グローバルサプライヤーのZF社は2025年4月23日、EV車両をベースとした最新のレンジエクステンダー(EVの航続距離伸延)システムを発表した。
レンジエクステンダーの技術は、主に中国の電気自動車メーカーのニーズに対応したものだが、ヨーロッパやアメリカにおける電動モビリティ市場にも適合するポテンシャルを備えている。

EVの航続距離を伸ばすレンジエクステンダー技術システムは、発電機として機能する専用の電気モーター、電圧変換用のインバーター、コンパクトな内燃エンジンで構成される。
内燃エンジンにより発電機を作動させて電力を供給し、必要なときにいつでも高電圧バッテリーを充電することができる。つまり、バッテリー残量が減ったEVが充電ステーションで充電する必要がないのだ。
このシステムは、電気自動車をレンジエクステンダー型電気自動車(REEV)に変身させることを意味する。
かつて、レンジエクステンダーのコンセプトのパイオニアのひとつとして、ゼネラルモーターズのコンパクトカー 「シボレー・ボルト」があった。
2016年末にラインオフし、アメリカ市場だけでなく、2017年には「オペル・アンペラ-e 」の名でカナダ、ヨーロッパ、韓国でも販売されていた。
しかし、販売台数は低水準にとどまり、次第にEV時代を迎え、駆動用バッテリーの容量は大きくなりEVとPHEVが台頭した。そのためREEVコンセプトは深い眠りについたかにみえた。
ZFのレンジエクステンダー・システム担当の生産ラインマネージャーのケイ・シュミットは、「私たちは早くからレンジエクステンダーの利点を認識し、2018年にロンドンで最初のEVタクシーに搭載しました。現在では、PHEVと比較して二酸化炭素排出量を大幅に削減するモジュール式ソリューションを提供しています」と語っている。
一方で、急成長している中国のEVメーカーは、レンジエクステンダーに注目し、新エネルギー車の需要の大幅な急増を背景に、レンジエクステンダーの採用が加速している。つまり中国市場では、新たに強力なエンジンを搭載するPHEVを開発するより、EVをベースにしたレンジエクステンダーを選択する傾向が強いのだ。

航続距離を妥協することなくEV走行できるというシステムは、極めて魅力的だ。ZFはこの動きに対応し、モジュール式レンジエクステンダー駆動システムの開発に取り組んでいる。その名は 「エレクトリック・レンジエクステンダー(eRE)」だ。
こうした技術は、ヨーロッパやアメリカでやや低迷傾向にあるEV市場を活性化させる可能性がある。すでにヒョンデ、フォード、ステランティスといった大手メーカーがレンジエクステンダー技術に関心を示しており、今後2年以内に搭載車を発売する予定なのだ。
レンジエクステンダーを搭載した電気自動車には優位点がある。PHEVと同様にレンジエクステンダーにも充電用のソケットがありつつ、車載発電機能を備えている。移動中に駆動用バッテリーを充電するため、バッテリーを小型化できる。これにより車両重量が軽減され、車両価格を下げることもできるわけだ。
さらにレンジエクステンダーを搭載したEVの駆動技術は、PHEVよりシンプルで、開発期間も短縮することが可能だ。
従来のレンジエクステンダーは、動力源が純粋にモーターのみのシリーズハイブリッドであり、小型内燃機エンジンが発電専用で駆動は担当しない。一方で、PHEVは電気駆動と内燃エンジン駆動を選択できるようにっている。
どちらの駆動コンセプトも、純粋なEVモビリティへの前段階の技術という点で共通しており、CO2排出量を大幅に削減できる。そしてレンジエクステンダーとPHEVのもう一つの共通点は、長い航続距離が可能で、充電インフラがあまり発達していない地域にも適していることである。
2023年11月、ZFは上海の技術センターで、電気モーターとソフトウェア付きインバーター、遊星ギアセットを含むモジュール式レンジエクステンダー・システム「eRE」の開発を開始した。このシステムは400Vと800Vの両方の電気アーキテクチャに対応できるようにしている。
また、顧客の自動車メーカーのインバーターが従来のシリコン半導体(Si)を使用しているか、炭化ケイ素(SiC)を使用しているかも問わない。70kWから110kWのスケーラブルな出力を持つ永久磁石同期モーター(PSM)が「eRE」の発電機として機能するため、レンジエクステンダーとしての効率を高めている。
ZFの電動パワートレイン・テクノロジー研究開発責任者のオトマール・シャラー博士は、「お客様にとっての利点のひとつは、レンジエクステンダーに当社の電気自動車やハイブリッド車のポートフォリオから、堅牢で実績のあるコンポーネントを使用できることです。また、価格面での競争力もあります」と語っている。

ZFは、従来の「eRE」システムに続いて、発展バージョンとなる「eRE+」を開発した。この「eRE+」システムは、インテリジェント・クラッチとデファレンシャルを追加している。
これにより、レンジエクステンダーの電気モーターを発電機として作動させるだけでなく、必要に応じて前輪に動力を供給して4輪駆動にすることも可能になっているのだ。
オトマール・シャラー博士は、「最大出力150kWに達するこのeRE+により、レンジエクステンダーのコンセプトは一段とに発展しており、世界初のシステムを生み出したのです」と語っている。
ZFのレンジエクステンダーのその他の利点は、コンパクトなサイズと内燃機関への組み込みが容易なことだ。インバーターを電動モーターのハウジングに組み込むことで、よりコンパクトな設計となっている。
この最新の「eRE+」の量産は2026年中に開始される予定となっている。