【ニュース読み解き】トヨタのEV用バッテリー戦略公表で株価上昇

トヨタは2023年5月15日付けで、FCEV、EVの開発を行なってきた小規模のZEVファクトリーを廃止し、次世代EVの開発を担当する「BEVファクトリー」を新設している。

BEVファクトリーは、開発・生産・事業すべてのプロセスを一貫して担当し、スピーディな意思決定と実行を実現させる組織に位置付けている。

つまり海外(北米・中国・欧州など)のBEV普及地域のニーズと市場動向の調査、ウーブン・バイ・トヨタの知能化の最新技術を取り込み、そしてサプライヤーとの新技術・新工法を用いた新たなモノづくりなど、すべてが一体となる横断的な組織体制としているのだ。

これは、ようやくトヨタがEVの開発を重視し始めたことを物語っている。

EV用バッテリーの開発ロードマップ

カーメーカーを取り巻くバッテリー事情

2023年6月13日の技術説明会では、EVの開発から、生産技術まで幅広く説明が行なわれたが、中でも焦点はバッテリーについての戦略だ。いうまでもなくEVはバッテリーを抜きにした戦略はありえないからだ。

トヨタはEV用のバッテリーは、中国では世界最大のバッテリーメーカーのCATLと提携しているが、国内ではトヨタとパナソニックの合弁である「プライム プラネット エナジー&ソリューションズ(PPES)」に依存しており、北米では、現在アメリカで建設中のバッテリー生産工場も豊田通商との合弁事業で、内製化の方針となっている。

このことからも分かるように、EVシフトを進めている多くの自動車メーカーは、CATL、サムスン、LGなど中国、韓国のバッテリー大量生産メーカーと提携しているが、トヨタは独自路線を進む選択なのである。

また、アメリカにおける自国保護のグリーンエネルギー化を推進するIRA法のもとでアメリカにおけるEV車両とバッテリー生産が余儀なくされ、その決定はライバル社より後発となっている。

こうのようにBEVファクトリーが新設されたものの、課題は少なくない。こうした状況の中で、トヨタはどのようなEV用のバッテリー戦略を描いているのかが、技術説明会で披露された。

注目はリチウムイオンのバイポーラ構造

トヨタは2026年に新世代のEVを導入する計画で、それに合わせてバッテリーにも新技術を投入するという。

メインは従来からの3元系(ニッケル、マンガン、コバルト:NMC)の角形バッテリーのエネルギー密度を向上させ、現在のレベルよりパフォーマンスを高めたものだ。

そして同時に、ハイブリッド用に開発してきたニッケル水素バッテリーのバイポーラ構造をリチウムイオン・バッテリーにも採用することでパフォーマンス性を追求するという。

注目すべきは、そのバイポーラ構造のリチウムイオン・バッテリーは、従来の3元系リチウムイオン・バッテリーではなく、リン酸鉄(LFP)系のリチウムイオン・バッテリーを想定していることだ。

リン酸鉄系のリチウムイオン・バッテリーは、エネルギー密度はやや低いものの熱暴走が起こりにくく、安全性が高い。しかもコストが安いという特徴がある。

しかし、このリン酸鉄系のリチウムイオン・バッテリーの開発・生産は中国のBYDやCATLが先行しており、日本での生産は極少量なのだ。

トヨタは、このリン酸鉄(LFP)系のリチウムイオン・バッテリーを開発し、さらにバイポーラ構造に挑戦しようとしている。

ハイブリッド車向けのニッケル水素のバイポーラ構造化においても大量生産が難しく、現状では高コストである。

リン酸鉄系のリチウムイオン・バッテリーのバイポーラ構造は、製造技術での大きな挑戦になるが、2026〜2027年に実用化を目指しているのだ。

プライム プラネット エナジー&ソリューションズ製の高性能EV向けの3元系の角形リチウムイオン・バッテリー

バッテリー開発に挑戦し続けるトヨタ

トヨタは次世代バッテリーでは、3元系の角形リチウムイオン・バッテリーを高性能モデル向けとし、バイポーラ構造のリン酸鉄系のリチウムイオン・バッテリーはより低コストを実現する普及版と位置付けている。

その角形リチウムイオン・バッテリーは従来通りプライム プラネット エナジー&ソリューションズ(PPES)が担当し、バイポーラ構造のリン酸鉄系のリチウムイオン・バッテリーはトヨタと、バイポーラ構造のニッケル水素バッテリーを生産する豊田自動織機が担当する。

さらに次の2027年〜2028年を目標に、3元系の高性能型リチウムイオン・バッテリーもバイポーラ構造にする高性能版バイポーラ構造リチウムイオン・バッテリーにも挑戦するとしている。

豊田自動織機と共同開発中の全固体リチウムイオン・バッテリー

また、一方で全固体リチウムイオン・バッテリーも豊田自動織機とトヨタで開発を進めている。

安全性が高く、高出力の究極のリチウムイオン・バッテリーと喧伝された全固体バッテリーは、トヨタだけでなく各自動車メーカー、各バッテリーメーカーが開発を競っている。

期待される全固体電池には致命的な課題も

しかし、高性能な全固体バッテリーは、じつは現状では致命的な問題があり、固体電解質の耐久性が低く、亀裂が入りやすい性質があることと、固体電解質の量産が難しいなどの大きな課題を抱えている。

一方で、日産は2024年頃には横浜工場内に全固体電池のパイロット・プラント(量産向けの実証生産ライン)を立ち上げて量産のための研究・開発を行ない、その成果をベースにして2028年度中に本格的な量産体制を整えるとしている。

また、ホンダは2024年春にはパイロット・プラントを栃木県さくらR&Dセンターで立ち上げるとしているのだ。

トヨタは現在、量産に向けた製造法を開発中としており、2027〜2028年の実用化にチャレンジする。

つまり、全固体電池では、特にトヨタが突出しているわけではなく、日本の各社はほぼ横並びの状態にあるということができるわkだ。

このように技術説明会では、トヨタは次世代EVのために全方位で開発を進めていることをアピールした。

その効果は絶大で、トヨタの株価は1600円台で低迷気味であったものが、今回の説明会後はぐんぐん上昇し、現時点では2300円を超えている。

数日間で800円近く急上昇したわけであるから、今回の技術説明会は大きな成果を生み出したということができる。

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