2025年3月にクラウンエステートが発表された。16代目クラウンは2022年7月にワールドプレミアされ、そこでは4つのタイプのクラウンが順次発売されるというアナウンスがあった。そしてトップバッターで発売されたのがクラウンクロスオーバーだった。
このクラウン クロスオーバーがデビューしたときは「これをクラウンと言っていいのか」といった論調の記事が多数Webに掲載されたことを思い出す。しかし時間が経つにつれ、そのデザインの意外性にも慣れ、違和感は薄れ、いま中国を見ると、クラウンクロスオーバーはデザイントレンドだったことが理解できる状況にかわってきているのだ。そして、このエステートが4番目のモデルでデビューするとき、4タイプあるクラウンの違いや位置付けも明確になった。
関連記事:トヨタ クラウンエステートを発売、HEVとPHEVをラインアップ

結局4タイプのクラウンがある理由とは、多様化するニーズに応えるために4タイプを用意したということで、つまりは、それぞれが違う個性を持っているという言い方にもなる。
その違いは端的に言えば、クロスオーバーがクラウンの中心であり、そのキャラクターは、クロスオーバーとなってもセダンの走りを目指したもの。パワートレインは2タイプ用意し、2.5LのHEVと2.4LのHEVターボだった。

そしてクラウンスポーツは新しいカタチのスポーツでHEVとPHEV。セダンはニューフォーマルセダンで、HEVとFCEV。そして最後にエステートはワゴンとSUVの融合というテーマで、HEVとPHEVが用意された。
評価軸を何にするかで座標は変わるのだが、トヨタの説明ではクロスオーバーが座標の中心にあり、それぞれの個性を際立たせたモデルが3タイプあるという説明だ。







で、エステートは何を際立たせたのか。それが「大人のアクティブキャビン」なのだ。およそ従来のクラウンからは想像できない言葉であり、機能説明では車中泊という言葉もあるほど変化している。
だからダイバーシティ(多様性)というニーズの中に、クラウンの品格を持ちながら、高級で乗り心地のよいクルマにも、アウトドアで使える性能が欲しい、そして長距離移動でも疲れない、移動時間の質を高めるといった要素を持たせたのがエステートというわけだ。



試乗車はHEVとPHEVの両方に乗ることができたが、印象的なのはPHEVだ。急速充電にも対応するPHEVは2.5Lガソリンエンジンと組み合わされており、HEVも同じA25A-FXS型を搭載している。しかし、HEVはエンジンでの走行領域がPHEVよりも広いため、出力を上げPHEVの177psに対して190psとし、トルクも210Nmに対し236Nmと少し異なっているのだ。


モーターは、エステートの全モデルがe-FourのAWDで、前後にモーターを搭載している。その前後モーターはHEV、PHEVともに共通だ。諸元では、フロントが5NM型で134kW(182ps)/270Nm、リヤが4NM型40kW(54ps)/121Nmとなっている。ただし、HEVのフロントモーターは、クロスオーバーやスポーツのHEVに搭載されるフロントモーター(3NM型)よりは高出力にしてある。その理由は車重が関係し、どのクラウンに乗っても、クラウンの品格を備え、「乗り味はクラウンらしさ」を均質にするために、モーター出力で調整しているわけだ。
エステートのプラットフォームはFF用のGA-Kで、エンジンは横置きに搭載。最低地上高は165mm〜175mmで、アウディのオールトラックやメルセデスEクラスのオールテレインのような都市型クロスオーバーの車型としている。
エクステリアデザインでは、他のクラウンシリーズとは異なり、レクサスのスピンドルボディに似たデザインになっている。水平基調のデイタイムランプを採用したハンマーヘッドフェイスはトヨタの顔、クラウンの顔としても印象に残る存在感のあるデザインだと思う。


車中泊というおよそクラウンでは想像もしなかった使い方が想定しているように、ラゲッジは後席を倒すと2mのフルフラットスペースが現れる。アウトドアのギヤを満載し、上質な走行性能と品格を備えた大人のアクティブキャビンというわけだ。
さて、走行性能をみると、PHEVは86kmまでEVの航続距離があり、また120km/hまでEV走行が可能だった。オートモードを選択すると市街地も含めすべてEV走行で賄え、日常の移動ではEV車だ。また新東名高速の120km/h区間を走行したが、ときどきエンジンが稼働するものの、巡行状態になるとEVになり、高い静粛性とEVの魅力であるアクセルレスポンスの良さが印象に残った。





そしてエステートには「リヤ・コンフォートモード」があり、文字通り後席の乗り心地をコンフォートにするモードだ。これは4輪操舵機能のDRSと連続可変ダンパーのAVSを連動させ、アクセルの踏み込む量、踏み込む速度と連動させて、車体のピッチングや揺れを抑える制御を行ない、フラットライドを実現している。
さて、他の3つのクラウンはどうなのか。いずれも既報しているが、改めてお伝えしておくと、基本形に位置付けられるクロスオーバーは2.4LHEVターボが強烈な印象を残している。グレードは「RS」でDRSの制御が素晴らしく、ハイスピード・コーナリングでのスタビリティはピカイチ。エンジンの音が良いのも記憶に残っている。









セダンではFCEVの豪華で動く応接間の印象が残っている。このクラウンだけFR用のGA-Lのプラットフォームを採用するFR車だ。パワーユニットも燃料電池であり、次世代を代表するMIRAIに匹敵する位置付けのモデルだ。またHEVも用意されているが、FCEVがあまりにも高い静粛性を持っているので、HEVでも十分静かなのに、エンジンの存在が気になるという人間のわがままを思い知ったモデルだ。

そしてスポーツはPHEVが遅れて登場した。クロスオーバーのRSのインパクト大きかっただけに「スポーツ」にも期待した。がしかし、言うほどスポーツではなく、赤と黒のインテリアの演出であったり、環境車でもスポーティな走りが楽しめるといった穏やかなスポーツという印象。キャッチフレーズは「硬いだけがスポーツじゃない」というわけで、ガチのスポーツとは違う位置付けで品格のあるスポーツなのかもしれない。
このように同じクラウンの名前を持ちながら、4つの個性があり、クラウンの品格という共通する魅力を持ちながら、個性を伸ばす手法で作られているのがクラウン群というわけだ。
関連記事:【トヨタ新型クラウン 試乗記】固定概念とサヨナラ。新たな歴史はクロスオーバーから
関連記事:【トヨタ新型クラウン 試乗記 RS編】魅せられた答えは、もう1つのパワトレと後輪操舵だった
関連記事:【試乗記】トヨタクラウンスポーツPHEV 環境対応したスポーツの姿
関連記事:【試乗記】トヨタ クラウンセダン ニューフォーマルセダンという新しい価値観に挑戦。際立つ静粛性と滑らかさ
諸元

価格
