日本の軽自動車市場を席巻するのか?中国奇瑞汽車チェリー本格進出 EMTAが誕生

2026年5月27日、神奈川県横浜市に本社を置く新自動車メーカー「EMT」は、日本市場向けの新自動車ブランド「EMTA(エムタ)」を発表した。 2027年に軽自動車規格のEVを第1弾モデルとして投入し、2029年までに4車種のEVをラインアップする計画だ。

発表会に登壇した3首脳

今回の発表で、軽自動車規格に最適化した専用EVプラットフォームをゼロから開発し、先進的なSDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)アーキテクチャを搭載し、無線通信アップデートで継続的に性能を更新していくという、ソフトウェア起点の製品戦略を打ち出している。

2029年までに4車種を投入

新自動車メーカー「EMT」
「EMTA」を展開する株式会社「EMT」は2025年1月30日に設立された新しい企業で、代表取締役CEOには、自動車業界で40年以上のキャリアを持ち「奇瑞汽車(チェリー)」の副総裁でもある何暁慶(He Xiaoqing)氏が就任している。なお、「EMT」はElectric Mobility Technologyの頭文字だ。

経営体制は、CTO(最高技術責任者)に元日産でEV開発を担当した山本浩二氏、CMO(最高マーケティング責任者)に元ステランティス・ジャパンCEOの打越晋氏が就任しており、開発・品質・マーケティングに関しては日本で、先進技術、生産は中国という形態で日本の自動車市場に新規参入する。

「EMT」は、中国の大手自動車メーカー「奇瑞汽車(チェリー)と」、中国で自動車製造を担当する「江蘇悦達汽車集団(yueda group)」、そして中国の大手バッテリーメーカーの「国軒高科(Gotion)」、設備機器製造の「アネスト岩田」、「オートバックスセブン」の5社が出資している。

なお、「奇瑞汽車(チェリー)」は中国の大手自動車メーカーの一つで、最も早くから海外進出を展開し、新興国だけでなく、ヨーロッパ市場でもシェアを急激に拡大しつつある。

また、「国軒高科(Gotion)」はバッテリーメーカーとしては世界8位で、LFP、3元系リチウイオン・バッテリーを生産している。またフォルクスワーゲン・グループとも提携し、フォルクスワーゲン・グループにバッテリーを供給するとともに先進バッテリーの共同開発も行なっている。

販売は、現時点では明らかになっていないが、「オートバックスセブン」や、既存販売会社、新たな販売パートナーも集めることで販売ネットワークを構築し、日本市場で確固たるポジションを獲得する計画だ。

「EMTA」は2027年の軽乗用ワゴンEV投入に向け、設計・構造・性能が保安基準や安全性に適合していることを示す「型式認定」を得る必要はあるが、日本では認定までの準備期間がかかるため、まず先にヨーロッパ基準の型式認証を取得し、そこで得たデータをベースに日本での型式認証を取得する方針としている。

第1弾モデルはワゴンタイプの軽EV

新ブランド「EMTA」のブランド・コンセプト
ブランド名「EMTA」は「Easy, Made To All」を語源とし、ブランドプロミスとして「Daily Magic」を掲げる。その意味は、日本市場での独特な環境、狭い道路でのすれ違い、駐車のしづらさ、子どもの送迎、雨天・長時間運転時の不安といった、日常的な運転シーンを克服することを意味している。

技術を前面に押し出すのではなく、生活者の日常動線に寄り添う体験設計を目指すという方向性は、新興EVブランドの中では独自性のあるポジショニングと言える。

商品戦略上もっとも注目すべきは、第1弾モデルを日本の大市場である軽自動車規格のEVにしたことだ。軽自動車を日常生活に最も深く根ざした移動体験と位置づけた上で、軽EVを皮切りに2029年までに複数セグメントへ展開し、合計4車種体制を目指すとしている。

