第1回目はCEOのインタビューをお送りした。ZFの技術がこれまで以上に日本車への参入の狙いがあることを明確に示唆したが、今回からはどんな技術が投入されてくるのか?具体的なモノを探求してみた。<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>
2015年7月上旬に行なわれたZFの技術説明会及び試乗会では、開発進行中のもの、すでにソリューションとして投入済みのものなどの説明と試乗ができた。今回レポートするテーマはefficiencyとsafety。「効率と安全」というテーマのもとZFが開発する最先端技術をみてみよう。
最初に案内されたのはZFの十八番、トランスミッションの試乗だ。そこには既に投入済みの8速AT、9速AT、それとこれから普及する第2世代の8速ATを搭載した試乗車があった。8速AT(8HP)はご存じの方も多いだろうが、BMWをはじめ多くの高級車に搭載しているトルクコンバーターを持つ多段ミッション。今のところ8速はアイシンAWとZFだけだ。メルセデスではシェフラーとダイムラーで共同開発した9速、および従来からの7速ATを採用している。
注目は第2世代の8速AT。2014年8月に発表されたこの第2世代のユニットは、トルコン標準タイプで2種類、それとハイブリッド用のモーター内蔵タイプの計3種類に注目。第2世代の特徴はハウジング内にトーショナル・バイブレーションダンパーを2本設置し、エンジンからの振動を減衰する機能を持たせ、エンジンスピード感応タイプとすることで振動を減らしている。また、第2世代の8HPはギヤ比の変速比幅を7.0から7.8へとワイドにし、内部の摩擦抵抗を低減することで3%の省燃費とすることができている。第2世代8速ATは8HP50型、8HP75型がある。ちなみに第1世代8HP90型は継続されている。
そしてPHEV対応のATはモジュラー設計とし、モーター内蔵タイプも用意している。モーターはトルコン部に相当する場所に搭載し、永久磁石同期モーター(PSM)をオイルの噴霧で冷却している。対応最大トルクは550Nmで、これは電気駆動を主眼に置いた開発であり、ハイブリッド、PHEV車用に対応するトランスミッションだ。そのためエンド・ツー・エンドのシステム開発を自社で行ない、総合的なハイブリッドシステム・マネージメントに向けたソフト開発も行なっている。
内蔵モーターは最大90kWの出力、連続45kWの出力が可能でEV走行距離もバッテリーサイズによるが、50kmの走行距離、120km/hの走行が可能になった。第1世代のモーター内蔵タイプ(8P70H型)はBMWのハイブリッド車に搭載され、用途としてはエンジンパワーのアシストがメインであった。第2世代の8P75PH型はモーター出力をアップしEV走行の距離を稼ぎ、カリフォルニアZEV規制に対応するPHEVとする狙いがあるのだろう。
今回、第2世代を搭載した試乗車はBMWだけに限られ、トルコンタイプの第2世代であり、内部フリクションの低減、変速比幅のワイド化などを体感することは難しかった。さらにトーショナル・バイブレーションダンパーも、そもそもがプレミアムブランドであるため、静かであり振動も感じない。発進のスムーズさや変速の滑らかさ、ギヤ比のワイド化などを体感することはなく、BMWらしい高級な乗り味だったという報告になる。
一方、9速ATは横置きFFタイプに対応するトランスミッションで、その詳細はこちらでレポートしている。国内ではチェロキーとイヴォークに搭載していることで、ご存じの方も多いと思うが、試乗車の中にホンダCR-Vがあった。搭載するのはディーゼルエンジンで1.6Lターボ、160ps/350Nmというスペックに9速ATを搭載していた。残念ながら、国内には導入されていない。
また、フィアット500をベースとしたSUV、500Xにも搭載され、こちらは2.0Lディーゼルターボだった。8ATが高級車御用達なFR用マテリアルだとすれば、9速ATはより量販モデル向けのFF用トランスミッションだとわかる。多段ではあるが、横置きという限られたスペースに搭載するだけに、非常にコンパクトで大トルクにも対応している。それは9HP28と9HP48でそれぞれ280Nm と480Nm までの対応である。
◆安全
Saftyのセクションではレーダーとカメラを統合したTRWの技術とZFのハードをコントロールするシステムだ。レーダー、カメラそれぞれ得意とする分野があり、それを組み合わせることで、より安全で先進的な制御が可能になるというもの。
システム統合する上でZF TRWはオリジナルのアルゴリズムを開発し、複数の部品メーカーからセンサーを購入した場合より、反応速度を高速化することができ、より幅広い機能の実現になるという。
すでに市場に提供しているのがS-Cam3だ。第3世代のカメラシステムで、4つのグローバルプラットフォームに向け生産されている。主にC/Dセグメントのラグジュアリーモデルに採用され、大型動物、夜間の歩行者検知による自動緊急ブレーキなど多彩な機能を持っている。
また次世代のシステムとしてS-Cam4もある。S-Cam3をベースに3つのカメラを搭載したS-Cam4は2018年から提供が始まり、すでに納入先が確定しているという。S-Cam4は2015年の人とくるまのテクノロジー展でも実物が展示されていたが、長距離検知機能を高めたカメラと短距離用の魚眼レンズを採用し、標準のレンズと合わせ3つレンズがある。
より高度に周囲を検知できる機能により、対象物認識アルゴリズムを独自に開発し、高度な半自動運転して活用できるようになっているというのも、特徴のひとつだ。そして、このS-Cam4は量販セグメント、つまりB/Cセグメントをメインに投入していくようだ。
試乗コースでは障害物に対して、Emergency Steering Assist自動でステアリング回避する機能もテストできた。人間に見立てたダミー人形が飛び出し、これまでは自動緊急ブレーキで停止するというのが先端技術として体験してきている。同様にシナリオ1がこのテストで40km/hでのテストだった。停止後ドライバーは何もしない場合5秒間停止する、が、その後自動緊急ブレーキは解除されクリープし始める。
そして、シナリオ2ではハンドル操作が自動で行なわれ、ダミー人形への接触を避けるテストを体験できた。搭載しているシステムはS-Cam4で、ESC、ABSを統合制御しパワーステアリングを自動で操舵して回避する。速度は50km/hから70km/hの範囲でテストされた。現在、動作は1.6秒の時間を有しているが2016年には1.2秒まで短縮するようになると説明している。この時間の意味として操舵開始はいわゆる急ハンドルだ。人間が操舵するより素早く切られ、衝突を避け、安定走行に戻すという一連の動作時間だ。
現在車両の周辺360度の視野がないため、一方向の操舵でプログラムされている。だが、16年モデルは360度の視野を持ち、操舵方向も自動判定して操舵されるシステムということだ。
ちなみにテスト車両はオペルのミッドサイズセダンのシグナム、BMW3シリーズフォルクスワーゲン・パサート、フォード・クーガなどであった。