2017年4月1日~2日、イタリアのモンツァ・サーキットで2017年世界耐久選手権(WEC)のレースに先駆け、公式合同テスト(プロローグ)が行なわれ、今シーズンが動き出した。そして、プロローグに先立ち、LMP1ハイブリッド・マシンのトヨタGAZOOレーシングの2017年型マシン「TS050 ハイブリッド改良モデル」、ポルシェの2017年型「919ハイブリッド」がベールを脱いだ。
■トヨタTS050改
2016年型と同じ「TS050 」の車名を受け継いでいるが、もちろんエクステリアの空力性能、エンジン、ハイブリッド・システムなどは大幅なアップデートを受けている。ただし8メガジュール・クラスの変更はなく、システム出力1000psを目指している。
2.4L V6ツインターボ・ガソリンエンジンは、シリンダーブロック、シリンダーヘッドなどの主要部品を全面的に設計変更し、圧縮比が高められ、一段と熱効率の向上が図られている。高圧縮比、より急速な燃焼、より広範囲での理想空燃比を目指しているのだ。
またターボもA/R比と翼形を変更し、よりレスポンスの良い過給特性にしている。また、インタークーラーも冷却性能が高められているという。こうしたエンジンの改良により、パワーと燃費性能をさらに向上させることを目指しているのだ。
ハイブリッド・システムは、新しい小型モーター/ジェネレーター・ユニットと、より高性能なリチウムイオン・バッテリーを採用。軽量化と、減速時のエネルギー回生と加速時のモーターアシストの速さを向上させている。
■新レギュレーションに対応
2017年からレース規則が変更されダウンフォース低下のために、フロントのリップ・スポイラーの位置が15mm高められ、リヤではディフューザーの開口面積が狭められることになっている。新車両規則では、この変更によりル・マンのコースで1周4秒遅くなると想定している。このため、この新規則の中で、いかにダウンフォースを確保するかがボディ空力性能の最重要ポイントになっている。
またボディ・タイプも従来は3種類まで用意できたが、2017年からは2種類に制限され、ハイ・ダウンフォース仕様とル・マン24時間用のロー・ダウンフォース(低空気抵抗仕様)の2種類となる。
トヨタの東富士研究所での空力シミュレーション、風洞実験を経て、2017仕様のデザインが完成し、モンツァにはル・マン24時間仕様を持ち込んでいる。
■トヨタGAZOOチーム
今シーズンは、念願の3チーム体制が実現した。アウディが撤退した今シーズンは、トヨタとポルシェとの一騎打ちで、なんとしてもル・マンでの優勝を実現するために必須の体制なのだ。3台体制となるのはシリーズ第2戦のスパ6時間レースと第3戦のル・マン24時間レースだ。
車番は7、8、9号車で、7、8号車がフル参戦となる。ドライバーは7号車が小林可夢偉とマイク・コンウェイ、新たにホセ・マリア・ロペスが加わる。逸材のロペスが加わり、ドライバーのポテンシャルは高まったといえる。
8号車は、中嶋一貴、セバスチャン・ブエミ、アンソニー・デビッドソン。そして9号車がベテランのステファン・サラザンをリーダーに、国本雄資、ニコラス・ラピエールという組み合わせだ。ドライバーの詳細はこちら。
なおチームはこのプロローグより前にスペインのアラゴン・サーキットで十分な走り込みを行ない、耐久・信頼性をチェックしている。
■ポルシェ919ハイブリッド
ポルシェも2016年同様のモノコックフレームを使用し「919ハイブリッド」という車名を踏襲しているが、もちろん大幅にアップデートされている。ポルシェもボディ空力性能、サスペンション、エンジンに手を加え、60~70%が新設計になっているという。
特にボディは全面的に新設計となり、ル・マン24時間レース用とハイダウンフォース仕様を用意している。また前年まで使用していたラバー付きのフロント・リップスポイラーは使用できないため、より効果的なダウンフォースを得られるようにフロントエンドの底面をデザイン。
