グローバルシステムサプライヤーのZF社が興味深い試乗会を開催した。同社がカーメーカーに提供している電子制御セミ・アクティブダンパーがあるが、その可能性と、この先の電動化に対して提案できる技術、システムを体験するというもので、早速その内容をお伝えしよう。
まず、ZF社についてはクルマについて詳しい人ならすぐにピンと来るだろうが、ドイツに本社を置くメガサプライヤーで、乗用車だけでなく商用車や特殊車両用にシステムや部品を供給しているシステムサプライヤーだ。特にレースに詳しい方ならフォーミュラのミッションといえばZF製がすぐに思い浮かぶだろう。またBMWの8速ATやポルシェのPDKをイメージする人も多いと思う。
近年は「see think act」をキーワードに車両全般に及ぶシステムを提供している。「see」は車両周辺の情報を見る、「think」はその情報を元に車両の動きをどうするかECUを使って制御する。そして「act」はステアリングシステムやブレーキシステムなどを使って車両を動かすという一連の流れの中で必要とされる最新の技術、システムを提供しているTier1(ティアワン)企業だ。
セミ・アクティブダンパーの拡張性
今回試乗したセミ・アクティブダンパーは、SUBARUレヴォーグをテスト車両にして体験した。レヴォーグにはZF製のセミ・アクティブダンパーが装着されており、ZFの名前を知らない人でもじつは身近な存在なのである。
今回は、そのセミ・アクティブダンパーであるCDC(コンティニュアス・ダンピング・コントロール=電子制御連続可変ダンパー)をチューニングして、CDCの可能性を体験するというものだった。
市販されるレヴォーグはCDCにより、そのキャラクターの変化が体験でき1台で高級車の乗り心地からスポーツカーの走りまでを体験できると話題のシステムを搭載している。そのCDCをドイツ本社でスペシャルチューニングを行ない、広がる可能性を披露したものだ。もちろん市販のレヴォーグには現在のセットアップが最善のデータが組み込まれているのは言うまでもなく、今回はその振り幅を広げることで、どこまで可能性が広がるかという体験なのだ。
具体的にはレヴォーグにはコンフォート、ノーマル、スポーツというドライブモードがあるが、スペシャルチューニングは、さらにコンフォート性を高めたコンフォート+、さらにスポーツ性を高めたスポーツ+を設定し、ノーマルモードは標準のスポーツにした仕様でテストドライブした。
テストは特設会場にパイロンで設置したハンドリング路に、スラローム、大旋回をテストする設定と、直線からのブレーキングによるノーズダイブ、アンチスコートをテストするコース、そして障害物を乗り越えるスピードバンプが設定されている。さらに一般道での試乗も行ない、その変化幅を試した。
驚きのキャラ変
コンフォートプラスでは、車両の初期ロールは大きくなるものの途中で減衰されロールは止まる。また切り返しでの滑らかなボディの動きも印象に残る。そしてスピードバンプ(30km/h前後)では大きい入力のあとの収まりが素早く、柔らかいのに揺れないという印象をもった。
スポーツプラスでは驚くほどの変化で、全く違うクルマに乗っていると錯覚するほどの違いがあった。ロールはしているのだろうが、フラットな旋回をしているように感じる。大旋回の場面では、ずっと四輪に均等荷重しているように感じ、どんどんアクセルを踏み込むことができるようになる。
レヴォーグのボディの素性の良さやサスペンションの仕立てがあるからこそだと思うが、これほどピュア スポーツカーに変身してしまうのかと感心した。またこのスポーツプラスでもスピードバンプでは最初の入力のいなしがあり、タイヤのエアボリュームが上がったような印象も受けた。
ZFではこうした技術のアピールとCDCという商品の可能性についての提案もあり、興味深かった。
商品構成
レヴォーグに装着されているCDCはZFではCDCevo(イーボ)という呼び、エクスターナルを意味している。そして減衰バルブを内蔵しているCDCivo(アイボ)も存在している。このivoはサスペンションのストロークの長さがある程度必要になるため、SUVなど車高の高いモデルに採用されているタイプだ。
そのCDCevoの特徴だが、一般的に横軸にピストンスピード、縦軸に入力のグラフで減衰特性が語られるものだが、連続可変するため全領域で減衰力を発生するため減衰特性はない、というのが特徴だ。
その構成部品としてはダンパーに直付けされるGセンサーとダンパー上部に6軸センサーを設置している。これに車両からのCAN bus通信から、ステアリング舵角や車輪速などのデータを読み込み、専用のECUで演算され瞬時に減衰力が発生するという仕組みだ。また、最新版のCDCevoは消費電力も改善しているというアピールもあった。
この電子制御式ダンパーは、1997年に最初のCDC+制御システムを量産車に搭載している。そして2015年に世代が代わり新しい制御バルブの開発の成功により、CDCevoへと進化している。
現在のラインアップではフロントをコンベンショナルなダンパーにし、リヤにCDCを搭載するCDCfsc(フリークエンシーセレクトコントロール)というのもある。周波数によって減衰をコントロールするバルブシステムを持っているタイプで、廉価版CDCだ。
CDCの可能性
こうした減衰力の変化が及ぼすドライバビリティの変化はさらに進化している。現在開発中のCDCrci(リバウンド コンプレッション インディペンデント)では、伸び側と縮み側、縮率をそれぞれ制御できる。よりマジックカーペットレベルの乗り心地とピュア スポーツの両立ということが可能になってくるわけだ。
さらに、ZFではこうした減衰変化が車両に及ぼす影響だけでなく、次世代電気自動車にもこうした技術が有効であることを提案している。というのは、乗り心地の確保やドライバビリティという項目での性能は確保しつつ、別な働きでも魅力を出せるとしているのだ。
次世代電気自動車ではバッテリーを床に敷き詰め、バッテリー本体がキャビンスペースやラゲッジスペースを損なわないようなプラットフォームが主流になりつつある。そうした構造のプラッフォームはバッテリー自体もフロア構造体の一部として設計されているわけで、車体への凸凹の入力に対して、ねじれ剛性などにも対応しなければならない。
そうしたときにCDCであれば、振動の吸収とともに、カメラセンサーを使いながら、先の路面状況を読み取り、油圧で車高を瞬時に変更するなどの制御が可能になってくる。いわゆるフィードフォワード制御により、車体への大きな入力を回避することが可能になるということだ。
冒頭システムサプライヤーであることを説明したが、カメラセンサー、ステアリング、そしてダンパーを連携させ、さらにEVの出力制御も組み合わせることも可能で、路面変化に合わせるように車高を変え、減衰をすることでフロアにかかるねじれる力をいなすことが可能になる。
CDCであればバッテリー自体の外的損傷を未然に防ぎ、安全性に寄与できるという提案なのだ。こうした既存の技術と新しい技術が組み合わされていくのがカーメーカーが作るEV車になると思うが、さらに運転支援システムや常時接続のコネクテッド技術など、すべての領域を網羅しているZFの強みはこうしたシステムのパッケージでの提供ができることと、個別にパーツ単位でも提供できることがあることも分かった。
CDCだけでもこれだけの拡張性を感じるわけで、次世代車両の進化には大きな期待と魅力を感じることができる試乗だった。
<レポート:高橋アキラ/Akira Takahashi>