GR86とBRZの乗り味は全く異なる、という事前情報と噂が流れていたが、本当は?ということを確かめる機会が千葉県袖ヶ浦フォレストレースウェイであった。
「本当だ!」乗ってすぐに感じる印象だ。
試乗車はMTとATとそれぞれあり、合計4タイプに乗ることになる。サーキットはアウト・インラップ入れて4周。ストレート3本という周回数で、コース上には特に何も設置されず、通常のスポーツ走行ができる環境でのテストだった。
早速試乗してみるとキャラクターの違いが、意外とハッキリあることに驚いた。試乗する前はハンドリングマニアが言う僅かな違いを拾って、「違う」ということを言っていたと思っていたが、そうではなかったのだ。
最初にGR86のAT、つぎにMTを乗り、続いてBRZのMT、ATという順番で試乗した。だからGR86の印象が基軸になって、BRZとの違いを感じるということになるが、BRZのMTでピットを出て行くと、すぐにGR86とは違うことを感じた。まず音が違うことと、車高が違う?という感触と、大人っぽさを感じている。
そして、なんとなくBRZの様子を掴んだら全開にして走行していく。すると、リヤの安定性がしっかりしていて安心感があることが強く伝わってくる。
BRZはステアして回頭が始まってもリヤの踏ん張りが伝わってくるので、アクセルが開けられる。調子に乗って踏み込むとリヤがゆっくりと滑り出す。だけど慌てることなくアクセルは踏み続けられるという安心感があるのだ。
先に乗ったGR86と比較して考えてみると、エンジン音も違うように感じ、軽快さを出していることがわかる。GR86は、ステア反応が良くすぐにノーズが動く。旋回を始めるとリヤは流れ始める。ステア応答がいいので、ややオーバースピードで進入しているのかもしれないと考え、アンダーが出そうになればスロットルで調整し、あるいは、そこでアンダーを出してみるとサッとリヤが流れカウンターステアを当てるという動きをしていた。
そして、両方を乗り比べていくうちにライン取りを変えていたことに気づいたのだ。これは無意識のうちにアプローチが変わっていた。あるコーナーで、BRZはコースの真ん中アタリからステアしてアペックスに付けていく。そしてゆっくりとアウトに膨らみながら脱出していく。ステアした瞬間からスロットルを開けられる環境だと感じさせ、実際に開けるとスライドするという感じで、安心しながら攻めることができるという感触を持つ。極端に言うとイン・インで曲がれる雰囲気があるのだ。
一方GR86では同じコーナーでも、進入を外に取りたくなる。BRZと同様にセンター付近からステアすると車速を上手く合わせられていないとアンダーステアが出てしまい、デリケートな操作が要求される。前述のようにそこでステアをこじればリヤが流れる。あるいは、オーバーにも変化してしまうので、言い換えればテクニックが足りていないわけだ。それを補うためアウト側からのアプローチにして入っていく。すると、リヤがもしスライドしても対応できるし、グリップでも回れる感覚なる。だからライン取りを変えれば似たような走行が可能になると分かった。
そして秀逸なのはAT仕様。スポーツモードを選択し「D」で走行するとヒール&トーのように回転をあわせてシフトダウンする。これはマニュアル車で運転しているときとほぼ同じタイミングでダウンシフトするので気持ちいい。
BRZのATの場合は、サーキットでもDモードで走行して楽しめると思う。もちろん、タイムを目指すようなケースであればマニュアルモードのほうがいいだろうが、Dでも十分速いしドライバーは荷重コントロールにだけ集中すればいいので、いい練習にもなる。
同様にGR86のATも気持ち良さはあるが、リヤがよく動く分、レスポンス良く反応して欲しい衝動はどうしても生まれてくる。だから、ATでもマニュアルモードのほうが楽しめると感じた。特に滑った時は精神的にリニア感が欲しくなるからだろう。
こうした違いは、今後車両解説の別記事で詳解するが、インプレッションの違いを開発陣に聞いてみると、音の違いについては、サウンドクリエーターによりコントロールをしており、プログラムは1つだけだという。しかし、アクセル開度の違いや早開きにするなど、そして車速によってトルクの出方が2車では違うということなので音の違いはあるということだった。走り出してすぐに感じた大人っぽさは、こうしたことが要因にあるのではないだろうか。
またステア応答の違いではBRZは常に手応えがある。言い換えれば重い。GR86は適度に軽く、ノーズの入りに敏感だ。こうした違いのひとつにEPS制御の違いもあるという。どちらも総合的に狙ったダイナミック性能に見合ったEPS制御を行なっているということだが、両車には操舵のフィーリングとしても違いを作っていた。
つまり、ハンドリングの違いについては、ある一定のスポーツカーとしてのボーダーラインを越えたところで、スバルらしさ、トヨタらしさを追求した結果だという。これは技術の進歩、分析力の進歩などがあり、やりたかったことがやれるようになっているからだと説明していた。
大雑把な言い方をするとBRZはダイアゴナルロールが小さく、リヤの接地感を作っている。これはスーパーGT300に参戦するレーシングカーのBRZも同様の考え方なのだ。だからフロント外側に大きな荷重がかかるときでもリヤの接地感、フロントのイン側の接地感が手応えとして伝わってくる。もっと言うとAWDでもFRでも四輪の接地荷重にこだわり、大きなダイアゴナルロールを嫌う方向のクルマづくりをしている。つまりスバル車はどのモデルでも同じベクトル上にあると感じるのは、このあたりに秘密がありそうだ。
一方GR86は、機敏に反応し操る楽しさを追求していると感じる。腕があればドリフトが楽しめると思う。こうした違いはトヨタの狙いでもあり、「スバルとは違う」ということにも重点を置いているように感じる。もっともトヨタはレクサスも含めさまざまなモデルがあり、全部のモデルを同じ方向に向けていくやり方ではなく、車種特性に合わせたクルマづくりといったあたりに違いがあると思う。
どちらのモデルもプロトタイプとしているが、もちろん最終モデルであり、ほぼこのまま発売される。そして乗り心地は路面の綺麗なサーキットであるため、両方ともアシはよく動いている印象で、硬さは感じない。が、このあたりは公道試乗をしてからお伝えしたい。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>