2013年8月29日、ビッグマイナーチェンジを行なった「SAI」の試乗会が9月末に開催され、ようやく乗る機会が巡ってきた。なにが、どのようにチェンジされたのか?
「SAI」は2009年に発売され、プリウスの上に位置するミドルクラスのハイブリッド専用セダンで、レクサスHS250hとはプラットフォームを共用する姉妹車だ。プリウスがクラスレスのコンセプトであるのに対し、「SAI」は小さな高級セダンというコンセプトだ。かつての5ナンバー高級車コンセプトのプログレの現代版で、車名の「SAI」は「才」を意味する。しかし、日本では今や最も不人気なセダンボディであることや、デザインに特徴、存在感がなく、価格も300万円オーバーのゾーンといった理由が重なって販売はぱっとしなかった。
今回のビッグマイナーチェンジ、実質的にフルモデルチェンジ並の大変更を行なったのは、こうした存在感の薄さを打破するためであることは間違いない。デザインは先進性と高級感を両立させるという目的で、前後のフェンダー、フロントマスク、リヤエンドなどを一新し、最新のトヨタ・トレンドである主張するデザインに変わっている。そういう意味で、従来型のSAIとは別のクルマになったといえる。ただし、インテリアのデザインなどは従来のものを継承している。こうした大幅なデザインチェンジはこれまでのコンセプトを捨てたと思われても止むを得ないだろう。
デザインやカラーリングは、これまでの「才」より「彩」、つまり新しい高級感の表現を選んだ。インテリアは最初から未来的なデザインを目指していたが、今回は和のテイストも加えた「彩」を追求し、新たなインテリアカラー、例えば「茜(あかね)」などが登場している。こうした発想は意外にも若いデザイナーが牽引役になったという。そしてユーザーターゲットは従来の60歳代の子離れした比較的余裕のある層、インテリ層に、新たに団塊ジュニア層も加え、小さな高級ハイブリッドブランドとして確立させたいということだ。
性能的には、乗り心地、静粛性の向上が図られ、これらにいずれにも寄与するボディ剛性を高めるためにスポット打点を40ヶ所以上増加させ、骨格部材の追加、18インチタイヤ装着モデルには前後に減衰構造付きのパフォーマンスダンパーを新装備している。なお新型「SAI」は生産されるトヨタ九州(九州工場)で開発を行なう体制に移行し、その効果を発揮しつつあるという。
装備では、ポップアップ式SDナビの採用(Gグレードに標準、Sグレードにセット)、オプション、AC100V/1500Wのコンセント(オプション)追加、ミリ波レーダー式プリクラッシュセーフティ(G+Aパッケージに標準装備)、後方プリクラッシュセーフティ(G+Aパッケージにオプション)、レーンキープアシスト(G+Aパッケージに標準)などが設定されているが、自動ブレーキ衝突回避・軽減ブレーキは設定されていない。
エンジンは、2.4Lのアトキンソンサイクル(2AZ-FXE)で150ps/187Nm。モーターは143ps/270Nmのリダクション機構付きTHS-Ⅱ。アクセルを踏み込むとそのトルク感はやっぱりプリウスより1クラス以上上であることを実感できる。特に今回からスポーツモード・スイッチが採用され、このモードではより加速レスポンスがアップし、同時にステアリングン操舵力も少し重めになる。だから加速でのストレスを感じることはないと思う。またエンジン音もかなり抑え込まれており、むしろモーター音が気になるが、これはTHS-Ⅱならではのお約束ともいえる。
試乗車は18インチタイヤだったがステアリングのインフォメーションは薄いが、操舵の滑らかさ、しっかり感は優れている。電動パワーステアリングはコラムアシスト式だが、大容量のブラシレスモーターを使用していること、ステアリングラックのサブフレーム取り付け剛性が高いのが効いているのだろう。また、乗り心地も減衰力の発生にリニア感があり、路面との当たりの穏やかさとしっかり感が両立している。加速感、乗り心地などは総合的に上質さが感じられ、まさに狙い通りといえるだろう。
ブレーキはプリウス系と共通だが、ペダル自体は剛性感があり、踏み込むフィーリングも安心感が感じられたが、強くブレーキペダルを踏み込んだ時にはペダルが奥まで入ってしまうという点は相変わらずだ。
インテリアは、従来からのSAI独自の浮上型センターコンソールが採用されており、見た目は先進的でかっこよいが、正直なところ左腕周りの窮屈感がある。またマウス状のコントローラー(リモートタッチ)も操作感はいまひとつ。さらにこのセンターコンソールの右側に小さなシフトセレクターが配置されているが、操作性を考えるとむしろステアリングポストに一体化したほうが望ましいのではないか。
キャビンフォワードのパッケージングのため、ダッシュボードのボリュームが大きいことは必然的といえるが、ダッシュボード全体とセンターコンソール部の細部の作り込み、プラスチック感が感じられる点は価格帯を考えるとちょっと興醒めな感じがする。一方、シートは左右方向にはややルーズではあるが、身体を受け止めるしっかり感は十分に感じられる。
新型「SAI」はデザインが大幅に変更され、存在感を主張するクルマに生まれ変わり、ハイブリッド車で大型のカムリよりは日本の市場には適したサイズで、プリウスよりは上質で高級感があるという、トヨタ車のライアンアップの中でのポジションがより明確になったといえる。しかし330~400万円オーバーという価格帯を考えると、ドライバー支援システムなどの装備やドライブフィールにもう一味欲しいというのが正直なところだ。