トヨタ TNGAとは何か?そうだったのか!新型プリウスの全貌

トヨタ 新型プリウス
17インチタイヤ装着車

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4代目となる新型40型プリウスの正式発表・発売は2015年12月上旬だ。全国の販売店では10月下旬頃から予約受注も開始され、いよいよ発売に向けてのカウントダウンが始まっている。新型プリウスは現時点までに、最初に2015年9月にラスベガスでワールドプレミアを行ない、9月15日から開幕したフランクフルト・モーターショーでヨーロッパ初公開を行なっている。

日本では10月13日にメディア向けに新型プリウス説明会が開かれ、10月28日開幕の東京モーターショーで国内仕様のプロトタイプ(トヨタ式には号口試作車)として一般公開した。また11月10日にはメディア向けに富士スピードウェイでプロトタイプ試乗会が実施され、引き続きセールスマン試乗会も行なわれている。その時のプロトタイプ試乗レポートはこちら

トヨタ 新型プリウス
15インチタイヤ装着車

こんな感じで、新型プリウスは周到な準備を行ないながら正式デビューを迎えようとしているのだ。なお、現時点で判明した新型プリウスのグレード展開は、「E」、「S」、「A」という3グレードで、Aには「トヨタセーフティセンスP(TSS P)」が標準装備される。

トヨタ 新型プリウストヨタ 新型プリウス

「E」は燃費40km/Lを達成したスペシャル軽量モデルで、リチウムイオン電池、小型燃料タンク(38L)としている。今回からプリウスのバッテリーは新採用のリチウムイオン・バッテリーと改良型ニッケル水素・バッテリーの2種類が設定されているが、EとAがリチウムイオン・バッテリー、最量販グレードと想定されるSはニッケル水素バッテリーという使い分けだ。

なおタイヤは、E、S、Aグレードともに195/65R15のエコタイヤが標準仕様で、S、Aはツーリングパッケージを選択すると215/45R17サイズのエコタイヤが装備される。またS、Aグレードには後輪モーターを装備した4WDモデルも初設定されている。

■コンセプトと背景
新型プリウスの開発コンセプトは「ビューティフル・ハイブリッド(美しい地球・美しいクルマ)」とされている。ハイブリッドならではの、優れた燃費性能を追求しながら、感性に訴えるデザイン、人間中心のインテリア、そして運転する楽しさを追求したという。

トヨタ 新型プリウス

トヨタ 新型プリウストヨタ 新型プリウス

具体的には、かっこいい、走って楽しい、燃費がいい、装備がいいという4つの訴求点に集約され、開発が行なわれた。

社会的な背景を見ると、プリウスがデビューした時代に比べて世界的にクルマの高効率化が進み、プラグインハイブリッドという新たなカテゴリーが確立され、単に燃費という観点で見れば、THS-Ⅱと呼ばれるトヨタのハイブリッド・システムはもはやナンバーワンではなくなっている。

トヨタ 新型プリウス

そのため新型プリウスは単に燃費を訴求するだけではなく、普遍的なクルマとしての性能の向上、ドライビングの楽しさやデザイン力による所有する喜びを持たせるといった付加価値の向上や、グローバルカーとして世界のマーケットに通用する、「走る、曲がる、止まる」という基本性能の大幅なかさ上げが求められたのである。

さらに、トヨタとしては新世代のグローバル・モジュラー・プラットフォームと位置付けられるTNGA(トヨタ・ニューグローバル・アーキテクチャー)の適用モデル第1号となり、TNGAを生かした性能の大幅向上ともリンクされることになったのだ。

■TNGAとは
トヨタは従来、FF車はMCプラットフォーム、NBCプラットフォームなどが存在し、車種によっては両方の要素を組み合わせる、あるいは一部変更を加えるなどして使用されてきた。しかし、フレキシブルなグローバル・プラットフォームとして、2011年にモジュラーコンセプトを取り入れたB/Cセグメント用の新世代プラットフォームが企画された。

TNGAプラットフォーム
TNGAプラットフォーム

出発点はB、Cセグメントに適用されるフレキシブルなプラットフォームであり、モジュラー・コンセプトとしては、エンジンの搭載位置とバルクヘッドの距離の固定化、ラジエーター、エアコンユニット、リヤ・サスペンションなど主要なコンポーネンツのモジュール化などが盛り込まれている。では、「もっといいクルマ」を目指したトヨタとは?次のページで見てみよう。

