【ZF】多段化の最先端 最新9速ATを搭載するレンジローバー・イヴォークとジープ・チェロキー試乗

多段化の最先端をいくZFの9速ATをいち早くインプレッションした

ZF(ゼットエフ)という会社をご存じだろうか。ドイツに本社がある大手部品サプライヤーで、主にトランスミッションやシャシー&ステアリングシステム、ダンパーなどを開発・設計・製造するメーカーであり、システムサプライヤーだ。そのZFのトランスミッションは多くの車両に搭載されており、多段化の最先端を行くく9速ATに今回試乗することができた。

ZFのトランスミッションはBMWやジャガー、ベントレー、ポルシェ(PDK、7MT)などに搭載されていることで有名だ。企業規模はワールドワイドに展開している。世界121の生産拠点を持ち、日本にもZFジャパンがある。その売上げ規模も約2兆円という巨大な企業なのだ。

右側は量産が開始されたZFの9速AT・9HPのカットモデル。左側は超コンパクトな4setの遊星ギヤ・ユニット

そのZFが世界のジャーナリスト向け最新技術の概要説明と試乗会を行い、参加してきたのでそのレポートをお送りしよう。中でも注目されるのは量産が開始された乗用車用9速ATだ。これはまず最初に2014年モデルのレンジローバー・イヴォークとジープ・チェロキーに搭載されることが決定しており、いち早く試乗できるのはありがたい。

車体の制限を受ける横置き用ミッションでは重要なコンパクト化も実現

世界初の9速ATであり、アイドリングストップ機能、4WDにも対応するというFF用の横置き型トランスミッションは、ZFでは9HPと名付けられている。HPとはトルクコンバーターと遊星ギヤの頭文字を使用したZF社の呼称だ。この9HPはトルク特性に合わせて2種類の9HPの生産をしている。ひとつは9HP28でミッション重量は78kg、そしてもうひとつは9HP48で重量は86kgであり、また4WDやハイブリッド車にも対応できるモジュラー設計コンポーネンツとしている特長がある。

9速の変速概念図。ギヤレシオ、変速比幅もスペックが公開されている

これまでZF社ではMT、AT、DCTなどを開発、製造してきているが、縦置きの大排気量向けエンジン用が多かった。しかし、同社のトランスミッションに関する世界市場予測では、横置きエンジン用AT需要が増えるとしており、すなわち小型FF車用のATを開発する必要があると判断している。FF用としてはMT、AMTをこれまで供給しているが、AT需要の拡大を読んでいるわけだ。

それには量産体制を整える必要があることから、需要が予測される北米サウスカロライナ州グリーンビルにトランスミッション工場を2011年に建設している。つまりクライスラー、そして日本の北米仕様車への採用も想像される。

ZFの説明によると2009年トランスミッションタイプ別供給は全世界で、MT:52%、AT:38%、CVT:7%、DCT:1%、AMT:1%そしてフル・ハイブリッド:1%という割合だが、2017年予測としてMT:50%、AT:32%、CVT:6%、DCT:4%、AMT:2%、そしてフル・ハイブリッド:3%、マイルドハイブリッド:1%、E-ドライブ:2%と予測している。

搭載するクルマではFFタイプの需要の伸びを予測し、2009年約4000万台強が2016年には6000万台になると考えている。自動車全体では6000万台から1億台近くまでの伸びを予測している。そしてFF、FRの割合は約75%がFF方式で、FF車がさらに拡大すると考えているようだ。これらの需要に対し、ZFではFR用には2010年に第一世代の8速ATを提供しており、FF用では2014年モデルから第一世代の9速ATを供給する。また湿式DCTはすでに供給が始まっている。

さて、今回の9HPについてそのメリットは?というポイントをまとめてみると、効率という点で、まず変速比幅が9.81と非常にワイドスプレッドレシオ(変速比幅)で、各ギヤ段のステップ幅も小さい。したがってエンジンは常に燃焼効率よい回転域でエンジンが使え、同社の6速ATと比較し10~16%の燃費向上が見込める。

9HPは非常に速い変速レスポンスと変速時間を可能としており、150/1000秒の反応で450/1000秒の変速時間を持つため、日常使いはもちろん、スポーツドライブにおけるドライバビリティの点においても優位だ。

さて、その9HPのギヤ構成は4つのギヤセット(Wプラネタリー)と6つのシフトエレメンツで構成し、9ステップの変速をする。従来の6速は3組のギヤセットと5つの要素、8速では4つのギヤセットに5つの要素という組み合わせだった。

変速比幅は9.81というワイドスプレッドとなり、一世代前の6ATで120km/hのときエンジンスピードは2890rpmであったが、9HPでは2170rpmまで下がり(イヴォークの場合)、10%~16%の燃料消費削減が可能になるという。ちなみに変速比幅が広いのがメリットとされる最新の小型車用のCVTの変速比幅はおおよそ6.8程度から7.5程度までが一般的な数値なので、いかに幅広いかがわかる。

多段化と一口に言っても簡単なことではなく、特に今回の横置き用トランスミッションは搭載スペースに限りがある。縦置きであればミッション本体の長さはある程度吸収できるが、横置きとなるとクルマのフロントサイドフレームの左右幅以上になることは有り得ない。そのため、全体が小型コンパクトというのが要求されるわけだ。この点でも9HPの小型軽量はセールスポイントになるわけだ。

ZFの最新鋭技術の説明を開発エンジニアのHeibert Scherer氏から聞いた

9HPではドグクラッチを採用していることに注目したい。ドグクラッチは一般的には変速ショックが大きいため乗用車には向かないとされてきたが、4-5速間と7-8速間に2つのドグクラッチを採用している。変速概念表を見てもらうとドグクラッチはAとFと表示され、4-5速にシフトアップされるとFが抜ける。7-8速にシフトアップするとAも抜けるのが分かる。その動作は10スライドして作動するという。そしてダウンシフトのときは「回転数を見て、ドグクラッチの両側が同じ回転数になった瞬間に繋ぐからショックがない」という開発ドクターのHeibert Scherer氏の説明だった。

センターのスプラインが切ってある部分がドグクラッチ部。左から右に勘合・挿入される
ZF 9HPの4個のギヤセットとドグクラッチ。中央部のギヤが内外2重構造のダブル遊星ギヤ

実際の試乗でも、通常のATとの差は感じられない。変速スピードも早く、どんどんシフトアップする。試乗車はイヴォークの2.0Lターボ。フォードのエコブーストを搭載したモデルでパドルシフトが付いている。9HPは概念図を見てもわかるように5速が1.00で6速から上のギヤはオーバードライブになる。走り出してすぐにポンポンとギヤがアップし、スロットルの開度次第では飛びギヤもするので、反応の鈍さは感じなかった。

滑らかなシフトアップや素早い変速スピードを持ち、従来のATとの差は感じられなかった

試乗コースはドイツのシュバインフルト郊外にあるADAC(日本のJAF的存在)の施設を中心にした一般道路で、100km/h程度までの速度域での試乗だった。そのため小刻みにシフトアップを体験するにはもってこいの環境で、シフトアップの滑らかさ、変速スピードなどを体験し、これまでのATとの違いが分からないほど自然に試乗できたという印象だった。つまりドグクラッチというネガ要素を持ちながら、一切感じさせない滑らかさがあったのだ。

 

ZFジャパン公式サイト

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