2017年9月、ドイツ・フランクフルトで開催されている国際モーターショーで、世界的システムサプライヤーのZFが新たなソリューションや自動運転に向けての新技術などを公表し、次世代に向けた魅力的な製品群を発表した。
ZFがTier1として世界第9位前後にポジションしていた時代から、急激に世界のトップ3へと駆け上ったことはご存じだろうか。2015年に、やはりTier1大手のTRW社を買収したことにより、これまでZFが提供してきた移動手段としてのモビリティから、次世代のモビリティへとシフトすることが可能になった。この企業規模の拡大により、自動車メーカーへ提供できるソリューションの幅も広がり、次世代へ向けての技術革新がスピードアップしている。
ちなみに、ZF/TRWの企業体を統合するまでに3年から5年の目算であったが、このIAA(フランクフルトモーターショー)の会場で、ワンカンパニー「ZF」として統合がほぼ完了し、ロゴも新しくなったことの報告もあった。ZFのCEOシュテファン・ゾンマー博士は、「当初は3年から5年をかけて統合を行う予定でした。計画よりも順調に進んでいることをうれしく思います。これまで、統合プロジェクトに関わってきた皆さんに感謝します。すべての社員が一丸となって努力した結果が今日の成功につながりました」と話した。
次世代へのソリューション、将来のデジタル化や自動運転に備えるためにもこの買収は重要な施策であり、「ビジョンゼロ・エコシステム」の基盤を盤石なものとする上で、最も重要な課題だったわけだ。その結果当初の売上高予測の300億ユーロを超え、2017年の売上予測では360億ユーロ、約4.8兆円となり、中規模の自動車メーカーよりも企業規模が大きいことになる。
■ビジョンゼロへむけたソリューション開発
ZFが標榜する「ビジョンゼロ」は交通事故ゼロ、エミッションゼロを示し、そのビジョンゼロを実現するためのコンセプトカー「ビジョンゼロ・ビークル」をIAAの会場でデモンストレーションした。このビジョンゼロ・ビークルは通常のクルマを電気自動車に変えることができる「mSTARS」やドライバーの不注意や逆走を防止する先進の運転システムなどを搭載したコンセプトカーだ。
ZFの次世代に向けたソリューションは、「see. think. act.」で表現している。つまり、見て、考えて、動かすことであり、自動運転化を進めていく上で、状況を捉え、適切な判断に基づきクルマを動かすという意味だ。そのために必要となるソリューションはたくさん必要であり、専門企業との提携も活発に行なっている。
具体的には、カメラ、レーダー、ライダーなどで得た情報を解析し、シャシー、ブレーキ、ステアリング等へ伝え、自律走行させる。そのために、AI技術などで注目される「エヌビディア(NVIDIA)」やスマートコックピットなどの開発に欠かせないインテリア系サプライヤーの「フォルシア」、レーダー、ライダー、アルゴリズム系の「ヘラー(HELLA)」、「アスティックス(Astyx)」、「イベオ(ibeo)、」、ネットビジネスの「ダブルスラッシュ(doubleSlash)」など数社に及ぶパートナーシップを締結している。
そして今回さらに踏み込んだ発表もあった。それは将来の車両制御に欠くことのできない性能といわれる人工知能=AIだ。NVIDIA社と共同開発をした「ZF ProAI」で貢献できると一歩踏み込んだ発表をしている。
さらに、こうした制御技術を活かすために必要なソフトとして、高精度マップが必要で、ZFではまず、中国での自動運転を目指し中国のインターネット企業、百度(バイドゥ)との提携も発表した。
ZFは自動運転およびテレマティクスの分野で百度と協力し、広範囲な技術ソリューションを中国から手始めに開発していくということだ。
ZFのCEOゾンマー博士は「AI、ビッグデータやクラウドベースのサービスアプリケーションにおいて優れた専門性を有する百度をパートナーとして迎えることになりました。これらのテクノロジーは、自動運転に必要な技術の基盤となるものです。当社の車両制御システムZF ProAIにより、これらの情報をCar2x通信(車両同士)から、他のデータと組み合わせ、お客様に自動運転ソリューションをワンストップで提供します」と話した。