日本独自の軽自動車規格に新規参入する海外発の新興資本のブランドとしてはBYDに続く挑戦的な選択であるが、圧倒的な静粛性、本格的なソフトウエア・ディファインド・ビークル、そしてV2H/V2L機能などを実現し、日本の軽自動車市場でポジションを固めることを目指している。

技術プラットフォーム
「EMTA」はEVとして、4つのコア技術を開発して搭載する計画だ。

Magic SDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)
技術の中核プラットフォームとして位置づけられ、フルスタックOTA(無線アップデート)により納車後もユーザー体験、操作方法、走行性能、航続距離までを継続的に更新可能とする。スマートフォンのように購入後も進化し続けるクルマを目指すというコンセプトは、最新のEVコンセプトならではの優位点である。

Magic Sync(スマートフォン連携)
スマートフォンを携帯して車両に近づくだけで解錠・起動し、シート位置、ミラー、ステアリング角度、エアコン温度、画面設定、走行モードなどを乗員ごとのプロファイルへ自動切替する人車同期技術を採用する。スマートキー+デジタルキー連携によるパーソナライゼーション機能は近年の中国系EVで標準化が進んでいる領域であり、EMTAもこの潮流を採用する。

Magic EV(軽EV専用プラットフォーム)
今回の発表で技術的に最も核心となるのがこのEVプラットフォームだ。軽自動車規格の寸法制約の中で居住性と衝突安全性能を両立させるため、新規開発した専用プラットフォームだ。

既存の奇瑞汽車のEVプラットフォーム

複数ユニット一体型の最新eアクスルを採用し、床下に大容量バッテリーを配置するレイアウトにより、静粛性と加速性能、日常域に十分な航続距離・急速充電性能を確保するとしている。

また、V2H(自宅給電)およびV2L(100V外部給電)を標準搭載し、災害時の非常用電源としての活用を想定している。スマートフォン操作によるプレ空調(車内温度の事前調整)や、駐車中のエアコン運転にも対応しており、軽EVオーナーの日常的な使用シーンを意識した機能をフル装備する。

なお、バッテリー容量、出力、WLTCモードの航続距離、急速充電の速度など具体的な数値スペックは今後発表されるとしている。

Magic Drive(E2E半自動運転)
エンドツーエンド(E2E)方式のレベル2+の半自動運転支援システムの搭載を計画している。つまりAIベースのE2Eによる知覚・判断・制御の一体的な学習アプローチにより、ドライバーは交通監視義務はあるが高速道路でも市街地でもハンドル手放し、ペダル操作なしの先進運転支援が可能となる。また、完全自動パーキングも装備されている。

ちなみにこのE2E半自動運転は、日本では2027年に国交省に認可が予定されている。これが軽EVで実現することになれば日本製の軽自動車を圧倒する極めて大きなインパクトとなるだろう。

Magic Spot(販売戦略)
製品単体の販売に留まらず、購入前後の顧客接点を含めた体験設計も行なわれ、Magic Spotは、拠点販売店舗だけではなく、商業施設内の小型拠点、生活導線上の体験型スペース、移動型の出張店舗など、複数チャネルを組み合わせる方針を示している。つまり、既成概念である販売ディーラーだけでなく、商業施設内での車両展示、販売など、中国市場では一般化しており、こうしたコンセプトも導入されることになる。

Magic Connect(One ID構想)を掲げ、店舗、アプリ、コールセンター、サービス拠点をまたいで顧客情報とコミュニケーション履歴を統合管理する仕組みで、対応拠点や担当者が変わっても一貫したカスタマーサポートを提供することを狙っている。

日本において、新たなEVブランドとなる「EMTA」は、商品企画、型式認証、販売は日本がメインとなるが、先進技術の投入や生産は中国で行なわれる2極体制の自動車ブランドになる。グルーバルに展開している「奇瑞汽車(チェリー)」にとっての本格的な日本進出を意味しており、日本市場に対する影響力は極めて大きいと考えるべきだろう。

EMT 公式サイト

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