フロントのフェンダー部は昨年より高く、幅広で前後長も長くされた全く新しいデザインになっている。ボディサイドの形状、サイドラジエーター・インテーク形状も一新された。
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エンジンは従来通り2.0L・V型4気筒で、エンジンのみで500psを発生する。この直噴ターボ・エンジンはポルシェ製エンジンとしては空前の高い燃焼効率を達成しているという。
ハイブリッドシステムは、フロントはブレーキ・エネルギー回生と駆動を行なうモーター/ジェネレーター、もうひとつは排気エネルギーを使用しターボと同軸で回転する発電機により排気エネルギー回生システムを持つ。リチウムイオン・バッテリーに蓄えられた回生電力により、オンデマンドで前輪が駆動され、モーターによる駆動アシストパワーは400ps以上とされ、システム総合出力は900psプラスアルファだ。
なお回生エネルギーは、前輪のブレーキ回生が60%、エンジンの排気エネルギー回生が40%だという。また前輪のモーターにより全ブレーキエネルギーの80%が電力に変換されるので、フロントブレーキは軽量コンパクトなサイズが採用されている。
排気エネルギー回生は、最高12万回転以上の可変ジオメトリーターボに追加された発電機により得られ、加速中でもエネルギー回生が得られるのがトヨタTS050との違いだ。なおポルシェも8メガジュール・クラスのため、ル・マンの13.629kmのコースを走るのに4.31Lのガソリンを使用する。燃費は3.162km/Lだ。
2017年型919ハイブリッドは、ハイブリッド制御システム、トラクション・コントロールのソフトウェアも大幅にアップグレードされ、これはタイヤの摩耗寿命を向上させることに繋がる。なぜなら、2017年はレース・ウィークで3セットのタイヤしか使用できない規則となり、つまりは1セットのタイヤで2スティントを走破する必要があるので、タイヤの摩耗を抑えるトラクションコントロール、サスペンションが求められる。
またこの結果、ドライバーは連続1時間半の運転が求められるので、ドライバーの疲労を軽減することも重要になることは言うまでもない。
■ポルシェ・チーム
ポルシェは、2カー体制でシーズンを戦う。1号車はニール・ジャニ、アンドレ・ロッテラー、ニック・タンディ、2号車はティモ・ベルンハルト、アール・バンバー、ブレンドン・ハートレーの組み合わせ。マーク・ウェーバー、ロマン・デュマ、マルク・リーブが抜けてアウディで実績をあげているロッテラーが加わったことはプラス材料だ。
チームは、プロローグ以前に、ポールリカール、アラゴンで入念な耐久テストを行なっているが、モンツァにはル・マン用のローダウンフォース・ボディで登場した。第1戦のシルバーストン6時間レース用のハイダウンフォース用のボディは、まだ秘密だという。
■2017シーズンと今後の展望 プジョーの参戦は実現するか?
2017年のWECは文字通りトヨタとポルシェの一騎打ちで、ポルシェは3年連続チャンピオンを狙い、トヨタはチャンピオン獲得はもちろん、悲願のル・マン24時間レース制覇を目指し、ようやく3カー体制を整えることができた。予算的にはかなりギリギリでの決断だったといわれるが、ル・マンでの勝利を最優先したことを意味している。
トヨタは2016年のル・マン24時間では最後の土壇場で勝利を逃したが、今年はポルシェの2台だけをターゲットに絞ることができるので、絶好のチャンスが来たと考えるべきだろう。
なお、FIAはトヨタ、ポルシェと協議し、2019年までは現状のカーボン製モノコック・フレームをそのまま使用することで合意している。これはLMP1クラスのワークスチームが過大なコスト投入しないようにという配慮だ。
さらにFIAは、WECへの復帰を望んでいるプジョーの要望に答え、LMP1クラスのハイブリッド・システムの大幅なコストダウンを目指す規則を検討しているが、トヨタ、ポルシェは将来の市販車両に直結する現在のハイブリッド・システムの維持を求めており、コスト削減策は先行き不透明だ。