この企画は、トヨタの「もっといいクルマ」活動とリンクすることで、通常の新プラットフォーム開発を超えた大規模開発となった。「もっといいクルマ」活動とは、簡単にいえば、クルマの基本的な要素の「走る、曲がる、止まる」の大幅なレベルアップ、ドライビングプレジャーの向上を意味し、世界に通用するクルマ造りを目指すということだ。

そのためには、クルマの個々の要素で性能の向上を図るより、基本骨格から資質を高めること、その資質をベースに大幅な性能向上を目指すことになったのだ。したがって、プラットフォームの骨格を決定するために、生産技術も含め白紙状態から検討が行なわれたのだ。もちろんこの新世代プラットフォームに適合するモジュール化コンポーネンツの開発も同時に行なわれるため、さまざまな部署にTNGA担当者、チームが選任され、「もっといいクルマづくり」のために全社を挙げての開発が行なわれることになったのだ。

トヨタ 新型プリウス TNGAトヨタ 新型プリウス TNGA

プラットフォームのフレームの配置や構造を性能重視の観点から検討を重ね、車両の20mmの低重心化、リヤ・サスペンションの変形ダブルウイッシュボーン式の独立懸架の採用、フロント・ストラットのキャスター角の大幅増大など、従来では実現できなかった設計が盛り込まれているのだ。さらにドアの閉まり音や排気サウンドのチューニングなど、これまで手付かずだった領域まで踏み込んでいる。

新型プリウスの生産は、従来の堤工場に加え高岡工場でも行なわれ、2工場生産体制となる。また、TNGAではこれまでにないほど大幅にホットスタンプ(超高張力鋼板の熱間成形)、アッパーボディではレーザースクリュー溶接が幅広く採用されることになり、生産技術、生産設備でも大幅な革新が行なわれている。ちなみに、ホワイトボディの高張力鋼板の使用比率はトヨタ車では異例の約70%に達している。

このようにトヨタがTNGAの開発にかけたパワーは近年では異例な規模であり、それを表現するためにYouTubeにはドラマ仕立で多数の「TNGA」動画がアップロードされている。

■パワーユニット
搭載されるエンジンは1.8L・4気筒の2ZR-FXE型で、従来型の継承といえるが、燃費、効率を高めるために大幅な改良が加えられている。80.5mm×88.3mmというボア・ストロークは従来通りだが、圧縮比は13.0→13.1に。最高出力は99ps→98ps、最大トルクは142Nmで変更がない。

トヨタ 新型プリウストヨタ 新型プリウス

変更点は、吸気ポートの流入角度を鋭角方向に強め、さらに吸気ポート部の燃焼室入り口部分の形状を剥離流を生み出すように処理にすることで、低中負荷時のタンブル流を大幅に強化している。また同時にEGR(排ガス再循環装置)は、各気筒に均等に大量に導入できるようにトーナメント式を採用。

トヨタ 新型プリウス
12Vバッテリーがエンジンルーム右端に移動している

燃焼室、特に排気ポート側を重点的に冷却し、シリンダー部は保温するためにウォータージャケット部に発泡ゴム式のスペーサーを採用。従来からの電動ウォーターポンプにシリンダーヘッド出口の冷却水通路に切り替えバルブを新設し、暖気の速度向上とEGR加え、クーラー、ヒーター性能の両立を行なう2系統冷却システムとしている。また従来通り排気熱回収システムも装備している。

トヨタ 新型プリウス 2系統冷却トヨタ 新型プリウス

もちろん運転はアトキンソンサイクルで、吸気カム側に油圧式可変バルブタイミング機構を装備する。多くの改良により、従来型の熱効率38.5%から世界トップレベルの熱効率となる40%の熱効率を実現している。次ページではハイブリッドシステムについて探求していみた。

■ハイブリッド・システム
新型プリウスの大きな進化点は、ハイブリッド用のトランスアクスル部を新設計したことだ。発電モーターと駆動モーターを2軸配置とし、リダクションギヤは従来の遊星ギヤ式から平行軸ギヤとすることで、摩擦損失を約20%低減し、さらに長さ方向を409mmから362mmと47mmも短縮している。もちろんこれは新型プリウスのためだけではなく、今後の他車への展開のためにも威力を発揮するはずだ。

トヨタ 新型プリウス トランスアクスルトヨタ 新型プリウス トランスアクスル

モーターは新設計で、小型・軽量化された新巻き線方式を採用。より高回転化しながら従来型より約20%の損失低減と20%強の軽量化を果たしている。なお新型モーターの出力は53kW、163Nmで従来型より13kW、44Nm低くなっている。