AIの必要性でいうと、これまでのセンシング技術は、今ある状況を的確に判断し車両を動かす制御をしているが、完全自動運転には、人と同様に予測しながらの運転も要求されてくる。人は、事故が起こりそうな状況を予測し、車速を落としたり加速したりする。そうした自然な行動も必要になってくるわけで、AIの開発は欠かせないのだ。
駐車しているクルマの間からボールが転がり出てくれば、子供の飛び出しを予測し、人は減速する。現在のセンシング技術ではボールの大きさにも影響され、場合によっては減速せず、また子供の飛び出しに対しては止まるという制御がされている。つまり人間と同じような予測行動とは異なり、この先自動運転をより高度化するためには、AIのディープラーニングやパターン認識を繰り返し、ニューラルネットワーク(事象関連付け)を構築し、学習したAIが搭載される必要があるということになるわけだ。
こうして得た状況と予測を正確に反映するには、高精度の地図が必要となり今回の百度との提携につながっていく。GPSとセンサー技術で正確な自車位置を測位し、地図上に反映して車両を制御するという流れが必要になってくるからだ。そしてZFは百度の自動運転システム開発連合「アポロ計画」というAIを使ったオープンプラットフォームに参画し、50社を超える関連企業とともに、AI開発を進めていく。
ちなみに、アポロ計画に参画している巨大企業は、フォード、ダイムラー、ボッシュ、コンチネンタル、デルファイ、マイクロソフト、NVIDIA、インテル、そして中国の自動車メーカー第一汽車、北京汽車、長城汽車、東風汽車、長安汽車などなどだ。
さらに百度が地図やAIだけでなくテレマティクスに関しても優れた専門性があり、通信による情報の取得などでも重要な役割を担うことになる。
■Car eWalletプロジェクト
そして、もうひとつ自動運転における技術開発で、一歩進めた技術としてCar eWalletの開発がある。つまり自動支払いシステムで、国内ではETCが普及しているためイメージしやすいが、グローバルで見るとまだまだ普及には時間が必要だ。
そこでZFではIBMとUBS(世界最大級の金融グループ)と共同で、Car eWalletのプロジェクトを進めることを発表した。
ゾンマー博士は、「カーシェアリングと将来の自動運転車両にとっては誰でもが使える決済システムが必要となります。Car eWalletとIBMのブロックチェーン技術によって、リスクとコストを下げながら、ユーザーの利便性を大幅に向上させるシステムを車両に搭載することが可能になります」と話した。
この電子決済の必要性を考えてみると、無人で動くタクシーの支払い、カーシェアリング、給油、充電などでの利便性が上がる。さらに宅配サービスなどでは、荷物を受け取れないときに、クルマのトランクや車内に納品し、自動決済できるようになるなど、将来的に必然となることを示唆している。
具体的にZFではIBMのブロックチェーンテクノロジー(データベース)をベースにクラウド経由され、リナックス財団が管理するハイパーレッジャーファブリック1.0(暗号通貨)で運用される。こうした安全なネットワークの構築を共同で進めており、欧州最大の駐車場管理企業のAPCOA社の参画も確定しているという。APCOAが管理する欧州80都市20万か所以上の駐車場での料金の支払が自動でできるようになるのだ。
また、世界最大の自動車充電システム会社であるアメリカのCharge Point社もパートナーに加わり、4万か所の充電ステーションを傘下に収め、企業、自治体、サービスプロバイダーなど7000を超える顧客を擁し、あらゆるタイプの自動車向け充電機器(ハードウエア)とソフトウエア両方の開発、製造を手掛ける唯一の企業だという。また、欧州への進出などから、世界共通の決済システムが構築されていくというわけだ。
こうした電動化、自動運転化などの次世代のモビリティに必要とされる技術、ソリューションの開発は目まぐるしく変化し、Tier1企業としては、全方位でカバーしていく方向にある。これまで不可能と思われたことや思いもよらぬアイディアなどが次々に誕生し、現実化していくプロセスはじつに楽しい。とりわけZFの動向には今後も注目し続けていきたい。