2015年10月29日、住友ゴムは2011年に完成させている材料開発技術「4D NANO DESIGN(ナノ・デザイン)」をさらに研究・進化させ、大型放射光施設「SPring-8」、大強度陽子加速器施設「J-PARC」、スーパーコンピューター「京」を連携して活用することで、ゴムを分子レベルで忠実に再現するシミュレーション解析が可能になったと発表した。
タイヤの相反性能である低燃費性能、グリップ性能、耐摩耗性能の大幅な向上が可能となる「ADVANCED 4D NANO DESIGN(アドバンスド 4D ナノ・デザイン)」を完成させたことを発表し、この新技術を採用したコンセプトタイヤ「耐摩耗マックストレッドゴム搭載タイヤ」を東京モーターショーに参考出品している。
住友ゴムは2011年にゴム材料の構造や性質を予測し、自在にコントロールすることで高性能タイヤに求められる材料を科学的、合理的にナノレベルで高精度に設計することができる新材料開発技術「4D NANO DESIGN」を完成させている。その技術を用い、ラベリング制度で最高グレード「AAA-a」を獲得した低燃費タイヤ「エナセーブ NEXT(ネクスト)」や、氷上ブレーキ性能を11%向上させ、ライフ性能を1.5倍に高めたスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX(ウインターマックス)」などを開発、発売している。
しかしタイヤに求められる性能がますます高くなり、さらなるテクノロジーの進化が求められていた。
今回開発されたテクノロジーは、大型放射光施設「SPring-8」でゴムの構造解析を行ない、世界最高クラスの中性子・素粒子の実験ができる大強度陽子加速器施設「J-PARC」で運動解析を行なうことで、ゴムの内部構造と分子の運動を鮮明に観察することが可能となり、これまで不可能だったシリカ界面ポリマーの構造や運動、硫黄架橋の不均一性、硫黄架橋の長さ分布、シリカネットワークの運動などを捉えることに成功。
さらに、スーパーコンピューター「京」によって、広い領域を分子レベルでシミュレーションすることにより、ゴム内部のストレスや発熱が発生している箇所を同時に特定することが可能になった。
つまり今回完成した「ADVANCED 4D NANO DESIGN」は、低燃費性能、グリップ性能、耐摩耗性能という、相反性能であるタイヤの三大性能を高い次元で両立するために、ナノからミクロンレベルまで、ゴムの内部構造を連続的に、鮮明に解析し、シミュレーションすることができるようになったというわけだ。
このシミュレーションで原子、分子の動きを詳細に解析した結果、ゴム内部のストレスや発熱を発生させている原因が、シリカネットワーク運動、架橋構造、シリカ界面ポリマー運動と密接に関係していることが分かったという。このストレスを発生させる原因を低減することで、相反性能であるタイヤの三大性能を向上させることを可能とする技術を「ストレスコントロールテクノロジー」と名付けている。
「ストレスコントロールテクノロジー」を適用し、耐摩耗性能に着目して観察した結果、従来のゴムではゴムが変形する際に、局部的ストレスが掛かるとゴム分子に隙間ができ、摩耗の原因となる「ボイド」と呼ばれる空隙(くうげき)が発生する。これに対して、ストレスコントロールテクノロジーを適用したゴムはボイドの発生原因となるストレスを高次元にコントロールすることで、発生を抑制し、同時に発熱もコントロールすることが可能になっている。
これにより、低燃費性能、グリップ性能を維持しながら、耐摩耗性能を飛躍的に向上させるゴムの開発に成功。この成果を採用したコンセプトタイヤが「耐摩耗マックストレッドゴム搭載タイヤ」だ。このコンセプトタイヤのトレッドゴムは、低燃費性能とウエットグリップ性能を維持しながら、耐摩耗性能をなんと200%向上させることに成功している。