ドイツ・ベルリン郊外で行なわれたZF先端技術説明会及び試乗会のレポートの最終回。自動運転とAdvanced Urban Vehicleについてのレポートになる。<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>
ZFはご存じのように2015年5月にTRWを買収している。このことで、ZFが持たなかった分野でのシステム部品の提供が可能となり、その最も目立つ分野としてこの自動運転があるだろう。自動運転に関するプレゼンテーションはTRWのアンドリュー・ワイデル氏が行なっていた。
自動運転にはさまざまなシステムがなければ成立しないが、ZFが得意としてきた分野はトランスミッションやデファレンシャル、シャシー技術などが中心で、一方のTRWはエアバッグやブレーキ制御、操舵制御、レーダーセンサー技術などで、まさに、双方が合体することで自動運転技術がサポートできることになる。
今回はアウトバーンを半自動運転するテスト車両に同乗させてもらったが、テスト車両にはオートマッチック・ブレーキシステム、オートマチック・ハンドリングをはじめ、ESCやABSなどセーフティ技術、快適性能技術などが装備されている。そこに、自動運転用にも使用するACCやレーンキープ機能、そしてカメラ、レーダーなどを装備したものだ。
テストは試験場を出てアウトバーンに乗り、1区間を走行。その際、遅いクルマが接近したときに、自動で車線変更させる機能を体験した。もちろん、設定した車間距離をキープしたまま走行するのはすでに市場に出回っているACCと同じで、ドライバーがウインカーを出した方向へ、1車線自動で移動するとういものだ。
現段階ではドライバーが後方や前方など周囲の安全確認をしたうえで、ウインカーを出し自動で車線変更しているが、来年の2016年には360度の視野を手に入れ、前後の確認とスペースの確保の判断ができるレベルのものを発表するとしている。
BMWやメルセデスには6つのレーダーと2つから3つのカメラを装備した「トラフィックジャム・アシスト」システムを、米国では3000ドルで提供しているという。また、今回試乗したシンプルなハイウエイ限定のドライブシステムとしたものを、量産モデルやファミリーカーに搭載する場合1000ドル以下で提供できるだろうと説明している。ハイウエイを自動運転するために、わずか約10万円程度で実現する。
特に強調していたのは、例えば自動操舵機能=運転支援機能では、ウインカーと連動してステアするこのシステムは、前回レポートした緊急危険回避としても作動するわけで、安全システムを包括的に提供できるとしている。つまり、これらシステムの優位性として柔軟性と拡張性を持ち、自動車メーカーごとに異なる要件に合わせ、さまざまな機能に活用できると説明している。
◆近未来モビリティの提案
最後にレポートするのは、ZFが提案する未来型のアドバンスド・アーバン・ヴィークル(AUV)だ。完全自社製のコンセプトカーで、都市部で使うリージョナルヴィークルの提案型になる。
近未来の都市の在り方については、以前、ローランドベルガーのレポートで書いたように、人口シフトが起こり現在の都市の在り方が変化する。そこに必要とされるクルマは現在あるようなクルマではなく、もっと小型で一人、ないし二人乗りのEVになるという考えだ。すでにホンダ、日産、トヨタなどでもこれらのモビリティを世に送り出し、社会実験なども始まっている。ZFのような巨大Tia1もこの流れに乗り、自社開発がスタートしているわけだ。
ZFのCEOゾンマー博士も「この研究は将来の都市部における移動の概念を具体的に導き出すことのできるスタート地点であるとも言えます。また、TRWオートモーティブの買収によって開けた新たな分野への扉だとも言えるでしょう」と述べている。
今回お披露目されたのは、リヤアクスルにモーターを置くツイストビームと呼ぶシステムを搭載したもので、電動モーターによる高い利便性や半自動化による利便性、快適性、安全性、効率の向上、そして75度のハンドルの切れ角を持つ斬新なフロントアクスルをもつAUVだ。ちなみにモーターは40kwのコンパクトなものだが140Nm のトルクで最高速140km/hという実力を備えている。
特徴的な技術としてはクラウドにおけるビッグデータを利用することで、安全で快適、効率が上がるという提案だ。ZFではPreVisionと呼んでいるが、地図データ会社のHEREでもIBMと共同でクラウド通信し、ビッグデータの利用を研究している。ZFでは一度通ったルートであれば、プレビジョンによって、カーブを曲がるときに最適な速度を算出し、機械的な減速をせず、モーターのトルクを自動でコントロールすることで、減速しカーブを曲がることができる機能を持っている。
フロントの舵角が75度の操舵角をもつフロントアクスルは、狭い場所での駐車やUターンなどに有利で、ボタンひとつで完全自動パーキングが可能になる。コンセプトカーには12基のソナーと2基の赤外線センサーを搭載し、縦列でも並列でも車外からのタブレット、ウォッチなどのスマート機器で自動駐車する。ドライバーの降車のためのドア開閉スペースも不要になり、より有効にスペース活用できるなどとしていた。