2023年2月23日、富士スピードウェイでスーパー耐久シリーズ2023の富士24時間耐久レースにのための公式テストが行なわれた。ここでSTQクラス(自動車メーカーの車両開発のための無制限クラス)に出場するルーキーレーシングはGRカローラ H2 コンセプトに液体水素を投入した。
周知のように豊田章男氏が率いるルーキーレーシングはこれまでGR カローラ H2 コンセプトには750気圧という高圧の圧縮水素を採用しており、リヤシートのスペースに4本(合計180L)の高圧タンクを積み上げるというレイアウトであった。
この水素を燃料とし、ターボで高過給圧として使用していた。様々なエンジンの改良により、ラップタイムは、レース用の1.5L自然吸気エンジンレベルになっているが、解決できないのは走行距離の少なさだ。約55kmの走行距離で170L程度の水素ガスを消費しており、どうがんばってもガソリン・エンジン車の半分の航続距離であった。
水素の欠点は体積当たりのエネルギー密度が低く、常圧の水素ガスの体積当たりのエネルギー密度は1.0Lあたりでは天然ガスの約3分の1、ガソリンと比較すると約2900分の1の熱量しかない。そこで水素を超高圧に圧縮してより多く搭載していた。
しかしそれも限界があり、次の手段として水素を液化、つまり液体水素の状態で搭載しようというわけだ。水素は-253度で液化すると、体積は1/800 に減少し、より多くの水素を搭載することができる。このことから、2006年頃に開発されたBMWのハイドロジェン7でも当初は圧縮水素、最終段階では液体水素を採用していたのだ。
富士スピードウェイに持ち込まれたGRカローラ H2コンセプトの液体水素タンクは、当然ながら圧縮水素のタンクより大幅にコンパクト化されている。充填できる量は、これまでの圧縮気体水素の約1.7倍となる。
ただし液体水素を搭載しているため、エンジンに送り込むためには液体水素を熱交換器で気化させる必要があり、圧縮水素よりひと手間かかるのだ。
なお、液体水素のタンクは積層真空断熱方式と推測され、これは超高級な魔法瓶といえる。内槽を真空で取り囲むことで熱侵入を防ぐもので、さらに金属反射膜と断熱シートを交互に多層化したものを真空層の外側に配置しているのであろう。
当然ながら、液体水素を補給するためのタンクローリーも超大型の魔法瓶を搭載している。また、液体水素は圧縮された水素ガスを冷凍機の中で循環させる冷凍サイクルを繰り返すことで液化される。従来のような超高圧化するためにも大出力の電動圧縮機で圧縮を行なっているが、液化サイクルでも相当な電力を使用する。
実戦投入される液体水素を使用するGRカローラ H2コンセプトの航続距離は少なくとも従来の1.5倍程度に伸びると予想される。また、運搬用ローリーが従来より小型化され、700気圧に昇圧する設備も不要になるため、ステーションの専有面積は従来と比較して4分の1程度に縮小される。よってガソリン車同様にピットエリアで燃料が充填できるようになるため、燃料補給時間もかなり短縮されることになるだろう。