水素元年 聴講レポート「イワタニ水素エネルギーフォーラム」

雑誌に載らない話vol113
IMG_8739岩谷産業は「イワタニ水素エネルギーフォーラム」を開催し、今回で9回を数え、約900名の人が聴講していた。聴講者の中には県の職員、大学の研究室、一般人もおり、関心の高さを感じた。<レポート:髙橋 明/Akira Takahashi>

2015年は水素元年と位置づけられており、トヨタからFCVのミライが発売された。未来のクルマの動力源は何にするのか? エンジンは生き残らない? などさまざまな意見がある中、水素を使ったクルマというのが出てきたわけだ。

mir1411_07_s現在水素自動車の問題として取り上げられているのは、まずインフラだ。ガソリンスタンドのように、日本中どこでも水素が充填できる環境でなければ、FCVは普及しない。そんな規模で水素ステーションが作れるのか?という疑問。さらに水素そのものを取り出すためには膨大な電力が必要であり、省エネルギーの視点から見たら本末転倒であるという意見などがある。

したがって、まず水素を作るのに電力を使い、作りだした水素で発電するという二次電力製作方法そのものに疑問を持つ人も多い。だから純粋に今ある電力でそのまま走るEV車の方がベターであるという考えも当然ある。

フォーラムの骨子としてトヨタとホンダがメインの講演なのだが、それは企業としての取り組みに関するものだ。一方で、経産省として国が何を考えているか?という話や、東京都としてどう取り組んでいるのかという話、そしてコンサルティング会社からのアドバイスとして、水素社会に対しどう取り組むべきか?という講演も行なわれた。

20150212_01_01 (1)■経産省の見解
経済産業省の話では驚いたことがいくつもあった。上記にある問題に対し経産省では、3つのフェーズに分けた水素社会にむけてのロードマップを作っていることだ。現在から2020年の東京オリンピックにむけて、をフェーズ1とし、家庭用燃料電池の普及と産業用燃料電池の市場投入、そして水素価格の策定としている。2030年ごろには水素の大量使用による燃料電池のコモディティー化とし、水素発電を本格化スタートする。これをフェーズ2としている。そしてフェーズ3では、2040年ごろにはCO2フリーの社会を作るというロードマップだ。

水素の製造に関しても現在は石油、天然ガスなどの化石燃料を高温で水蒸気と反応させることで水素を製造しているが、副生水素として製鉄、化学などの工場排出によるものの利用が現在行なわれている。そして、中期的には未利用のエネルギーとして、使っていない化石燃料からの創出を考えている。長期的には風力、太陽光エネルギーといったものに代替していく、というロードマップだ。しかし、使っていない化石燃料から水素を作ると経産省は考えていることに少々の違和感がある。つまり、いくら使っていないとはいえ、天然資源を使うことには変わりがない。原油とおなじことを繰り返すという考え方、思考のベクトルが気になる。

一方、水素ステーションに関して、効率よく設置すれば東京都では80ヶ所あれば賄えるという算出をしていた。現在のガソリンスタンドのように、どこにでもある必要はないという計算だ。水素ステーションは現在首都圏で26ヶ所、全国で45ヶ所が整備されているが、設置数において、現在のガソリンスタンドのような状況をそもそも想定していないことが分かる。福岡、大阪、名古屋、東京の4大都市圏で合計100ヶ所程度を想定し、高速道路のSAやPAへの設置を含めると、それなりにFCVが普及すると考えているようだ。

??????????■東京都の取り組み
東京都ではこの経産省のロードマップをさらに具体的にし、5つの課題に取り組み始めている。それは水素ステーションの整備、燃料電池車のバス(路線バス)の普及、家庭用、業務用、産業用燃料電池の普及(エネファーム)、安定的な燃料供給、そして社会的な受容性の向上と位置づけし、取り組んでいる。予算規模としては平成27年度以降で400億円とし、官民あげての取り組みを継続するとしている。そして東京が日本を先導して水素社会を実現するとして締めくくった。

ここで気になるのは経産省の見据える水素社会は理解でき、日本はその方向に向かうのだろうと漠然と感じたのだが、しかし、別の省庁ではどうなのだろうか?という疑問だ。ITSでもそうだが、総務省や経産省、国交省など複数の省庁がそれぞれの考えで推進するがために、共通基準づくりが難しく、自動車メーカー側もどうしたらいいのか?という話も聞く。それと同じようなことはないのか?と少しの疑問と不安がある。我々の税金はどう使われるのか…。

■コンサルティングの見解
フォーラム最後の講演はさらに興味深く、デロイト トーマツ コンサルティングの國分氏の講演だった。さすがにコンサルティング会社だけに、説得力が高く、うなずくばかり。とくに海外の水素政策はどのように進んでいるのか?というレポートと、日本はどうしたらいいのか?というアドバイスは興味深い。

世界中の先進国ではスマートシティ構想はすでに浮上し、さまざまな意見が展開している。その中で日本が最も先進であるという現在、次回のCOP21(於:フランス)では日本政府がイニシアティブをとるポジションで臨んでほしいというアドバイスがあった。

各国、暗中模索状態であるから、なおさらなのだろう。フランスでは35MPaの水素社会に向かっているというレポートやドイツではアウディが進めているメタンの利用の話もあった。当サイトでも伝えたフォルクスワーゲンワーゲンのe-gasによるアウディのg-tron計画だ。

そしてアメリカではすでに5000台近い燃料電池フォークリフトが稼働しており、公共のバスだけに限らずフェリーなどの船舶にも燃料電池が利用され始めている現状は刺激的な内容だった。

国の未来は政府のかじ取りで決まることだし、自動車メーカーとしては水素社会がガラパゴス化してしまうことが最も恐ろしい。そして、間違いなく自動車のパラダイムシフトは始まったわけであり、我々はその時代の変化の目撃者としていられる幸運に恵まれたということだろう。

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