2代目となるトヨタ・オーリスの開発者によるプレゼンテーションでは、「カッコよくて走りのいい1台」、「わくわくするスポーティ・デザイン、欧州車を凌駕する走り」という説明が行われた。ごく単純に作り手の意図を要約して表現すれば、この通りだろう。初代オーリスが2006年の登場で、今回のニューモデルは2代目となる。
オーリスの源流はカローラ・ハッチバックで、つまりカローラをベースにした2ボックス・ハッチバックであり、メイン・マーケットはヨーロッパとされている。日本市場において、国産のCセグメントのハッチバックは、大きな販売が期待できないという定説が根付いており、必然的に開発の視線はCセグメント・ハッチバックの主戦場であるヨーロッパを向かざるを得ない。したがって、オーリスはグローバルカーというよりはヨーロッパ適合車といえる。しかし、ヨーロッパではこのカテゴリーは超激戦地で、その中で確固としたポジションを得るのは、そうたやすいことではないともいえる。
↑1.8Lエンジン搭載のRS ↑1.5Lエンジン搭載の150X
その一方で、トヨタの開発体制も最近は大きく変化している。2012年春からは「コックピット企画室」、「ドライビングプレジャー推進室」といった、従来にはなかった開発組織横断的な企画セクションが新設されるなど、「もっと魅力あるクルマ造り」を目指す新たな試みが始まっている。
そうした点で見ると、新型オーリスは新しいクルマ造りの動きの中での第1作にあたるわけだ。デザイン面でも新たな動きが見られる。「キーンルック」と名付けられた、トヨタ・デザインの新たなテーマ表現が決定され、まず最初にトヨタ86にその要素が一部取り入れられたが、今回のオーリスが正式版・第1号となるのだ。
キーンルックは、鋭敏、かつ知的で明晰な印象を与えるデザインという意味で、グローバル展開するモデル、特にヨーロッパ向けのモデルに採用され、新しいトヨタの顔となるのだという。つまりは平凡で特徴の薄い顔を捨てて、より強い個性的なマスクにするということだ。
↑バルブマチック搭載の2ZR-FAE ↑1.5Lの1NZ-FEエンジン
そういう目で見ると新型オーリスの表情は確かに印象が強い。しかし、その一方でロアグリル下のクロームやリヤエンドの抑揚の強い面処理は、やや装飾的過ぎるような感じもする。またボディサイド部のボリューム感、ソリッド感が物足りない。その一方で、インテリアの仕上げはカローラと比較してはるかにまとまりがよく、質感も上で、うまくスポーツ・テイストも盛り込まれているのは好ましい。
パッケージングは妥当だ。リヤハッチを開けるとラゲッジスペースの仕上げも期待以上の質感に仕上げてある。
新型オーリスのグレードは、150X、180G、RS、150X・4WDというシンプルな構成で、150XにはCパッケージ、Sパッケージが、180GとRSにはSパッケージが設定されている。
150Xは1.5L(1NZ-FE)を搭載したベースグレードで、180GとRSには1.8L(2ZR-FAE)を搭載。トランスミッションは進化版CVTで、RSのみは6速MTだ。つまり基本コンポーネンツはカローラ系と共通なのだが、プラットフォームは異なり、新型カローラはBプラットフォーム、オーリスは海外向けカローラ用などと同じ新MCプラットフォームだ。そのためカローラはヴィッツなどと同様にトヨタ東北で生産されるにに対し、オーリスは高岡工場で生産される。
試乗は150X、1.8Lエンジンを搭載する180G、最もスポーティなRSの3台。
日本ではオーリスのライバルとして想定されるのは、マツダ・アクセラ、スバル・インプレッサだが、開発メンバーはやはりヨーロッパにおけるフォード・フォーカスをベンチマークにしている。そのため、ヨーロッパ各国の道路をかなり走り込んで熟成したという。
オーリスはフォード・フォーカス同様にスポーティなフィーリングを重視していることもあって、ハンドリングの俊敏性、レスポンスを最優先し、そうした点でリニアなフィーリングを目指すアクセラやインプレッサなどは少し異なったテイストになっているし、Cセグメントの頂点のVWゴルフとも異なるわけだ。
150Xのタイヤは195/65R15、RSは205/55R16または225/45R17、180Gは205/55R16とグレードによりタイヤが異なり、リヤ・サスペンションも150Xはトーションビーム、1.8L搭載車と150X・4WDはダブルウィッシュボーン、ステアリングギヤ比も1.8L車は15を切るクイックギヤ比にしている。しかし、その設定ごとにフィーリングはそれぞれ違いはあるにせよ、ステアリングを切ったときの反応がダイレクトという方向性は共通している。
操舵感もスムーズで、これはカローラ系と共通のコラムアシスト式電動パワーステアリングだが、ブラシレスモーターを採用し、フリクション感を抑え込んでいる。
ダンピングも強めで、いわゆるスポーティ感は十分だ。ただ、やはり直進状態でのニュートラルの落ち着きが、特に市街地走行状態で不足気味な点が惜しまれる。この点は長距離ドライブでの疲労に結びつきやすいと思う。また、乗り心地は、固めではあるがフラット感がある。贅沢を言えばもう少ししっとりとした味が欲しい気がする。
↑RSのイスツツメントパネル ↑スポーティ感のあるRSのシート
ドライビングポジション、シートへの体の収まり具合もしっくりしており、オーリスのコンセプトに合致している。また操作系全体も体になじみやすく好感が持てた。
従来のトヨタ車と大きく変わっているのがブレーキのフィーリングだ。ダイレクト感が高められ、踏力に比例したリニアなフィーリングで、高速でも低速でも扱いやすくなっていることが感じられた。
1.5Lエンジン、バルブマチックを備える1.8Lエンジンのいずれもカローラと共通で、CVTトランスミッションはスーパーCVT iを装備する。カローラとは異なり、加速時制御を採用し、さらに1.8L車はステップ変速制御、走りに合わせるアダプティブ変速制御のG AI-SHIFTを採用し、レスポンスのよいATのようなフィーリングをつくり出している。なお、このCVTは1.5L用は変速比幅が5.8、1.8L用は6.2で、乗り比べてみると1.5L用は平凡で、1.8L用が断然優れているといえる。
エンジンのフィーリングは1.5Lエンジンはフラットであるが、やや加速感が物足りず、標準的なベースエンジンという感じだ。一方の1.8Lは吹け上がり感、トルク感ともにオーリスにふさわしい感じがするが、RSという名称を考えるともう一味欲しくなる。また、アイドリングストップは、1.5Lのみにオプション設定されている。
RSには6速MTが設定され、この6速MTがヨーロッパ・モデルでの標準仕様となる。操作フィーリングは軽く軽快だが、6速で100km/hが2600rpmというギヤリングはあまりに現在の感覚からいって加速性能重視すぎると感じられた。
一方、180Gは7速スポーツマニュアルモード付きのCVTと組み合わされるので、むしろこちらの方がよりよい組み合わせといえる。
新型オーリスのステアリングを握ってみると、トヨタのクルマ造りが変わりつつある、まさにそのプロセスの真っ只中でつくられていることが実感できた。またオーリスの目指すコンセプト、方向性と実際のクルマの仕上がりがシンクロしていることも十分実感できた。