーリ・デザインセンターと協力して行なった。なお、「Love From」を起用したのはフェラーリ社のオーナーであり、ステランティス・グループ会長のジョン・エルカン氏といわれている。
その結果、フェラーリとして新たな価値観である、圧倒的なパフォーマンスと4ドア/5座席のラグジュアリーな空間、大きなガラス・エリアを融合させた唯一無二のピュアでシンプルなフォルムが実現している。


操作系のインターフェースは、インプット、アウトプットを明快に整理し、ディスプレイやスイッチ類は機能重視で整理され、最も重要なスイッチや表示がドライバーの正面に位置している。


機械式ボタン、トグルスイッチなどがサムスン製の多機能な有機ELディスプレイと組み合わされている。アルミ材は艶消しアルマイト処理され、ディスプレイのガラス面は高級スマートフォンと同じコーニング社製のゴリラ・ガラスとするなど、より高い質感を実現。


オーディオはフェラーリが設計した21スピーカー、24チャンネル/3000Wシステムを採用し、コンサートホールのような圧倒的な音質を生み出している。
そしてルーチェの起動はコーニング社製のガラスでできたカード状のキーを所定の位置に置くことから始まる。このガラス製キーは通電すると色が変化する世界初の技術だ。


快適さとドライビングプレジャーの両立
フェラーリはこれまで、V12自然吸気エンジンや高回転型V型8気筒エンジン、さらにハイブリッドシステムを通じて独自のパフォーマンス哲学を築き上げてきた。しかしルーチェは、レスポンス、ドライブフィール、一体感を完全電動プラットフォームによって再構築している点が最大の訴求ポイントだ。
ル-チェでまず注目すべきは、フェラーリが従来以上に快適性を重視している点だ。このモデルでは、NVH(騒音・振動・ハーシュネス)性能を徹底的に見直し、マラネッロ史上もっとも静粛で、長距離移動性能に優れたロードカーを目指している。
車体には新開発の弾性支持式リヤ・サブフレームを採用。さらにアクティブ・サスペンションや車体剛性の最適化、遮音構造の刷新によってロードノイズを大幅に低減させている。
その一方で、静かすぎるEVにならないよう、フェラーリ独自開発の音響演出システムを導入している。車体中央部に配置された高精度な加速度センサーが回転部品や車体振動を検知し、音響信号を生成。自然で機械的な質感を持ったサウンドを車内外へ発生させることができる。
ドライブモード別では、GTモードでは静粛性重視、スポーツ・モードでは高周波成分を強調、トラック・モードではレスポンス感と機械感を最大化させている。
先進的EVシステム
パワートレインは、フェラーリの最新ハイブリッド・ハイパーカー「F80」由来のラジアル・フラックス型永久磁石同期モーターを4基搭載している。最高回転数はフロント側が3万rpm、リヤ側が2万5500rpmという量産EVとしてはトップレベルの極めて高い回転数が使用でき、800Vアーキテクチャーによって高効率と高出力を両立させている。
フロントのモーターは1050kW/140Nm、リヤのモーターは310kW/355Nm。

モーター出力、駆動はドライブモードによって変化する。レンジ・モードでは出力は430psに出力制限された後輪駆動となり、最高速度は260km/h。ツアー・モードでは625psとなり常時4WDで、最高速度は260km/h。パフォーマンス・モードの場合は出力は986psで常時4WDで、最高速度は310km/hとなる。
ローンチ・モードを選ぶと最高出力は1050psに達する。この場合の動力性能は0-100km/h加速は2.5秒、0-200km/hは6.8秒、最高速度は310km/h以上となる。
フェラーリはこのモーターについて、スポーツ直系のソリューションと説明している。高回転化によって高出力密度を確保しつつ、応答性や効率性を極限まで高めているのが特徴だ。
一方で、加速特性は、通常のEVの高速域になるほど伸びのない加速特性ではなく、右側パドルの操作により、車速の伸びに応じてトルクを増大させ、プログレッシブな加速感を実現している。なお左側パドルは回生ブレーキのコントロールを担当する。

バッテリーパックはマラネッロで設計・検証・製造され、210個のパウチ型セルを直列配置。容量は122kWh、最大350kW級の急速充電にも対応している。なお、この3元系バッテリーセルは韓国のSKとフェラーリが共同開発している。航続距離は530kmだ。
また、バッテリーパックは単なる床下搭載ではなく、車体構造体の一部として統合されている。これにより剛性向上と重量最適化を両立し、フェラーリらしいハンドリング特性を実現している。
電気駆動の4WDシステム
ルーチェは、フェラーリ初となる本格的な電動4輪駆動システムを採用。4基のモーターを独立制御とすることで、前後・左右のトルク・ベクタリングを可能にし、車両の姿勢変化を瞬時に制御しながら、ドライバーの意図に対して極めて自然な応答を生み出すことができる。
さらに新開発のVCU(Vehicle Control Unit)が、パワートレイン、サスペンション、ブレーキ、後輪操舵、回生制御、車体姿勢制御を統合制御する。目標値を毎秒200回更新しながら、新世代のサイドスリップ・コントロールと連携することで、フェラーリならではの俊敏性と安定性を高次元で両立させている。
注目すべきは、EV特有の重量や慣性を積極的に制御対象としていることだ。フェラーリは、慣性モーメントや荷重移動をリアルタイムに制御することで、軽快感を人工的に作り込み、常に敏捷で自然な挙動を追求している。
また、新しいトルク・シフト・エンゲージメント制御や拡張回生ブレーキ制御も導入。減速時にもドライバーとの一体感を損なわない味付けが追求されている。
シャシーとパッケージング
ルーチェのために専用開発されたシャシーは、アルミの中空鋳造部品や押出材を組み合わせた新構造を採用している。

またパッケージ面では、バッテリーをフロアおよび後席下に一体配置することで、広い室内空間を実現している。
さらにホワイトボディとバッテリーハウジングを統合設計することで、曲げ剛性は従来の4ドアモデル比で25%以上、ねじり剛性は35%以上向上している。
一方で、重量増を抑えるため再生アルミニウム二次合金を積極採用。車両重量の約70%に再生材を使用し、生産時のCO2e排出削減にも貢献している。

サスペンションは48V電源のセミアクティブ・ダブルウィッシュボーン式サスペンションを採用。ダブルウイッシュボーンはハイマウント・アッパーアーム/デュアル・ピボット式で仮想キングピン軸を持つ。さらに独立後輪操舵システム、カーボンブレーキなどを組み合わせ、重量級EVとは思えない俊敏性を実現している。
フェラーリのEV
ルーチェは、フェラーリにとって単なるEVではない。「電動化時代において、フェラーリとは何か」を再定義するモデルなのだ。
近年、ハイパフォーマンスEV市場には多くのメーカーが参入している。しかしフェラーリは、単純な加速競争やスペック競争には踏み込まず、感性や操作感を軸に差別化を図ろうとしている。
疑似変速演出やトルク制御、音響生成、車体制御統合など、ルーチェに盛り込まれた技術はすべて「ドライバーとの対話」を目的としているのだ。
フェラーリはこれまで、内燃機関の官能性をブランド価値の中核としてきた。そのブランドがEVへ移行することに対し、ファンからは懐疑的な声もある。
しかしフェラーリは、EVという新しい道具と精神的なシャシー技術を使いながら、“フェラーリらしさ”を新たな方法で再構築しようとしていると考えるべきであろう。














