2014年8月にビッグマイナーチェンジとは言いながら、ほとんどモデルチェンジに近い改良を受けたトヨタ・プロボックスに短時間だが試乗するチャンスがあったので、そのレポートをお届けしよう。
このクルマは2つの名前を持ち、プロボックスはカローラ店、同車種・異名のサクシードはトヨタ店、トヨペット店の扱い車種となっている。このクルマの試乗レポートもいくつか見かけるがほとんど触れられていない点は、このクルマはビジネスカー、つまり商用バンであって乗用車ではないことだ。そして、販売店の店頭に展示されることはまずない。販売店で通常の乗用車のように試乗車があるわけでもない、という特別なクルマといえる。
もちろん、小企業や個人商店がこのクルマを販売店で直接購入するケースもあるのだが、圧倒的に多いのは、企業のまとめ買い、企業向けリース用の車両となり、販売店でも法人営業部が担当するクルマなのである。
プロボックス/サクシードは、カローラ・バン、カルディナ・バンの後継モデルとして2002年に登場している。2014年8月に12年振りのビッグマイナーチェンジを受け、プラットフォーム前半部は従来のNBCプラットフォームからBプラットフォームに変更され、エンジンも1.3Lは2NZ-FE型から1NR-FE型に、トランスミッションは4速AT/5速MTからスーパーCVT-iとなり、電動パワーステアリングの採用、VSCの標準装備化など大変更され、事実上のモデルチェンジとなっている。
プロボックス/サクシードの開発を担当した下村修之主査によれば、この5ナンバー・バンの市場規模はおよそ年間8万台で、近年ではトヨタが約60~70%、日産AD(三菱ランサーカーゴ、マツダ・ファミリアバンを含む)が30%強となっている。つまり、市場規模が大きくないので採算が厳しいカテゴリーのため、ロングライフのモデルとならざるを得ない宿命にある。ちなみに、この車種はアジアの新興国には高価格過ぎて、ヨーロッパやアメリカではあまりに小さ過ぎるという位置付けから日本専用モデルである。商品やサンプルなどの小荷物を積んで営業マンが走るというビジネス・スタイルも日本的で、それにマッチしたクルマだ。
このクルマの特徴は、一般的な乗用車とは異なり、普段ステアリングを握るドライバーがクルマを選択し購入を決定するわけではなく、企業の総務部が購入決定権を持っていることがほとんどである。そのためアピールポイントは、車両価格の安さ、ランニングコストの低さがメインとなる。最近ではランニングコスト、燃費だけではなく整備メンテナンス費用の安さをアピールするハイブリッド車も、企業の営業車としてポジションを確保してきているが、プロボックス/サクシードは、荷物を積載できる営業車という独自のメリットがある。250kg~400kgの積載重量は、ハイブリッド営業車にはない特徴なのだ。
そんなわけで、このクルマの開発コンセプトはなかなか難しく、ビジネスカーに徹して使い勝手や利便性を高めることはもちろんだが、基本性能はどのような性格にするかが一番難しい点だ。マーケットを調査した結果は、企業の購入者は「荷物が積めて、丈夫で長持ち、ランニングコストが安く、安全に配慮されたクルマ」が求められたが、実際に使用するドライバーからは「クルマの中で過ごす時間が長い」「仕事で使うので楽に使えるクルマがいい」という声が多数だったという。
下村主査によれば、当初はステアリングを握って楽しいクルマにしようという案もあったそうだが、結局、ドライバーの声を重視し、仕事で長時間乗っても楽なクルマ、疲れない快適なクルマを目指し基本性能を高めることにしたという。
実際にステアリングを握ってみると、想像していた以上にしっかり感があった。乗用車の1.5L以下のクラスに比べてもしっかりしており、操舵フィーリングもリニアでスムーズだ。
試乗車のプロボックス 1.3 GLはスチールホイールに155/80R14という、乗用車ではお目にかからない耐磨耗重視のタイヤを装着しているためもあり、ニュートラル部分から微小な舵角までの範囲は手応え感がなく頼りなさもある。しかしそれ以上にステアリングを切った時にスムーズな反応をするため、ぎこちなさがないのだ。そして、しっかり感のある操舵フィーリングで、確かに安心感があり、疲れにくいといえる。
乗り心地は少し固めに感じるが、それはリヤのカーゴスペースに積載がゼロだからで、適度に荷物を積載するとちょうどよい感じになるはずだ。もし60サイズあたりの乗用車用タイヤを装着すれば、乗り心地もステアリングの反応やフィーリングももっと快適になると思う。また5ナンバーサイズでスクエアなフォルムのボディは視界や見切りも良好で、市街地に限らず取りまわしがよく、扱いやすいこともこのクルマのアピール点のひとつだろう。
1.3L車のエンジンは1NR-FE型で、95ps/121Nmを発生する。CVTとの組み合わせで、市街地での加速性能は妥当で、リニアな加速感が得られるので、ストレスはない。もちろん、アクセルを大きく踏み込み、エンジンの回転を上げるとノイズは乗用車のレベルから言えば大きめになるが、実用上はそういうシーンはあまりないだろう。109psの1.5Lエンジンもラインアップされているが、クルマの性格から言えば1.3Lで十分といえる。
インテリアもビジネスユースに特化しているところがこのクルマのセールスポイントで、インスツルメントパネル中央には引き出し式のテーブルがあり、PCを載せたり、伝票書きができるし、昼食の弁当を食べるテーブルにもなる。またドリンクホルダーは、通常の丸型ペットボトルだけではなく、より経済的な1.0Lのお茶の角型紙パックも収納できるようになっている。さらに、インスツルメントパネルの中央ドライバー側には携帯電話・スマホ用フックも設置されているなど、至れり尽くせり。これらは実際に使用するドライバーを調査した結果だという。
もっとも、これらの装備、携帯電話・スマホ用フックを除いてはプロボックス/サクシードに限らず、乗用車にあっても不思議ではない装備だとも感じた。
このクルマは荷物を積んで往復100km~50kmを、あちこち立ち寄りながら移動するといった使い方がほとんどであろうが、ボディがしっかりして安定感があることや、変速ショックのないCVT、横滑り防止装置が標準装備などにより、運転スキルが高くないドライバーにとっても安心感があるはずで、結果的に楽に走ることができる社用車の資格は十分にあると感じられた。