近年の環境技術は目覚ましいものがあり、新型車が発売されるたびに、燃費はどんどん良くなっていて、次々と新しい技術も投入されている。世界的な自動車部品サプライヤーのコンチネンタル オートモーティブでも自動車メーカー、ユーザーからのニーズはCO2や排出ガスのクリーン化が求められ、特にコストを抑えたものが要求されているという。
こうした中で、自動車メーカーへの技術提案としてコンチネンタルではガソリン技術、ディーゼル技術、PHEV、CNG、そして合成燃料といったクルマの技術開発を進めている。今回レポートする技術は、コンチネンタルとシェフラーの共同開発で、ガソリンテクノロジーカーという位置づけの技術だ。日本では48Vのマイルドハイブリッドといったほうが分かりやすいかもしれない。
これらの技術開発の背景には、欧州の排出ガス基準であるユーロ5やユーロ6に定められたCO2排出目標値をクリアする必要がある。われわれの立場に置き換えるとCO2の削減イコール省燃費と考えていい。そして2020年目標値として欧州では95g/㎞以下、日本では105g/㎞以下、アメリカ125g/km以下、中国117g/㎞以下としており、非常に厳しい数値になるのだ。これらの排出量を燃費に換算するとCO2排出95g/km以下は24.3km/L以上となる。1車種の燃費ではなく、メーカーが新車販売した全車両の平均燃費がこの数値以上でないと、ノーを突き付けられるわけだ。
余談だが欧州の燃費測定方式NEDCの測定方法も「2017年にはWLTP(Worldwide harmonized Light-duty Test Procedure:乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法)、RDE(Real Driving Emissions:公道実走行の準拠燃費・排ガス計測)が始まるのではないか?」と噂されており、ますます厳しい状況になることが予想されている。
どういうことかと言うと、エンジン負荷がWLTPでは最高速に近いエリアでの排ガス、RDEではさらに高速域まで負荷を考えていかなければならない規制になるわけで、現在の測定方法ではクリアできても、これらの測定方法になるとクリアできない状況になるのだ。自動車メーカーとしてはこれらの新しい測定モードでも基準値をクリアしなければならず、できない場合はペナルティもあるし、販売もできないことになってしまうわけだ。
排ガス規制とはNOx、HC、PM、PN、NO2などを引き下げる要求であり、各国の当局としては完全なZEROエミッションのクルマしか立ち入れないエリアの設置、拡大も検討しているのが実情。パリ市内はこの条件を満たさないと走れない、という噂もされているほどでメーカーにとって急務となっているわけだ。
◆48Vシステムでユーロ5をユーロ6適応に
さて、話を戻すと、コンチネンタル独自の市場予測では、今回レポートする48Vのジェネレーター/モーターを使ったマイルドハイブリッド・システム搭載車が2020年には全世界の保有台数が1億台となり、そのうち4%に搭載されると予測している。つまり400万台だ。2025年にはさらに加速し11%という予測を立てている。ただし2015年9月に発覚したフォルクスワーゲンのディーゼル不正問題、デフィートデバイスの事件が起こる前の予測であり、現在では、電動化ニーズはもう少し早く高まりがあると予測している。
本題の48Vのガソリンテクノロジー車はフォード・フォーカスに搭載する3気筒1.0Lガソリンターボ車(エコブースト)をベースに開発されたもので、ユーロ5適応モデルで、出力92kW、NEDCのCO2排出ガス114g/kmをクリアしている。そのクルマに新技術、新システムを投入し、出力を変えずにユーロ6対応のCO2排出量を95g/㎞にまで削減した試作モデルとなっている。
この試作車はコンチネンタルとシェフラーの2社共同開発で、両社が持つ部品を組み合わせて達成している。中心となるオルタネーターはコンチネンタルの48V仕様の駆動アシストできるジェネレーター/モーターへ交換。ベルト駆動タイプで直接クランクシャフトを回すタイプだ。
そして48V化に伴い、インバーター内蔵、DC-DCコンバーター、48Vリチウムバッテリーなどを搭載する。また、燃料噴射用のインジェクターも純正品からコンチネンタル製のものに交換。燃料マネージメントのECUも交換している。
一方シェフラー側の得意分野からは、当然デュアルマス・フライホイールが採用されているほか、サーモスタットの変わりに、サーマルマネージメントモジュールを採用し、冷却水の分配を運転状況に応じてコントロールする。他にクラッチバイワイヤー技術も搭載している。後ほどレポートするが、MT仕様のモデルがクラッチを切らずともエンストしないマニュアル車となっている。他にもデカップリングテンショナーで補器ベルトの張力変化を最適化するなどの部品、技術が投入されている。
ジェネレーター兼モーターの出力はおよそ15kW程度のパワーで、担うものとしてエンジン再始動、走行中のトルクアシスト、そして減速エネルギー回生の役目を持つ。一方で回生したエネルギーを48Vリチウムバッテリーに溜め、その電力を12Vの電動パーツへの供給も可能となり、その結果、先ほどの燃費改善へつなげている。このシステムはフルハイブリッドに対し1/3、1/4のコストで達成可能としているのが優位点だ。
このシステムのポジションとしては一般的な普通のクルマ、つまり12Vでエンジン以外駆動力を持たないものと、フルハイブリッドとの中間に位置するもので、コストが少なく、目標を達成できるシステムとしてアピールしているのだ。
