住友ゴムと日本電気株式会社(NEC)は、2025年7月に発表した戦略的パートナーシップ締結で掲げた「世界で競争力のある研究開発基盤の構築」に向けて活動を加速し、成果を獲得していることを発表した。

具体的には、2030年までに変革すべき注力テーマを定め、NECが持つAIをはじめとした先端技術や研究者の高度な技術知見、そして住友ゴムの研究開発力を組み合わせることで、世界的に競争力のある研究開発基盤の構築とビジネスの早期実現を目指している。
また注力テーマのうち、疑似量子アニーリング技術を活用したタイヤ材料の配合予測と、AIエージェント、材料探索ソリューションを活用した新材料の探索において先行実証を行ない、有効な成果を得ているという。
製造業ではグローバル競争が激化しており、持続的な競争優位性を確立するためには、研究開発活動の高度化・迅速化がますます重要となっている。住友ゴムとNECは、2022年からタイヤ開発を高度化させるタイヤ開発AIプラットフォームの構築を進め、匠(熟練設計者)のノウハウをAI化し技能伝承と技術開発体制を強化するなど、従来から共創活動に取り組んできている。
今回の戦略的パートナーシップはこれまでの共創活動をさらに発展させ、住友ゴムの研究者や技術者の暗黙知を取り入れた先進的AIエージェントを開発し、長期経営戦略の実現に向け、研究開発基盤の高度化を推進していくことになる。
今回新たに、研究開発基盤の高度化に向けた先行的な取り組みとして、タイヤ材料分野に関する2つの実証を実施した。その結果、タイヤ材料分野へのAI活用が開発プロセスの高度化・効率化を加速する可能性が確認されたという。
【疑似量子アニーリング技術を用いたタイヤ材料の配合予測】
高度な性能が求められるプレミアムタイヤ用ゴム配合の開発には、多種多様な素材の配合比率を最適化することが不可欠だ。実証ではまず、住友ゴムの持つ過去の実験データから、素材の種類と配合量が材料特性に与える傾向を分析・抽出した。
次に、抽出した傾向をもとに、膨大かつ複雑な組み合わせの中から高速に最適解を導くことが可能なNECの疑似量子アニーリング技術を活用して、目標とする特性を満たす素材の種類と配合候補を網羅的に探索した。
その結果、住友ゴムが過去に開発したプレミアムタイヤ用ゴム配合と、この探索で予測した複数の配合案の特性を比較したところ、目標とする特性項目の90%以上を満たすゴム配合案を導出できることを確認したという。また、非熟練者が同等の配合案を導出する際に要する時間と比較して、約95%短縮できることを確認した。
この技術を活用することで、通常タイヤからプレミアムタイヤまで、すべてのカテゴリーのタイヤ用ゴムの配合開発を、熟練度に関わらず効率化できることが期待される。

【AIエージェントと材料探索ソリューションを用いた新材料の探索】
先進的な新材料の探索には、複数分野にまたがる膨大な文献の調査が求められるが、異なる分野から有益な材料やその組み合わせを発見することは非常に困難である。今回の実証では、高度な性能が求められるプレミアムタイヤの新たな材料探索を目的に、AIに関する知見が豊富なNECの研究者が住友ゴムの材料開発者と共創し、材料探索における思考プロセスや暗黙知を抽出して、それらを学習させたAIエージェントを構築した。そして、このAIエージェントが、生成AIとグラフベースAIを組み合わせた材料探索ソリューションを活用し、材料候補の絞り込みを行なった。
具体的には、従来の知見だけでは開発が困難な、「水に触れるとタイヤ表面のゴムが軟らかくなるプレミアムタイヤのゴム材料」をモデルとして検証を行なった。実証の結果、AIエージェントが様々な言語の公開文献から材料開発の知見を集約・解析するとともに、関連情報などの深い情報も自律的に収集し、候補材料の探索範囲を拡大している。
また、重要要件の未反映や探索範囲の限定により手戻りが発生していた人手での作業に対し、探索にかかる期間を60~70%削減ができている。これにより、精度と網羅性を向上させ、従来の手法では発見が困難だった新しい材料候補を効率的に見出せることを確認している。

両社は戦略的パートナーシップに基づき、2件の先行実証や他の技術も含めて活動を発展させていく。2030年までにAIで高度化された研究開発スタイルを構築するとともに、社会課題の解決につながる新たな事業やイノベーション創出も目指している。













