【トヨタ新型クラウン 試乗記】固定概念とサヨナラ。新たな歴史はクロスオーバーから

トヨタ・クラウンがドラスティックに変貌して登場した。新型クラウンは時代の変化とともにユーザーニーズ、価値観の多様化、そしてライフスタイルの変化がある中でクラウンのあるべき姿を追求した。その結果、4つのモデルで応えることを選んだ。

クラウン・クロスオーバーが第1弾として登場し、この後、クラウン・スポーツ、クラウン・セダン、クラウン・エステートとラインアップする予定だ。そして国内専用モデルだったクラウンは約40の国と地域で販売される。

新型クラウンクロスオーバー G“Advanced・Leather Package”
新型クラウンクロスオーバー G“Advanced”

ただこれらのモデル全てが国内で発売になるのかは不明で、グローバル展開するモデルへと変わったことで、ロングホイールベースのクラウン・セダンは中国がメインマーケットとなるだろうし、ショーファーとして国内の可能性はある。BEVモデルとされるクラウン・スポーツはまだ具体的な様子は掴めていないが、欧州を視野に入れているかもしれない。そしてクラウン・エステートは北米あたりを想像する。新型クラウン・シリーズは、北米・中国を中心に販売戦略がつくられていることは間違いなく、今後国内での展開には興味深い。

多様化する価値観に合わせイメージを払拭

さて、試乗できたのはクラウン・クロスオーバーだ。ターゲット層は全ての世代でジェンダーレスを狙い、既存のユーザーも取り込みたい狙いを持っている。日々の乗り降りから見た目のデザイン、使い勝手といったものにプラスして、乗ってみるとやっぱりクラウンだ、と思わせるようなモデルを狙ったという。

クラウンというブランドについたイメージはセダンで、おじさん、会社の偉い人が乗る、あるいは社用車といったイメージを持つ人が多いと思うが、そうしたイメージを振り払うためにも変革に挑戦していく必要があった。そのため「クラウンはこうあるべき」という固定概念を捨て、多様化する価値観に対応するためには何が必要かということからスタートした。

そのひとつとして、クロスオーバースタイルの外観に落ち着いたわけだ。最低地上高が145mmなので、SUVまでは高くなく、アーバンスタイルのクロスオーバーになった。車高を高くすることで乗降性の良さや運転席からの見え方も変わってくる。それでいてトヨタの量産モデルの高級車にふさわしい乗り心地の良さやインテリアの雰囲気、トランク容量など過不足なく全方位で新しいクラウンを設計したわけだ。

パワートレインとプラットフォーム

クラウン・クロスオーバーのハードパーツ系では、エンジンを横置きレイアウトに変更し、リヤがモーター駆動するE-Forceを搭載。そしてリヤ操舵システムのDRSを全車標準装備にした。パワートレインは2タイプ用意し、4気筒2.5Lガソリンエンジン+シリーズパラレル式ハイブリッドと、2.4Lターボエンジン+モーター駆動のeAxleハイブリッドがある。こちらはデュアルブースト・ハイブリッドと呼んでいて、レイアウトはエンジン>クラッチ>モーター>クラッチ>ミッションというトランスミッション内にモーターを搭載する欧州車におけるオーソドックスなレイアウトのハイブリッドになっている。

そしてプラットフォームはGA-Kを採用するが、そこにはSUV要素をフロント周りでリヤにはセダン要素を踏まえた合わせ技となる進化した初のプラットフォームを使っているという。とりわけ、後輪には4輪操舵のDRSを装備するためにサスペンション形状も新設計した肝入りのサスペンションだ。

おそらく新型レクサスRXと共通化されたものをモディファイしたプラットフォームと想像できる。ホイールベースも共通の2850mmで、パワーユニットもRX500hと同じアウトラインになっている。そうした組み合わせは、コスト削減といった狙いが想像され、北米を中心に販売好調のRXと新規にクラウンシリーズが採用すれば、量販効果が得られるからだ。

21インチタイヤは専用設計

今回試乗できたのは2.5Lハイブリッドだけで、デュアルブーストハイブリッドは近日中に試乗する予定。試乗したら改めてお伝えしよう。システムはシリーズ・パラレル式で、動力分割もわずかながら行なうTHSⅡの進化系ハイブリッドになる。バッテリーはバイポーラ型ニッケル水素電池で、瞬間的な出力はリチウム電池より優れるという説明で、モーターアシストには最適なバッテリーということだった。

装着するタイヤは19インチサイズと21インチがあり、19インチはトーヨー・プロクセスで、21インチはミシュラン・e-プライマシー。ミシュランは専用設計のタイヤを装着している。21インチを専用とした理由について、インタビューしてみると、設計段階からクロスオーバースタイルに見合うタイヤが欲しかったといい理由で、図面までミシュラン側に渡しているという。

求めたタイヤ性能とデザインでは、見た目を重視したフラットなデザインを要求。反面、接地面積が増え、転がり抵抗やロードノイズなどでもマイナス要素になる。そのためミシュランからは何度も断られたという開発苦労話が聞けた。

