トヨタGAZOOレーシングは2024年1月12日、東京オートサロン2024でより高出力化した「GRヤリス」(プロトタイプ)を世界公開した。このモデルは少量生産モデルであるが発売は春頃が予定されている。
GRヤリスは、モータースポーツを起点としたコンセプトに従い、より高性能化を実現したスーパースポーツモデルだ。
2020年9月の発売開始以降も、TGRヤリスを用いて様々なモータースポーツへの参戦を継続しており、レースやラリー参戦を通してトラブルシューティングを実施し、そうした経験ををもとにしてGRヤリスの高性能化を図っている。
また、このモデルでは従来の6速MTに加え、新開発の8速AT「GR-DAT」を新開発しラインアップに加えている。
「GR-DAT」は、これまでにスーパー耐久シリーズ、全日本ラリーに出場しながら熟成を行ない、さらにフィンランドにあるGAZOOレーシング・ワールド・ラリーチームのドライバーがフィンランドの様々な路面の道路を走り込むなどして開発。
「GR-DAT」は構造的には通常の横置きトルコン式8速ATであるが、AT制御ソフトウエアをスポーツ走行用に最適チューニングしている。従来は減速Gや速度などの車両挙動を感知し変速させていたのに対し、ブレーキの踏み込み方、抜き方、アクセル操作まで細かく感知し、車両挙動の変化が起こる前に変速が必要な場面を先読みすることで、ドライバーの意思を汲み取るギヤシフトを実現。プロドライバーによるシフト操作と同じようなギヤ選択を可能にしている。
AT内部の変速用クラッチを高速で作動させるため、専用に高耐熱摩擦材を採用し、AT制御ソフトウエアの改良により、世界トップレベルの変速スピードを実現している。
6MTから8ATへ多段化した上で、クロスレシオ化することによりパワーバンドを活かした走りを実現。また、RZ“High performance”グレードにはアクセル操作による駆動力コントロール性能向上のため前後のデフにトルセンLSDを設定している。
1.6Lの3気筒エンジンは、より戦闘力を高めるためにエンジン出力を200kW(272ps)から224kW(304ps)へ、トルクを370Nmから400Nmへ向上させている。出力レベルは190ps/Lに到達しているが、ターボの過給圧をアップしたと推測できる。
インテリアもよりドライバー中心とするために変更されている。スーパー耐久シリーズ参戦車や全日本ラリー参戦車をモチーフに、操作パネルとディスプレイをドライバー側へ15度傾けて設置することで、視認性と操作性を改善。スポーツ走行時のみならず日常生活でも使いやすいスイッチ類の配置としている。
この他に、ドライビングポジションを25mm下げ、ステアリング位置も調整することでドライビング姿勢を改善。また、インナーミラーの取り付け位置をフロントガラス上部に移動させ、さらにインスツルメントパネルの上端を50mm下げることにより、前方視界を拡大している。
CVT搭載モデルであるGRヤリス RSのシフトレバーは75mm上昇させ、GRヤリスMTモデルのシフトレバーと同等の位置に配置し、操作性を向上。また、ラリーやジムカーナでの車両コントロール用途を視野に、GR-DATを搭載した車両にもハンド式パーキングブレーキを採用している。
またCVTのMモードでのレバーによる変速操作の向きを、従来から反転させ、引き操作でシフトアップ(加速)、押し操作でシフトダウン(減速)へと変更している。
センターディスプレイは、12.3インチフルカラーTFTメーターを採用。スポーツ走行に必要な視認性と車両情報にフォーカスしたコンテンツとしている。
GR-DATを搭載した車両はAT油温の表示を追加したほか、シフトダウン操作時に回転数が高すぎるためシフトダウンができない場合に、従来の警告音のみによる通知から、メーター内のギヤポジション表示にも警告を追加した。
エクステリアは、フロントのロワグリルに薄型・軽量化と強度を両立するスチールメッシュを採用し、バンパーロワサイドには分割構造を新たに採用。モータースポーツ参戦時に石などの飛来物による損傷があった際の復元・交換作業を容易にし、修復費用低減にも繋げている。
サイドロワグリルは開口部の大きい形状に変更し、冷却性能を確保。さらに、バンパーサイドにアウトレットを設けることで、サブラジエーター/ATFクーラー(GR-DATを搭載車にクーリングパッケージ・オプション)の熱を効果的に排出できるようにしている。
リヤは、ロワガーニッシュ下端に設けた開口部は床下からの空気を抜くことで、空気抵抗を下げ操縦安定性を向上させるとともに、マフラーの熱を排出しやすくしている。
またリヤ・ランプは上下ランプ類を集約し、モータースポーツでの損傷で交換しやすくしている。ハイマウントストップランプとリヤスポイラーを分けることで、リヤスポイラーのカスタマイズ性も拡張。加えて、一文字に繋がる一体感のあるテールランプとすることで、一目で新しいGRヤリスであることが分かるようにしている。
シャシーは、ボディとダンパーを締結するボルトの本数を1本から3本に変更し、走行中のアライメント変化を抑制することで、ステアリング操作に対する車両挙動の応答性を高め、操縦安定性を向上。
ボディでは、スポット溶接打点数を約13%増加させ、構造用接着剤の塗布部位を約24%拡大することでボディ剛性を高め、操縦安定性と乗り心地を向上。
ドライブモードは、従来の4WDモードセレクトに加え、スポーツ走行と日常生活での使い勝手を両立するため、ドライブモードセレクトを新設定。ドライバーの好みや参戦するモータースポーツの特性に合わせ、電動パワーステアリング、エアコン、パワートレーンの設定が可能としている。
またサーキットモードも新設定(T-Connectサービスの有料オプション)。GPSによる位置判定より、サーキットなどの利用可能エリアに入るとアンチラグ制御、スピードリミッター上限速度の引き上げなど、GRヤリスのポテンシャルを引き出す機能だ。また、各機能はスマートフォンアプリ上で好みに合わせカスタマイズが可能となっている。