達成された結果の分析として、48Vのモーターによるマイルドハイブリッドとした効果、CO2の削減効果として7.0%の削減。さらにモーターがアシストするためにエンジン負荷が減り、結果エンジンの回転数を下げることができたので燃費改善となり、この部分で4.5%削減する。他にEGRで-0.5%、電気加熱式キャタライザーで-1.5%、サーマルマネージメントで-1.0%、そしてシナジー効果として、どこの分野と分類しきれないものが-2.5%あり、トータル-17.0%という数値を達成する。
◆インプレッション
ここまで説明してきた技術、部品を搭載したクルマがコンチネンタルとシェフラーのカラーに塗り分けられたフォード・フォーカスで、プレゼン会場裏の敷地内でのチョイ乗り試乗だった。まず、チェック項目としてはエンジンの再始動で48Vは十分か?クラッチバイワイヤーによるコースティング機能、エネルギー回生、そしてモーターによるトルクアシストなどを体感する。
敷地内の広さからせいぜい40km/h程度でのチェックになるが、エンジンの再始動に関しては減速しているとき、あるいは20km/h付近でのエンジン停止などの状況からの再始動という状況がある。それは、フルハイブリッドと比較すると、始動したことが分かる程度のショック、振動があった。また、セルモーターを使うタイプのアイドリングストップ機能のクルマと比較すれば、じつに滑らかに静かに再始動するという印象で、まさに、中間のポジションに位置していることがわかる。
エネルギー回生はもちろん体感としてはわからず、テスト車に搭載した計器によって確認した。コースティングはある一定の車速のとき、アクセルをオフにするとエンジンが停止し、クラッチが切り離され惰性で走行することを体験。そして転がり抵抗や空気抵抗で次第に車速が落ちるので、アクセルを軽く踏むと先ほどの再始動のフィーリングを得ながら再加速を始める。というチェックができた。
クラッチバイワイヤーのもうひとつのユニークなポイントは、完全に停車したときにクラッチを切らずともエンストしないことだ。電気信号によって切り離されたクラッチは、踏力を使わずクラッチが切り離される。そしてアクセルを踏めば、ゆっくりと動きだす。もともとその部分を狙ったものではないが、2ペダルと同様に扱えるのはメリットだ。
モーターによるトルクアシストでは、15kWの出力はアシストとしてはほとんど感じない。ターボのように・・・とは感じない部類のアシストだ。もちろん、出力の大きいものにすれば可能だが、狙いはエミッション低減である。
◆48V作戦は
ここで、もうひとつ、本題とは離れてしまうが、混同しやすい技術について触れておこう。先のコースティングとセーリングの違いだ。コースティング機能は、一定走行時にアクセルオフしたとき、クラッチは切り離されエンジンブレーキは効かない。エンジンは停止し惰性で走行するものだ。ブレーキやアクセルを踏むとエンジンが起動してクラッチミートされる。今回の試乗車がこの機能を搭載している。
もうひとつのセーリング機能はトルクアシストのある状況を言う。アクセルをオフしたときクラッチはつないだまま、エンジンを止める。機械的な抵抗、転がり抵抗、空気抵抗で車速が落ちるが、それを防ぐためにモータートルクで抵抗による減速分をカバーして走るものをセーリングと言っている。
いずれもエンジン停止という特徴があり、惰性走行かトルクアシスト走行かの違いによりネーミングを使い分けているわけだ。そしてじつはここにエミッション問題で大きなヒントとなる行為として「エンジン停止」というキーがある。
エンジンが停止していれば排出ガスはゼロだ。エンジンの止まっている時間が長ければ長いほど目標値をクリアしやすいということになる。そこでコンチネンタルではWLTP方式なることを見越し、WLTP方式で規制値をクリアするには全体の50%くらいはエンジンが停止しなければクリアできないだろうと予測する。
また、エネルギー回生したエネルギーは何に使うか?ということも含めコンチネンタルからの提案として、EHC(電気加熱式触媒)を挙げている。燃費をよくする、CO2を減らすのに最も有効なのは、エンジン停止だというのだ。
エンジンを止める時間が長いと触媒が冷える。そうすると排ガス装置がうまく稼働せず数値が悪くなる。そこでエネルギー回生と48Vの新しい電源を手に入れているので、その電源を利用し、電気加熱した触媒を提案しているという作戦だ。
◆次なる48Vの行き先
そうしたWLTPの流れを踏まえると、今回の48Vモーターアシスト方式は次のステップへと進化していくことを想定している。この48Vモーターの設置場所を「P」で示すのが欧州では一般的で、今回のシステムはP0(ピーゼロ)というポジションだ。ベルトを直接モーターとエンジンクランクに掛けているタイプだ。またP2というポジションになるとクラッチとエンジンの間にモーターを設置するもので、国産のフルハイブリッドではすでに実用化しているものがあり、すぐにも実現する技術だ。
さらにベルトレスとなったガソリンエンジンと48Vモーターはフレキシビリティを増し、EVターボなどパワーに利用する方法や、e-parking、 e-Creepingなどの駆動としての利用方法もある。こうして48Vモーターの置く位置はP0からP4まですでに想定され、WLTPへの対策としてコンチネンタル/シェフラーは提案、開発を完了し、2016年には量産Cセグメント車に搭載し始めることをアピールしている。