ZFが持つ統合安全技術のアドバンテージ

前回、世界的システムサプライヤーのZFが日本の自動車メーカー向けにZF製品の試乗会を開催したことをお伝えした。そこではシステムサプライヤーでありつつ、ハード部品も製造する歴史を持つZFだけに、様々分野に渡り製品が展示されていたが、今回は統合安全についてお伝えしたいと思う。

※関連記事:ZFのVision Zero Days試乗会に潜入

車両の外で展開するエアバッグ。統合安全制御により、衝突直前に展開し被害軽減に
車両の外で展開するエアバッグ。統合安全制御により、衝突直前に展開し被害軽減に

それは、アクティブセーフティやパッシブセーフティの分野をピックアップして考えてみると、ここまで幅広く「安全」に対するポートフォリオやソリューションを持っているメーカーも珍しいことに気づいた。つまり、シートベルトやエアバックを開発するメーカーがADAS(高度運転支援技術)、レベル5まで見据えた自動運転技術も同時に開発しているのは、世界でもZFだけではないか?と考えたからだ。

ZFの乗員安全システムシムテムマネージャー井関秀雄氏
ZFの乗員安全システムシムテムマネージャー井関秀雄氏

そこで、ビジョンゼロ・イベントの後、ZFの統合安全(Integrated Safety)についてインタビューを打診し、乗員安全システムのシニアマネージャー井関秀雄氏に話を伺うことができた。

商用車、建機も視野に開発

基本的なところで、ZFは乗用車、バストラックなどの商用車、そして産業機械の領域でシステムやパーツ、技術を提供している。そしてコーポレートビジョンとして「VISION ZERO」を掲げ、CO2排出や事故ゼロを目指している世界トップ3に入るシステムサプライヤーだということはしっかり理解しておかなければならない。

世界トップ3に数えられるシステムサプライヤーのZFは、乗車車以外にもシステムを提供している
世界トップ3に数えられるシステムサプライヤーのZFは、乗車車以外にもシステムを提供している

そして開発している分野は幅広くAutomated Driving自動運転、Vehicle Motion Control車両運動制御、Integrated Safety統合安全制御、Electric Mobility電動化といった4つ分野でビジョン ゼロに向けて対応していくロードマップだ。

ZFが考える次世代車両戦略。きちんとした枠組みが既にできているあたりがドイツ企業らしい
ZFが考える次世代車両戦略。きちんとした枠組みが既にできているあたりがドイツ企業らしい

--井関氏
「現在ZFのシートベルトやエアバックのグローバルで大きなシェアを占めています。もちろん日本車にも搭載されていますし、ZFでは横浜の日本本社近くにある開発センターには、エアバックの試験場もあります。そこでは、正面衝突ダミーや側突用ダミーを使って開発も行なっています」

横浜にあるZFのエアバッグ衝突実験場。国内でも研究開発が進められているのだ
横浜にあるZFのエアバッグ衝突実験場。国内でも研究開発が進められているのだ

そこで考えてみると、アクティブセーフティの分野とパッシブセーフティの分野を連携させれば、より安全で、人体を守ることがもっと高度な領域で可能になってくるのではないかと思う。

つまり、衝突の衝撃でシートベルトが巻き上がり、エアバックが展開する今の技術とは別に、衝突直前に何かを稼働させたり、あるいは回避したりすることも可能ではないか?という考えだ。そうした取り組みは、以前から続けてきていると井関氏は説明する。それが、ZFが提案する統合安全システムというわけだ。

様々な領域での技術を統合することで安全性が高まっていく
様々な領域での技術を統合することで安全性が高まっていく

統合安全システム

--井関氏
「ZFでは、その統合安全の領域を道路環境や車両の状態、テクノロジーの領域、乗員の状態観察、精神状態の把握、そして走行する車両の周囲情報といった領域がアクションフィールドだとしています」

こうした領域へ投入するソリューションを考えると、ZFは自動運転のシステムを説明する時に「see think act」という言葉で説明する。これは統合安全の領域でも同様で、seeは情報を得ることを意味し、thinkはその情報に対してのアクションを考えること。そしてアクションを起こす、あるいはシステムを動かすためのアクチュエーターとして稼働させるという枠組みで捉えているのだ。

ZFが持つ専門領域。これらを統合制御することでより安全性の向上につながる
ZFが持つ専門領域。これらを統合制御することでより安全性の向上につながる

--井関氏
「例えば、クルマを運転しているとか、自動運転車に乗っているとします。現在はレベル2ですが、そこにはZFのポートフォリオを使って、乗員を積極的に観察することができます。例えばハンドルを握っているとか、いないとか、脇見をしているとか、居眠りをしている、あるいはシートベルトを装着しているとかなどです。そうした状態をシステムは把握しながら、衝突の直前にはシートベルトを巻き上げ、乗員をシートにしっかりと固定し、クラッシュの時にはエアバックを展開させるといったポートフォリオ、ソリューションがすでに揃っています」

側突時、乗員の頭部を守るエアバッグや、サブマリン用なども用意されている
側突時、乗員の頭部を守るエアバッグや、サブマリン用なども用意されている

次世代車の安全システム

--井関氏
「さらに、現在、ADASシステムを介入させることが可能で、衝突回避緊急ブレーキの作動や次世代になりますが、緊急回避ステアリングといったシステムを連動させていくことができます。その結果、エアバッグの展開を防げたり、事故を未然に防ぐことも可能になってくると考えています」

もっと具体的に連動可能なポートフォリオをみると、seeの分野のセンシングでは、車内の観察として、2D/3Dカメラセンサーセット、シートベルトセンサー、ステアリング保持センサーがあり、車外では当然、カメラ、レーダー(Radar)、ライダー(Lidar)などでseeしている。

そしてthinkの分野では、どのように乗員の安全を確保するのか、システムの介入を考え制御の戦略を構築する。そしてactではブレーキ、ステアリング、シートベルト、エアバック、高機能シート、そして車両の動きをコントロールするアクションをアクチュエイトすることが可能になるというわけだ。

また、次世代を見据えた統合安全ではフォルシア社と協業して、次世代の安全コックピットも手掛けている。例えばドライバーズシートでは、マルチモーダルに対応し、例えば触覚や明るさ、音といったものに反応できるコックピットにすること、そして、より室内が快適なリビングのようになった場合への対応なども始まっている。

ちょっと分かりにくいが天井から展開するエアバッグも開発している
ちょっと分かりにくいが天井から展開するエアバッグも開発している
ページのトップに戻る