しかしながら結果として、要求どおりの四角いフラットデザインのタイヤが仕上がり、乗り心地を損ねず、燃費も悪くいない仕上がりになったという。そうしたことからタイヤサイズはボディサイズの割に幅は狭く225/45-21で、独特の専用サイズになっている。時代は省燃費の時代で、タイヤへのトレンドはラウンドデザインだ。その正反対のデザインでラウンドタイプに寄せる性能要求に対し、トヨタ、クラウンだから数量予測が成り立ち、できたことなのかもしれない。

クラウンにふさわしい乗り心地。だが…

さて、実際に試乗に出てみると、21インチタイヤの乗り心地はよく、さすがに大きな段差ではエアボリュームも影響し、強めの入力はあるものの、全体的にクラウンにふさわしい乗り心地に仕上がっている。一方、19インチは21インチと比較すればややマイルドな乗り心地になるものの大きな違いは感じない。言い換えれば21インチタイヤがいい仕事をしているというわけだ。逆に19インチでは大きな段差を超えた時のタイヤ内の空洞共鳴音があり、若干気になるポイントでもあった。

ステアフィールは敏感すぎず、おおらかすぎずに適度な手応えだ。DRSが全車標準装備ということで、速度域によって同位相、逆位相で切れる。切れ角も最大4度までで適値の中で操舵されているという。試乗ルートが市街地と高速道路だったが、DRSによる違和感は全くなかった。このDRSにより、最小回転半径は5.4mと小さく、狭い駐車場などでボディサイズを持て余すこともないだろう。

そのボディサイズは、全長は4930mm、全幅1840mm、全高1540mmで立体駐車場に入るサイズだ。ホイールベースは2850mmでゆったりとした大きさを持っている。開発陣によれば「全席特等席」という表現をつかっていることも頷ける。

エンジンは4気筒2.5Lハイブリッドで、動き出しはモーターで走り出す。40〜50km/h程度まではEV走行するものの、電池容量次第でエンジンがかかったり、かからなかったりする。そして常にAWDとして動き、リヤモーター出力は40kWある。また前後のトルク配分も80%リヤ駆動まで配分変更をしたという。もちろん、走行状況に応じて自動で制御されているため、運転していて気づくレベルではない。

システム最高出力:234PS、最大トルク:エンジン221Nm+モーター(フロント202Nm、リヤ121Nm)、燃費:22.4lm / L(WLTCモード)

エンジンがかかると充電したり駆動したりとトヨタ独自のハイブリッド制御が働き、ベストな走行モードを自動で作り出している。が、EV走行時の静粛性がすこぶる高いため、エンジンが作動し始めた時のエンジン単体から発せられるエンジ音が残念だった。

ダイレクトフォースエンジンはトヨタの最先端のガソリンエンジンで、高速燃焼をすることで、高熱効率の範囲の広さが自慢のエンジン。だが、燃焼音なのか、かなりエンジンの音は気になった。各社からシリーズ式ハイブリッドが多く発売されるようになり、その際、エンジンの存在を消す方向にしているモデルが多い中、トヨタのフラッグシップだからこそ高い静粛性は欲しいと思った。

乗降性へのこだわり

開発陣からのアピールとして後席を含めた乗降性の良さがある。クロスオーバータイプとすることで、シート座面位置を高くすることができ、乗り込みの際、潜り込むような動きではなく、腰掛けるような動きで乗降できる工夫が入っていた。

乗降性の良さでは、サイドシルの処理にもアイディアが詰まっている。乗降時にふくらはぎの裏側がサイドシルに触れてしまうことはままある。そうしたことがないように、新型クラウンはサイドステップがドア側に付いていく処理をしており、足を踏み出したときにサイドステップがない状態なので、ふくらはぎが触れてしまう心配がない工夫が入っていた。

インフォテイメントでは、大型モニターがセンターにあり、ナビ情報は非常にみやすい。エアコン類のスイッチはモニター階層内には収納せず、スイッチを別途設置しているので操作しやすい。メーターはフル液晶のデジタル表示なのでさまざまな情報を選択・表示することができる。

ステアリングにはACCをはじめ電話のスイッチなどの機能ボタンが装備されているが、他車との共有化が進んでいるためか、小さめのアイコンサイズのイラストが書かれていた。

このように、既存概念を覆す取り組みによってクラウン・クロスオーバーは誕生した。新しいクラウンとしての価値を提供する挑戦をしていることは高く評価できよう。ノスタルジックな「クラウンとは」からの脱却にはユーザーからの批判もあると想像するが、クロスオーバーデザインを「クラウン」と命名したことが最大の挑戦と言えるのだ。

ポッドキャスト

新型クラウンクロスオーバーをフィーチャーしたラジオ番組 FMヨコハマ「THE MOTOR WEEKLY」はポッドキャストからもお聴き頂けます。

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