雑誌に載らない話vol104
トランスミッション、シャシーテクノロジーで有名なメガサプライヤーの一つであるドイツのZFが、2014年10月、中国・上海でアジア・パシフィック向けにビジネスカンファレンスを開いた。
これまでZFはドイツを中心にワールドワイドに業務展開をしてきたが、成長著しい中国市場の発展に伴い、アジア・パシフィックを中心としたZFAPを展開することになり、新たにCEOを置き、現地対応ビジネス強化に注力する。
CEOに就任したのはルディ・フォン・マイスター氏で数々のグローバル企業の中国担当を経験している、いわば、中国ビジネスのスペシャリストである。そして副社長にはパワートレーン・テクノロジー事業部のハラルド・マスマン博士が就任している。
ZFといえば8速ATや9速ATのトランスミッションが身近で、BMWやベントレー、ロールスロイス、アストンマーティン、ジャガー、ランドローバー、ポルシェなどなど欧州車のプレミアムモデル、さらにはアメリカのクライスラー向けのトランスミッションも供給している。国産ではレクサスIS-FのリヤダンパーにZFのSACHS(ザックス)の採用や、ホンダオデッセイのダンパーやステアリングシステムなどがある。また、WECに出場中のトヨタTS-040のクラッチも提供している。レースでは国内のGT選手権のスポンサーもしており、身近に感じているカーガイも多いことだろう。
ZFは1915年に創業し、来年2015年は創業100周年という歴史があり、日本のどの自動車メーカーよりも歴史があるサプライヤーということになる。そのZFの2013年度、ZFグループとして総売り上げは2兆円超、従業員数7万人超の規模で、中心となる売上高はパワートレーン、シャシーがメインとなる。世界26カ国、122か所の生産拠点があり、研究開発拠点も世界4カ国、8か所にある。
地域別の売上としては西ヨーロッパがメインで約9億ユーロ。次いで北米、アジア太平洋となっている。レンジローバーイヴォークやジープチェロキーに搭載する9速ATは北米工場が生産拠点となる。
自動車部品サプライヤーランキングでも世界第9位に位置し、先日も中国第5位の自動車メーカーBAICと合併する事業展開を発表したばかりだ。さらに2015年からはエアバックやブレーキ、制御システムなどのサプライヤーTRWを買収するため、ボッシュに次ぐ世界第2位のサプライヤーへと躍進することが予想されている。
その中国の自動車メーカー北京汽車集団(BAICグループ)との合弁会社を設立についてだが、業務としては、乗用車用シャシーシステムの開発、組立を行なう合弁会社で、北京の南東部に社員200名の新工場を設置する。そのBAICは中国第5位の自動車メーカーで、2013年には200万台以上の販売実績がある大手企業だ。
ZFのCEO、シュテファン・ゾンマー博士とBAICグループ会長兼同グループの乗用車部門であるBAICモーター会長の徐和誼(Xu Heyi)氏は2014年10月9日、ドイツ・フリードリヒスハーフェンにおいて合弁会社設立契約を締結している。
ゾンマー博士は今回の契約締結に際し、「BAICグループに当社の製品を信頼して頂き、大変光栄です。この合弁会社の設立により、当社にとってきわめて重要な中国市場においてさらに大きく前進することができます。」と語っている。
ZFはBAIC汽車とダイムラーAGの合弁会社、北京ベンツ汽車(BBAC)と数年にわたり取引を行なっており、具体的には、中国で生産されている現行のW205型メルセデス・ベンツCクラス、W212型Eクラス、GLKクラス向けのフロントおよびリヤシャシー・モジュール一式をZFは供給している。
ZFが51%を出資するこの合弁会社は、北京の南東に位置する北京経済技術開発区(BDA)に設立される。2015年初頭から、開発作業に着手し、生産設備設置の準備に取り掛かかる予定だ。そしてシャシーモジュールの組立は2015年以降に開始する計画だという。その後、初期生産能力20万台の体制での稼働となる。
ZFAPでは全体の売上が約3750億円でうち、中国が約2500億円を占めている。また、北米も延びているため、2025年にはZF内での売上シェアを北米とアジア・パシフィックで50%にまで引き上げる目標となっているのだ。
また、研究開発のグローバリゼーションは北米、南米のブラジル、インド、上海、東京で展開し、今年2014年には上海にR&Dセンターを着工している。さらに、2015年には東京近郊にもR&Dを建設する予定だというから、ZFフリードフィヒスハーヘンAGにとってのアジア・パシフィックの重要度が垣間見えてくる。
現在中国にあるZFの製造拠点は23か所あるが、ZFAPの稼働により、部品の大量生産へとシフトしてくことが予想される。BAICとの合弁会社は製造ラインを持っているので、これまで少量生産だったサプライ部品も量産化が可能になる、あるいはマグナシュタイヤーのような自動車製造分野にも進出が可能になるわけだ。
CEOのマイスター氏は「ZFは伝統的に機械技術で高い技術力を持ち、評価されていますが、これからは電動化やハイブリッドなどに対するソリューションを如何に提供することが大事かということでもあります。また来年(2015年)の初頭にはTRWの買収が締結できると思いますが、このことも、これらの電動化などに対応するためのアクションでもあるわけです」という。さらに「日本における研究開発センターは我々の技術をデモンストレーションするというだけでなく、日本の優れた技術を学ぶ場所としての役目も持っています」と語っている。
したがって当然、日本の国内メーカーへのセールスは増えるだろう。従来からの高級車向け機械系のソリューションはもちろん、量販モデルやEV、HEV車へのかかわりも増えるのかもしれない。ZFというサプライヤーはすでにブランド化されており、今後の動きに注目だ。 <高橋アキラ/ Akira takahashi>