2016年6月18~19日、世界耐久選手権(WEC)第3戦、ル・マン24時間レースが開催された。レース中盤からトップを守り切り、最終周を迎えた。誰の目にもトヨタのル・マン初勝利は確実と思われたが・・・
今回の24時間レースは、公式予選から異変が続いた。天候は予選1回目こそドライだったが、その後は雨が降り、けっきょく1回目のタイムでスタートグリッドが決まり、ポルシェ2号車がポールポジションを獲得。1号車は2番手、トヨタは6号車が3番手、5号車が4番手となった。アウディはベストタイム時に1周あたりの燃料流量がオーバーと判定され、5番手、6番手に終わっている。
■決勝レース
26万3000人の観衆が詰め掛けた土曜日の午後3時に決勝レースのスタートは。強い雨に見舞われ、そのためセーフティカーが先導する形でレースが開始された。そして雨足が弱まった8周目に本格的なレースが開始された。3番手からスタートしたトヨタ6号車は猛チャージを見せトップに浮上。他車は早めにレインタイヤからスリックに交換するためにピットインしたが、トヨタはピットインを遅らせ、給油だけのピットストップ作戦とした。
序盤にトップに立ったアウディ7号車は大きく遅れた。予想だにしなかったターボの交換のために25分を費やし、大きく後退。しかし残る5台は4時間を終えた時点でも2分以内で首位争いを展開しており、ピットタイミングで順位が変動していた。また、夜間にはトヨタ6号車がコースアウトするなどによりトップグループから遅れ、アウディの期待を担った7号車は予期しないブレーキディスクのトラブルにより、トップ争いから去っていった。
さらにポルシェ1号車は、これまでにないウォーターポンプの交換を強いられ、長いピットストップとなったため、残りの時間は完走を目指して走り続けることになる。
こうした結果、夜が明けてからはトヨタ5号車とポルシェ2号車、そして少し遅れてトヨタ6号車の戦いとなった。レースも残り3時間の時点で同一周回はトヨタが1位と3位を走行し、2番手がポルシェ2号車の3台。トップのトヨタ5号車と2番手のポルシェ2号車の差は約30秒だ。しかし残り20分の段階でポルシェ2号車はタイヤのスローパンクが発生し、緊急ピットイン。タイヤ交換を行なった。
この結果、トヨタ5号車とポルシェ2号車の差は1分半に広がり、トヨタのトップの座はもはや安泰かと思われた。しかし、最後の8分間でトヨタ5号車には残酷な悪夢が突然発生した。ユーノディエールの直線路を走行中、5号車は突然200km/hのスピードリミッターが作動し、ペースダウン。ピット前に戻る直前にはさらにペースが落ち、ついにピット前でストップしてしまった。トヨタ5号車はその後のろのろと動き出しコースを1周したが、周回タイムオーバーで失格となった。トヨタ5号車のトラブルの原因はエンジンの過給圧制御にトラブルが発生し、フェールセーフモードに切り変わったといわれている。
そしてポルシェ2号車はあっという間にトヨタ5号車を抜き去り、18回目の2年連続のル・マン24時間レース制覇を成し遂げた。
今回のレースは優勝を目前にしたトヨタの悪夢だけでなく、ポルシェもアウディもこれまでにはなかったトラブルが続発するなど、改めてル・マン24時間レースの過酷さ、難しさがクローズアップされたレースとなり、恒例の最終周のパレードラップさえ見ることはできなかった。
■代表インタビュー
ポルシェ社 フリッツ・エンツィンガー(LMP1担当副社長):「まず、今回のレースでトヨタが見せた感動的なパフォーマンスに対して敬意を払いたいと思います。彼らとは素晴らしい戦いができました。フィニッシュ直前まで、私達は2位になるだろうと思っていましたが、突然にル・マン2連勝を獲得することになりました。ヴァイザッハのすばらしいチーム、ここル・マンのチーム、そしてポルシェの従業員全員およびファンの皆様のサポートに感謝します」
佐藤俊男 TOYOTA GAZOO Racingチーム代表:「昨年から今回のル・マン24時間レースに向けて必死に努力を重ねてきたチームをとても誇りに思います。また、トヨタ東富士研究所、ケルンのTMG関係者の方々には深く感謝を申し上げます。昨年の雪辱を果たすために皆が短時間で競争力のある新型シャシー、パワートレーンを開発してきたことには胸が熱くなりました。我々はチーム一丸となって今年もル・マン24時間レースに臨みました。今日の結果については言葉に表すことができません。一言で言えば“無念”かもしれませんが、我々は勝利の固い決意の元に、更に強くなってここに戻ってくることを誓います」
アウディモータースポーツ代表 Dr. ウォルフガング ウルリッヒ:「残念ながら、すべてが順調に運ぶというシナリオは、用意されていませんでした。今回のル・マンでは、このレースがなぜ世界で最も厳しいレースと呼ばれているのかを改めて認識しました。2台とも完走させたチームを誇りに思いますが、望んでいた目標には届きませんでした。2年連続で優勝を遂げたポルシェチームには、心からお祝いを述べさせていただきます。我々と同じく18回目の参戦となったトヨタチームが、素晴らしいレース展開の末に、最後の所で勝利を逃してしまったことが、いかにル・マン24時間レースで優勝することが難しいかを物語っています」
なおLMP2クラスは、日産・エンジンを搭載するアルピーヌA460が優勝し、ルノー・アルピーヌのブランド立ち上げの前途を華麗に祝福した。またLM GTE Proクラスではフェラーリ488GTEと激戦を繰り広げたフォードGTが1、3、4位を占め、1966年のフォードGT40の1、2、3フィニッシュから50周年を飾っている。