リアルタイムの交通情報、高精度地図、ナビゲーション・ソフトなどの世界的な位置情報技術のトップリーダー「トムトム」社は2022年2月に、2021年の世界58カ国・404都市における交通状況の調査結果をまとめた「トムトム・トラフィック・インデックス」2021年版を発表した。
グローバル規模での調査の公開は今回で11回目となるが、調査結果では例外的なデータを記録した2020年版と同様に、世界各地で新型コロナウイルスによる影響を強く受けている様子が見受けられる。
2021年は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大前の2019年のデータと比較すると、世界全体で渋滞レベルが10%減少しており、特にピーク時には19%減少するなど、前年調査に引き続き低下傾向にある。
今回の調査対象となる404都市のうち70%にあたる283都市で渋滞レベルが低下しているのだ。また、多くの都市において、国や地方自治体による移動制限など通常とは異なる規制による交通量の低下から、制限解除後の急激な増加まで、年間を通じて交通量の極端な変動が見られるのも特長だ。
2021年に最も渋滞レベルが高かった都市は、渋滞レベル62%を記録したトルコ・イスタンブールであった。渋滞レベル62%とはドライバーが交通渋滞に巻き込まれ、平均62%余分に運転時間を要したことを意味している。また、2019年に渋滞レベル71%でランキング上位に入っていたインド・ベンガルールとフィリピン・マニラは、それぞれ10位と18位と渋滞レベルが低下している。
日本国内の都市ごとの平均では、最も渋滞レベルが高かったのは東京(43%・世界17位)、次いで大阪(36%・世界34位)、名古屋(34%・世界49位)、札幌(30%・世界81位)、神戸(29%・世界94位)であった。
いずれの都市においても、その増減幅は前年比、2019年比ともに1ポイント〜3ポイントとなっている。また、一年を通じて日本で最も渋滞が激しかったのは、3月3日水曜日の札幌で、渋滞レベル76%を記録した。
都市ごとにみると、東京で最も渋滞レベルが高かったのは、新型コロナウイルスの新規感染者数が減少傾向にあり、緊急事態宣言が解除されて初めての金曜日であった3月26日だった(67%)。大阪では、飲食店の営業時間の時短要請が解除された後の10月25日月曜日に最も高い渋滞レベルを記録し(55%)、神戸でも同日に県内最高レベルに達している(49%)。
世界レベルで交通状況が変化
2021年は、世界的なレベルで人々の働き方の変化が明確になった年といえる。世界中の多くの企業で在宅勤務が一般的な勤務形態となり、対面での会議に代わってTV会議が普及し、柔軟な勤務時間になったことによって、多くの通勤者が朝夕のラッシュアワー以外の時間帯に運転するようになっているのだ。その結果、世界の約40%の都市で通勤ラッシュの時間帯が従来の時間帯から変化している。
また多くの都市で自転車専用道路が整備され、電動スクーターや自転車の利用が増加している。このようなマイクロモビリティは都市部での移動に役立つが、交通問題の多くは都市間移動に起因している。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、多くの人が公共交通機関の利用を控え、社会的距離を保つためにより安全な方法として自家用車を利用するようになっていることも顕著だ。自家用車の利用が増えたことで、各都市で移動制限などの規制が解除されるたびに、交通渋滞が急増し、感染拡大前のレベルに達したり、あるいはそれを超えるときもあった。
トムトムのトラフィックインフォメーション部門のラルフピーター・シェイファー副社長は、「アメリカやイギリスなど一部の国の都市では、ピーク時の交通量が減少し、日中を通して交通量が分散する傾向がみられました。これは、eコマースのさらなる普及およびそれによる物流の変化が関係しているといえます。新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の消費行動の変化を加速させました。ラストワンマイルでは、eコマースの即時配送や返品オプションなどのカスタマーニーズの高まりによって、大きな変革期を迎えています」と語っている。
渋滞を改善するには
交通インフラの整備や道路の新設などによる交通容量の拡大は、世界中で増え続けるクルマに一時的に対処することができるが、交通渋滞の恒久対策にはなりえない。
交通情報をドライバーと交通当局の双方がより容易に利用できるようにすることで、渋滞のボトルネックをリアルタイムで特定し、渋滞をより確実に管理することができるようになることはいうまでもない。
トムトムのナビゲーション・ソフトウェアは、前方の交通状況を把握し、より高度なルート計算と正確な到着予定時刻(ETA)を提供することで、ドライバー、物流業者、配車サービスやフードデリバリーなどのオンデマンドサービスの走行時間と燃料の削減を可能にする。
また行動や交通パターンを変えることで、交通状況に大きな変化をもたらすことができると考えられる。渋滞は、交通量がある一定の閾値を超えると、急激に増加する非線形の現象で、個々のドライバーがラッシュアワーのピークにクルマの運転を控えることは、このコロナ禍で証明されたように、渋滞緩和に大きく貢献する。
トムトム アジア太平洋地域オートモーティブセールスの山田茂晴副社長兼日本代表は、「トムトムは、交通管理の改善と最適化によって、交通の流れを最大10%改善できると考えています。しかし、根本的な改善には、自動車の利用から他の交通手段への転換を図る、いわゆるモーダルスプリットを実行する必要があります。自転車、公共交通機関、その他の交通手段が、より大きな割合を占めるようにしなければならないのです。このようなアプローチは、多額の投資と大々的な政治的な決断を必要とする課題であり、実現に時間を要するものです」と語っている。