2016年7月8日、トヨタ東京本社のエレベーター8台のうち2台が停止された。館内冷房の設定温度も引き上げられた。エレベーターを止めたのは、無駄を抑え、競争力を高めることを社員にあらためて意識してもらうためだという。
トヨタは2016年下半期の部品取引先から購入する部品価格の値下げを行なう方針を決め、主要部品メーカーへ提示を始めたと中日新聞は伝えている。円安期間の2014年度下半期と15年度上半期は、取引先の賃上げに協力するため値下げ要請を見送っているが、2015年下半期からは再び部品値下げ要求を開始しており、今回の値下げ要請決定により一段と購入コストカット方向に舵を切った。
2016年8月4日、トヨタは2017年度第1四半期の決算を発表した。そして2017年3月決算の利益が大幅に落ち込むとの見通しを発表。営業利益は前年比40.4%減の1兆7000億円と見込んでいる。減益は5年振りとなり円高に転じた為替の影響が極めて大きい。2016年3月の決算は過去最高益を更新していたが、一転して厳しい見通しとなったのだ。
もちろん円安によりトヨタだけではなく日本の自動車メーカーは軒並み過去最高売り上げ、過去最高の営業利益を記録しており、円高への転換で営業利益が大きく低減しているのは日本の自動車メーカー共通の課題である。
為替レートは、1円円安になるとトヨタは400億円の為替益が生じると言われるが、2017年度3月見通しでは為替変動の影響で利益が9300億円程度減少するというわけだ。これまで過去最高の売り上げ、過去最高の利益を上げていたが、一転して潮目が変わったのだ。
第1四半期の決算発表では、グローバルでの生産台数、販売台数に大きな変動は見られないが、円高による為替要員での大幅減益は明確だ。グローバル販売台数では、206年1~3月期にフォルクスワーゲン・グループは250万台をオーバーし、トヨタを抑えて世界No1に躍り出ている。フォルクスワーゲン・グループは、アメリカでの不振、南米の経済停滞などにより販売台数を減らしているが、世界最大の市場である中国で大幅に躍進したのがトップを奪った要因だ。
■ トヨタの抱える課題
しかし、為替変動による営業利益の減少といった問題はある意味では企業の問題ではなく、政府の経済政策に振り回された結果と見ることができる。そして、グローバルでトップの座を争うトヨタにとってはいくつかの問題を抱えている。
1番目は中国での車種展開だ。中国市場において日系メーカーの中では日産の後塵を拝しているが、最近の販売では中国を含めたアジア市場で、順調な伸びを見せている。しかし中国政府の新自動車エネルギー政策では、せっかく現地生産を開始したプリウス・ハイブリッドが政策の適用外となってしまい、新たにEV、PHEVの展開を行なう必要が出てきたのだ。
当然ながらその主役となるのは新型プリウスPHVだが、そのためには新たにリチウムイオン・バッテリーの現地生産を計画する必要がある。日本国内でもリチウムイオン・バッテリーの生産は一番の課題となっているだけに中国での現地生産はできるのか。
2番目は、長年の課題となっているヨーロッパでのブランド構築の過大だ。これはトヨタ・ブランド、レクサス・ブランドのいずれもイメージが弱いのだ。レクサスはヨーロッパで好調で2016年1~6月の販売台数は3.6万台(前年比116%)と発表されているが、日本での販売の1.3倍程度。トヨタ・ブランドもBセグメントがメインで、Cセグメントでは苦戦が続いている。
■モータースポーツで巻き返せるのか
こうした背景もあって、ヨーロッパでF1グランプリ以上に人気が高い世界ラリー選手権(WRC)に2017年シーズンからトヨタ・ヤリスで参戦する。トヨタとしては1999年以来17年振りのWRC参戦となる。しかし、2017年WRCは、現在王座を守っているフォルクスワーゲン・ポロWRCに加え、強敵のシトロエンが再びカムバックするので、この3メーカーによる激戦となると予想される。
もちろん、ポロWRCはフォルクスワーゲンR社が開発・運営するワークス・チーム、シトロエンC3 WRCもシトロエン・ワークスチームが早くから準備している。もちろんトヨタも2015年のWRC復帰宣言以来、TMGで新しいラリー用1.6Lターボエンジンを開発し、車両はトミー・マキネンが率いるフィンランドのトミー・マキネン・レーシング(TMR)で行なわれている。しかし組織的にはフォルクスワーゲンやシトロエンとは異なり、トヨタ直轄部門ではなくアウトソーシングの形態で、その実力のほどは今後明らかになる。
こうしたモータースポーツ活動で、ヨーロッパにおけるトヨタブランドのイメージアップ、販売促進につながるのか?期待を込めて見つめたい。