【WEC2014】 ル・マン24時間 史上有数の激闘サバイバルレース

24h Le Mans 2014
激闘の末のゴール。アウディ2台の直後にポルシェ14号車。しかしポルシェ14号車は完走扱いとはならず

2014年6月13日~15日、世界耐久選手権(WEC)シリーズ第3戦となる伝統のル・マン24時間レースは、トヨタ、アウディ、ポルシェという3メーカーのハイブリッドシステムを搭載したワークスマシンが激突した歴史的な戦いとなった。

2014年のWECは、第1戦第2戦の6時間レースではトヨタTS040ハイブリッドが連覇し、トヨタ優位を感じさせた。しかし、3メーカーともに第3戦のル・マン24時間レースが天王山と位置付け、準備を整えていた。

◆各ハイブリッドマシンと燃費規制

トヨタTS040ハイブリッドは、前後アクスルにモーターを配置し減速回生と駆動を行なうシステムと自然吸気V8型エンジンを採用し、システム最高出力1000psというパワーと高い信頼性を武器に、開幕から速さを見せつけている。

ル・マン24時間 2014 アウディ#2
序盤に襲った降雨の中を走るアウディ2号車。ミシュランの溝なしレインタイヤが使用された

2014年仕様のアウディR18 e-tronクワトロは、前輪に2モーター式減速回生+駆動システム、エンジンは4.0L・V6型 TDIエンジンにターボ・ジェネレーター、つまり排気熱エネルギー回生システムを搭載している。しかし、この軽油を使用するマシンが許される消費エネルギーは1周あたり138.7メガジュールとされ、トヨタやポルシェのガソリン車より1.5km/Lも燃費が上回る必要がある。

ル・マン24時間 2014 アウディ#1
ユーノディエールを疾走するアウディ1号車
ル・マン24時間 2014 アウディ ロングテール
ル・マン使用のロングテールを採用したアウディ
ル・マン24時間レース 2014 アウディ#2
深夜のコースを、レーザースポットライトを輝かせるアウディ2号車

しかもディーゼル車の燃料タンク容量はガソリン車より11L容量が少なくされているため、もはやディーゼルターボによる燃費上のメリットはまったくないため、アウディはより大きなエネルギー回生と、エンジン本体の燃費向上を極限まで追求する必要がある。そのアウディは万全を期して3カー体制でル・マンに臨んでいる。

ル・マン24時間レース 2014 アウディ ピット作業
ピットインでの迅速な作業もレースの最終局面で効く
ル・マン24時間レース 2014  アウディ2号車 ローレル
レース終了後のアウディ2号車

ポルシェ919ハイブリッドは、トヨタと同じハイブリッドクラスとし、前輪の減速回生+駆動、エンジンは2.0LのガソリンV4型ターボエンジンとし、そのターボのウエストゲートバルブの代わりに排気ガスエネルギー回生システムを装備し、加速時にもエネルギー回生ができるシステムとしている。結果的には、ポルシェのハイブリッドシステムは燃費が最も有利と見られた。

なお規則による燃費制限は、トヨタ、ポルシェは1周あたり4.5L以下、アウディは3.93L以下であることが求められている。いずれにしても以前の規則より燃費は25%以上改善する必要があり、2014年のル・マン24時間レースは2セットのハイブリッドシステムを搭載した究極の燃費レースということができた。

ル・マン24時間レース 2014  トヨタ 8号車
序盤に大破したが、じりじり追い上げ3位入賞のトヨタ8号車
ル・マン24時間レース 2014 トヨタ 7号車
明け方までトップを独走したトヨタ7号車

公式予選では、トヨタが終始優勢だったが他チームとの差はわずかで、きわどい戦いとなった。しかし結果的には、トヨタ7号車の中嶋一貴選手が3分21秒789のベストタイムを叩き出し、日本人として初のポールポジションタイムを記録した。タイム的にはトヨタとポルシェが拮抗し、アウディはトヨタより2秒以上の差が付けられた。だが、それもアウディにとっては想定内で、アウディは決勝レースに賭け、そのためにピット作業、修理作業のスピードアップなどの準備を万端に整えてきていた。

じつはアウディ1号車は練習走行で2700km/の高速のままガードレールに激突し、マシンは瞬時に残骸状態になってしまったが、チームは1番でスペアのモノコックを使用し、新たな1号車を造り上げていた。ドライバーのロイック・デュバルは軽症で、ワンピース・カーボンモノコックの強靭さを改めて実証した。ただ、ドクターストップのためデュバル選手は欠場することになり補欠登録のマルク・ジェネ選手がステアリングを握ることになった。

ル・マン24時間レース 2014  公式予選結果
公式予選結果

◆決勝レース展開

6月14日、午後3時に決勝レースの火蓋が切られた。レース序盤はトヨタ7号車がレースをリードし、アウディ2号車、3号車が追う展開となる。しかし、1時間半を過ぎた時点で、コースには雨が降り始めた。ここで早くもドラマが・・・

トヨタ8号車がミュルサンヌのストレートでコントロールを失い、コースアウトしフロントを大破した。さらにこれを避けようとしたフェラーリがスピンしてアウディ3号車に接触し、アウディはガードレールに激突して後部を大破し、そのままリタイヤとなった。