トヨタ 新型プリウストヨタ 新型プリウス モーター

トランスアクスルの上に搭載されるパワーコントロールユニット(PCU)は、容積で33%も小型化(12.6L→8.2L)され、同時に制御損失も20%低減。この軽量・コンパクト化により、従来はトランクスペースにあった12Vバッテリーがエンジンルームに移動されている。当然、一般的なバッテリーの使用ができるようになっているのだ。

トヨタ 新型プリウス

ハイブリッド用の高圧バッテリーは従来からのニッケル水素式とリチウムイオン式の2種類が設定されているのが注目点だ。従来からのニッケル水素式は改良され、約10%小型化されるとともに、充電性能が28%向上。燃費指向のEとAグレードに搭載されるリチウムイオン式は、ニッケル水素式と同じパッケージ容積だが、重量はニッケル水素式が40.3kgであるのに対し、24.5kgと圧倒的に軽量なのが優位点だ。

トヨタ 新型プリウス

電圧と容量は、ニッケル水素式が201.6V/1.3kWh、リチウムイオン式は207.2V/0.75kWh。もちろんリチウムイオン式バッテリーの方がブレーキ回生能力では有利になる。バッテリーは小型化されたため、従来のリヤシートバック後方ではなく、リヤシート下への搭載が実現し、その結果としてリヤのラゲッジ容量は従来より56L増加し、502Lと大容積になっている。またラゲッジのフロア面も110mm下げられている。

トヨタ 新型プリウス

なお燃費は、Eグレードが40km/L、その他のFFグレードは37km/L。Eグレードは軽量化モデルで、燃料タンク容量は38L(他グレードは43L)だ。

トヨタ 新型プリウス AWDトヨタ 新型プリウス

◆AWDのプリウス誕生

今回から4WDが投入されたことも大きな改良点だ。リヤ駆動はE-Fourと呼ばれるモーター駆動式で、リヤ・サブフレームに搭載される。コンパクトにまとめることで、ラゲッジスペースへの影響はない。誘導式リヤ駆動モーターは5.3kW、55Nmの出力で減速比は10.487。誘導式モーターは永久磁石・交流同期式モーターに比べ軽量、シンプルな構造のためリヤに採用されている。制御は、発進時、急加速時、滑りやすい路面で自動的にリヤを駆動し、巡航、減速時などはFF駆動となる。

トヨタ 新型プリウス 走りのキーアイテムトヨタ 新型プリウス

ハイブリッドの制御は、従来型に比べ減速時や巡航時にはすぐにエンジンをストップさせ、エンジンの稼働時間をできるだけ短くしている。燃費に対する貢献度では、エンジンの改良とこのハイブリッド制御の効果が最も大きいのだ。

トヨタ 新型プリウス

またその一方で、滑らかでドライバーの意図通りの加速感が得られるように制御が改良され、従来型のような中間加速時の滑り感、加速のためらいを抑えている。つまりアクセルペダルの踏み込みに応じ、レスポンスよく加速感が得られるようになっている。さらに加速時のピッチングの抑制、減速時の車速に応じたエンジンブレーキ感の確保など、今までのハイブリッドのイメージを変える制御になっている。さらにドライブモードもEVモード以外のノーマルモードとスポーツモードを明確に違いが分かる設定としている。

■ボディ
TNGAプラットフォームの革新に合わせ、ボディは全高を20mm、ボンネット先端部は70mm、テールエンドも55mmダウンさせ、さらにルーフの頂点位置は170mm前進されている。この他にエンジン搭載位置を下げるなどにより、重心高は従来より20mm低くなっている。全幅は従来型より15mm拡幅している。このため、プリウスの象徴ともいえるトライアングル・シルエットを守っているとはいえ、前傾姿勢を強めたプロポーションは新しく見え、もちろん空気抵抗の低減にも効果を発揮し、床下構造も平面化させることでCd=0.24を達成している。

トヨタ 新型プリウス packageトヨタ 新型プリウス

視界は、Aピラーの断面形状と三角窓フレームの断面を一新し、斜め前方の視界を改善し、リヤの視界も拡大されている。ボディパネルは強いプレス処理を採用し、かつてないほど立体感を強調しているのが特徴だ。

トヨタ 新型プリウス ボディサイズ比較

インテリアは、センターメーター・デザインを継承し、表示は遠方に、操作系はドライバーの手元に配置するコンセプトとなっている。また着座位置が59mm低下していることに合わせ、ボンネット後端部も62mm低められ、ドライバーの前方視界を確保している。なお全高の低下に合わせ、リヤシートはヘッドスペースを確保するため天井内装の形状を凹形状にしている。

