システムサプライヤーのZFは定評のある8速ATを、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、そしてマイルドハイブリッドに対応した新しい8速ATを開発した。
製品概要
ZFの新世代8速ATは、ハイブリッド化を前提に開発。新型トランスミッションは、モジュール設計によってマイルドハイブリッド、フルハイブリッドおよびプラグインハイブリッドに対応し、出力も24kWから160kWまでが選択できる。また、パワーエレクトロニクス(インバーター)は外付けでなくハウジング内に収められているため、トランスミッションユニットのサイズが大型化していないことも特徴だ。
プラグインハイブリッド向けは高いパワー密度の新しいモーターを採用
プラグインハイブリッド向けは、日々の走行がバッテリーだけで可能なレベルに達することが必要と考え、モーターは最大出力160kW、連続出力80kWを発生し、モーターだけで450Nmのトルクを発生する。ZF内製の新開発モーターには、従来の銅線コイルに換えて溶接した銅製ロッドを使用することで、サイズを大幅に変えることなく高いパワーを実現したという。「ヘアピンテクニック」と呼ぶこの技術は、パワー密度を左右する銅の密度を大幅に高めることができるということだ。
マイルドハイブリッドは搭載位置が選べる
約300Vの高電圧を使用するプラグインハイブリッドに加え、マイルドハイブリッドも今後数十年にわたって大きな役割を担ていくことを前提に、48Vマイルドハイブリッドシステムを開発。このシステムは、駆動系のいくつかの場所に装着が可能で、エンジンアウトプット側のクランクシャフト(「ポジション1」)とインプットシャフト(「ポジション2」)が特に効率的。ZFの新世代ユニットは、どちらのタイプにも対応し、モーターは25kWの最大出力を発生する。
パワーエレクトロニクスをトランスミッション内に統合
4世代目の8速ATで、モーターを制御するパワーエレクトロニクス(インバーター)を、トランスミッションに内蔵することに成功。ハイブリッドドライブの車体への組み付けにおける複雑さが解消され、通常のトランスミッションとほぼ同様となるため、完成車メーカーに大きなメリットをもたらすという。さらに車内の高電圧ケーブル数も減り、安全性の点でもメリットがある。
トランスミッションのサイズを変えずにパワーエレクトロニクスを内部に収めるために、冷却系に新たな考え方を導入し課題を解消している。特に高電圧モデルのIGBTで顕著で、発熱する半導体を車両の空調システムの冷却系に接続することでこの問題を解消している。
ギヤシフトの油圧制御も新設計
さらにギヤシフトを行なう油圧システムも大幅な小型化も行なっている。これまで3.1Lだった8速ATの油圧制御ユニットを、1.8Lへとコンパクトにしている。これは主に、ダイレクトシフトバルブを使用することで実現。電磁アクチュエーターの採用により、これまでの電動油圧アクチュエーターに必要だったピストンやブッシュ類が不要になり小型化している。
新8速ATの特徴はハイブリッドへの最適化
新しい8速ATに追加されたパ―ツは全てハイブリッド用を念頭に設計している。これまでのトランスミッションでは、エンジンが直接駆動するベーンセルポンプとEV走行時に作動する電動ポンプまたはパルスメモリー方式と、オイルポンプが2基使用されている。これが、次世代型ではパワースプリットポンプ1基とした。エンジンが停止している状態では、直結された小型のモーターが作動する。
新しいトランスミッションは、その機構もハイブリッドに適した設計がされ、4つのプラネタリーギヤと5つのシフトエレメンツはこれまでと同様だが、フリクションパワーの改善により効率化を向上。その結果、エンジン駆動時におけるCO2排出量は1km走行あたり1g減少し、電気駆動での航続距離も延ばしたという。
そして新開発した8速ATは、量産を2022年からドイツにあるザールブリュッケン工場で開始し、中国と米国における市場投入を予定している。