アウディの中で最も好調だった3号車を喪失。トヨタ8号車はかろうじてピットに帰り、大修理をして20分以上をロスした。ポルシェ14号は、はやくもトランスミッションのトラブルが発生し、ピットで大修理をし、大きく遅れる。この結果、トヨタは7号車がトップを守り、アウディ2台、ポルシェ1台が追走するという展開がしばらく続いた。

ル・マン24時間レース 2014  ポルシェ20号車
レース後半にトップに立ち、一時は優勝を予感させたポルシェ20号車だが、最後に夢は破れた

午前5時、レースのスタートから14時間を経過した時点でトヨタ7号車はアルナージュ・カーブで突然ストップした。ハイブリッドシステムが突然シャットダウンしたのだ。システムの再起動を試みるも、メイン電源が切断され、始動する事はできずリタイア。自信を持ってル・マンに臨んだトヨタの優勝の野望はこの時点でほぼ潰えてしまったのだ。

この結果、アウディ2号車とポルシェ20号車のトップ争いとなり、アウディ2号車がターボトラブルによる交換の間にポルシェ20号車がトップに。それをアウディの2号車、1号車がが追走する展開になった。しかし、ゴールまで後2時間半という時点で、ポルシェ20号車にエンジントラブルが生じ、モーター走行でピットに帰還したもののそのままリタイアとなった。

ル・マン24時間レース 2014  ポルシェ#20
終盤までトップを守ったポルシェ20号車
ル・マン24時間レース 2014 ポルシェ リタイヤ
最後の最後で力尽きたポルシェ20号車
ル・マン24時間レース 2014  トップポジション変遷
レース中のトップポジションの変遷

トップを狙ったアウディ1号車もターボとインジェクターを交換した。この結果、アウディ2号車がトップ、アウディ1号車が2番手となりレース終了30分前には2台は接近し、ゴールのための準備を終えた。大修理をしたトヨタ8号車はポルシェの脱落により3番手に浮上してきた。午後3時、アウディの1-2、トヨタ8号車が3位でゴールを迎え、最終ラップでコースに戻ったポルシェ14号車はアウディの2台に続いてゴールラインを横切ったが、これは完走扱いとはならなかった。

ル・マン24時間レース 2014  表彰台
アウディが1-2位で、ドイツ国歌が流れる。3位には序盤に大破したトヨタ8号車がが食い込んだ

アウディ社の首脳部が見守る中、アウディは通算13回目の勝利を手にした。アウディモータースポーツ代表の、ウルフガング・ウルリッヒ博士は「ル・マンならではのレースでした。数多くのアクシデントがあり、トップ争いをしていたマシンでさえ必ず何かの課題を抱えながら走行をしていました。そのような中で優勝できたのは、すばらしいペースで走行できたマシンの耐久性、ノーミスで走り続けたドライバーの技量、そしてあらゆるでき事に迅速かつ的確に対応したチームの存在があったからです。今回、ポルシェとトヨタという非常に強力なライバルを迎え、予想通り厳しい展開となりました。しかし私は、困難な状況が続いている中、我々はもっとも燃費の良いマシンなので、勝利は必ず我々のものになる、と信じ続けていました。そして、その願い通りに優勝できたことを誇りに思っています」と語っている。

◆もうひとつの日本メーカー 日産

一方、日産の話題の実験的ハイブリッドレースカー「ZEOD-RC」は、予選中に電池に蓄えられた電力のみで、ミュルサンヌのストレートで300km/hを達成した。

ZEOD-RCは、バッテリーの電力走行と400psの1.5Lターボエンジン走行を任意に切り替えることができ、レース中はピットイン直前の周回13.6kmは電力のみで走ると公表されているが、スタート後わずか23分でトランスミッションが壊れリタイヤしている。しかし、日産は2015年のル・マンにはトヨタ、アウディ、ポルシェと戦うためにLMP1に復帰すると宣言している。GTR LM NISMOのマシン開発はすでに着手されているはずだ。

ル・マン24時間レース 2014  日産ZEOD-RC
電動走行で300km/hを記録したが、レースはギヤボックス破損であっけなくリタイヤしたZEOD-RC
ル・マン24時間レース 2014 ル・マン24時間レース 2014 
ル・マン24時間レース 2014

■ル・マン24時間レースとボッシュ
アウディR18 etronクワトロの直噴システムやハイブリッドシステム制御、テレメトリーシステム、超軽量なフロント・ツインモーターなどはボッシュ製だ。車両のデータを送信するテレメトリーはピットから最も遠いミュルサンヌコーナーに中継基地を設け、コース全周でのデータ通信可能にしている。

ル・マン24時間レース 2014  ボッシュ システム
WECで多用されるボッシュのレースパーツ
ル・マン24時間レース 2014  ボッシュ レーダー
コルヴェットC7Rに搭載された後方用レーダー

またボッシュはGTEプロクラスに出場したシボレー・コルベットC7Rの衝突防止システムも供給している。これは2013年も装備されていたが、2014年は最新世代の長距離レーダーをリヤに搭載している。

自車の後方250m以内に位置する車両、最大32台の識別とそれらの車両速度を検出し、コックピットのディスプレイに高速で接近する追い越し車両を警告するシステムで、レース中のドライバーの負担を軽減し安全性を高めるシステムである。

ボッシュの発表によれば、ル・マン24時間レースに出場する56台の内の半数以上がボッシュ製品を使用していたという。

ル・マン24時間レース公式サイト
FIA WEC公式サイト
ボッシュ公式サイト

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