ステアリングホイールは本革と合成皮革の2種類を設定。合成皮革はトヨタ初の昇温・降温抑制機能付きとしている。シートは本革、合成皮革、上級ファブリック、ファブリックの4仕様を設定している。次ページではボディ骨格を見てみよう。

トヨタ 新型プリウス body
プラットフォーム、ボディ骨格は使用材料面でも格段に革新されている
赤色部が1500MPa級のホットスタンプ材
赤色部が1500MPa級のホットスタンプ材

ボディ骨格は、前端部のバンパー支持部は第1クロス・フレームのハイパーレインフォースと第2クロスメンバーという2段構成とし、オフセット衝突時の荷重を分散できるようにしている。またAピラー付け根とフロントサイドメンバーは三角フレームで結合し、カウルトップ周辺は左右のタワー結合材に加えてカウルトップ補強材、キャビン側では左右のAピラーを結合するパイプ材のステアリング支持パイプ材を配置するなど、ねじり剛性対策を充実させている。

トヨタ 新型プリウス body

ボディサイドパネルは「日の字」型、リヤハッチの取り付け部は環状構造とするなど骨格部を大幅に強化。ボディ材料は、ボンネット、リヤハッチはアルミ材、フロアフレーム、A/Bピラー、ドア補強フレームに1500MPaのホットスタンプ材を採用し、その他にも980MPa級の高張力鋼板を採用するなどし、軽量化と高剛性化を両立。ねじり剛性は従来型よりなんと60%も向上しているという。

トヨタ 新型プリウス
緑点がスポット溶接、赤点がレーザースクリュー溶接点。Bピラー内部もホットスタンプ材を使用

ドア開口部などはスポット溶接に加え、新たにレーザースクリュー溶接をによる溶接ポイントを大幅に追加し、キャビンの剛性感を向上。もちろんこれはドアの閉まり音の質感向上にも役立っている。レーザースクリュー溶接の技術は、ホットスタンプ材と合わせTNGAでは標準技術と位置付けられているようだ。

スポット溶接
ドア開口部の全周の溶接点を増大
剛性を向上させたカウルトップ部の構成
剛性を向上させたカウルトップ部の構成

静粛性の向上も新型プリウスの大きなテーマだ。最新の吸遮音材、大型一体タイプのフロアサイレンサーの採用に加え、フロア部へ接着シーラーを大幅に拡大採用し、キャビンの静粛性を高めている。

トヨタ 新型プリウス
空力性能向上のため床下を整形し、フィンスタビライザーを装備

■シャシー
サスペンションはフロントがストラット式、リヤは新開発されたアッパーIアーム/ロワ平行アーム+トレーリングアームの変形ダブルウイッシュボーンを採用。フロントのストラットは7度半というハイキャスター角にしている。

リヤ・サスペンションはコンパクトにまとめた低床パッケージングで、ダンパーは直立させ良好なレバー比としている。このサスペンションのレイアウトは、フォルクスワーゲンのパフォーマンス・サスペンションとよく似ている。

トヨタ 新型プリウストヨタ 新型プリウス

トヨタ 新型プリウス
4WDのリヤサスペンション

ブレーキも大きく改良されている。従来のストローク重視のペダルから、踏力と比例させ、ドライバーの意図通りの制動力を実現。さらにペダルの剛性感を向上させている。そのため従来型では回生ブレーキと油圧ブレーキの切り替えで効き味が変化し、低速時のブレーキでは違和感があったが、それが解消されているのは大きな進化といえる。

ドライバー支援システムも最新の上級版、トヨタ・セーフティセンスP(TSS P)が設定されている。これはミリ波レーダーと高性能単眼カメラを組み合わせたシステムで、衝突回避機能では自転車、バイクの検知は難しいが、歩行者は検知でき、システムとしては歩行者の検出を最重視しているという。プリクラッシュ・システムの性能的には10km/h~80km/hで作動し、歩行者に対して30km/h以下で作動し、対車両では10km/h以上で作動する。

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もちろん全車速追従のレーダークルーズコントロール、ふらつき警報/ステアリング制御付きの車線維持システムも組み込まれている。またオートマチックハイビームも備えている。

この他に、レーダーを使用したブラインドスポットモニター、超音波ソナーを使用したインテリジェント・クリアランスソナー、同じく超音波ソナーを使用したシンプル・インテリジェント・パーキングアシストも設定されている。

またペダルの踏み間違いによる誤発進抑制の「ドライブスタートコントロール」も設定している。これはシフト操作時に急発進、急加速を検知すると出力を抑制するシステムだ。さらに、まだ名古屋市の一部などインフラ整備状況は少ないが、路車間通信を行なう「ITSコネクト」もオプション設定されている。

 

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